第3話 3の月1日(2)
第3話 3の月1日(2)
「どう 少年時代は楽しめた?」
その言葉の瞬間、ライトの頭に流れ込む記憶。
加納次郎 32歳
中部地方G県S市出身 現在都心で会計事務所勤務
実家は兼定派の流れを組む刀工で刃物店を営みながら技術を代々伝える。
幼心に経営は順調だったと思う。
小中学生時代と遊びもせず父の元で技術を磨くが14歳の時に4つ上の長男が跡継ぎ決まり、幼馴染の初恋の女性と兄の婚約も同時に決まり挫折を味わう。
高校卒業後家を出て、国立大学卒業後理学を専攻していたのにもかかわらず、なぜか会計士を目指す。
下積み4年で試験合格、30歳にてようやく一人前に成れたかと思っていたが、・・・32歳大病発見
緊急入院させられ数日、知人の見舞いも一巡した頃、
消灯直後眠れずにベットで横になっていると、若い美人の看護師さんが見回りにやってきた。
眠れなかった俺は、見たことのない看護師さんだったが、話し相手になってもらっていた。
「早く寝ないと良くなりませんよ」
「いやいや看護師さん、寝すぎて眠気がしないよ」
なんて一通りの挨拶を消化した後、次郎は病状を知っているだろう看護師さんに冗談めかして言った。
「いや参っちゃったよ、ようやく一人前に成れたと思ったんだけどね」
消灯後ではあったが、結構な時間話しをした後、
「仕事柄いろんな患者さんにお会いしましたが、加納さんみたいに若くして人生達観している人は初めてなんで正直にお聞きしてもいいですか?」
「こんな美人に興味持たれるなんてうれしいね~ なんでもどうぞ」
「加納さんは 『悔い』 って残ってないんですか?」
「・・・ずばり切り込むね」
思わず苦笑いを浮かべるが、看護師さんはまじめな顔で返答を待っている。
少し考え込んだが、まじめに答える。
「もっと少年時代遊んでおきたかったかな」
「えっ」
「俺ね14まで実家の職業継ぎたくて必死に修行してたんだ、友人とも学校以外では遊ばなかったし」
「・・・」
「それでも兄貴は偉大で長男の壁は越えられなかったんだ」
「・・・」
「もちろん修行に打ち込んだ事自体に後悔はないんだけどね」
「・・・」
「友人の話なんかを聞いてると、放課後みんなでどこどこを冒険して大きいトカゲを捕まえとか、雑草すり潰して変な液体を作りポーションだー とかね」
「・・・」
「そういう一般的な男の子の遊び たぶんうらやましいんだろうな・・・俺」
「・・・」
「・・・」
「人生やり直せるとしたら、加納さんはそういう事経験したいですか?」
「やり直せるとしたらか~ そうだね是非とも」
「そうですか・・・では」
女性特有のあのいい匂いが目の前に香ると、俺に看護師さんが唇を重ねてくる。
・・・・・・・でその看護師さんが目の前にいて微笑んでいる
「だからぁ 加納さんは楽しめた? 二回目の少年時代」