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第1話 招かれざる訪問者


 旧王国領と呼ばれる地域の中でも北部の中心的な都市とされるナデシコ。

 その町の中心にそびえるナデシコ城の城主スティーリアは、目の前に置かれた書類の山を見てため息をついていた。


 書類の内容としては、主に王国復興委員会解散に関するものと通常業務で回ってくる報告書などだ。

 いつもの倍はあろうかという書類を前にスティーリアは、大きくため息をつくしかなかった。


「ため息つきすぎると幸せが逃げるって知ってる?」


 突如、かけられた声に驚きながら振り向くとそこには、腰ほどまで伸びている黒い髪と黒い瞳、褐色の肌が特徴的な少女が立っていた。


「あなたは……」

「別にあんたが負けたからどうするというわけじゃないよ。ただ、委員会を解散するっていうから引き留めに来ただけ」

「わざわざご足労されたというのに申し訳ございませんが、私の意志が変わることはありません」


 スティーリアの答えに少女があからさまに残念そうな顔をした。


 つくづく顔に表情が出やすい奴だ……


 こんな少女がトップ6の犬などとは到底思えない


「そうそう。一応言っておくけど、上は今回の件は不問にするといっている。理由は大体わかってるんじゃないの?」

「えぇ。北上(きたがみ)牡丹(ぼたん)でしょ?」

「さすがは、北上(りょう)様と一緒に過ごされたお方だ。頭の出来が違う」


 半ばばかにしたような口調でそう言ってのけた少女は、部屋に置いてあった机に腰掛ける。


 トップ6の実態をある程度知る人間は彼らのことを“日本人至高主義者”の集団だという。

 スティーリアも例外ではなかった。利害が偶然一致したからこそ、協力していたのだが、トップ6に所属する日本人はこちらの人間をかなり下に見るし、みなそうなのだと思っていた。


 しかし、あの少女……北上牡丹とその仲間は違った。

 こちらの世界の人間と行動し、互いに助け合っていたのだ。

 これを新鮮に感じるのは、スティーリアがトップ6に所属していない日本人と接触していなかったからかもしれないが……


「まぁいいわ。我々の存在については他言無用。ただそれだけよ」

「えぇすべては、異界に迷いし人々のために」


 少女は、煙とともにその場から消えた。

 スティーリアは、少女が立っていたあたりをしばらく眺めていたが、何かあるというわけでもないので書類が山積みとなっている仕事用の机のほうへ戻る。


「はぁ視察とか言って少し町に降りようかしら」


 そんなことをつぶやいてみるが、すぐにそれを振り払う。

 これまで何度も城を抜け出しているのだ。正面から行ったところで許可が下りるわけがない。


 スティーリアは、自分の執務室のすぐ裏にある隠し部屋へ入り、手早く着替えた。


 いつも来ているのとは違う地味で質素な服を着て、空色の髪が目立たぬようにバンダナをまいた。


「これで良し」


 鏡の前で恰好を確かめた後、魔法を使って城から抜け出そうとしたまさにその時である。


「スティーリア様。どちらへ向かわれるおつもりですか?」


 何かを察したのだろうか?

 いつの間にかトパーズが、スティーリアの背後で仁王立ちしていた。


「いえ……ちょっと楽な恰好がしたくてね、別に町に出ようなんて考えては……」

「いるんですね?」


 トパーズが鬼のような形相でスティーリアをにらむ。


 よりによって厄介なのに見つかってしまった。


 トパーズは、伝統や規律などを重んじる人間だ。

 彼女に言わせれば、自分が町に降りて住民と交流するなどありえないことなのだろう。


 その証拠に彼女の眼は、問題を起こそうとしている上司を止めている人間の目ではなかった。


「わかった。城から抜け出したりしない」

「本当ですね?」

「本当だ」


 しばらく、スティーリアの表情を見ていたトパーズだったが、10分ほどすると、自分は仕事があるなどと言いながら退室していった。



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