餅つき兎
それは兎さんの耳がまだ短かった頃のお話です。
兎さんの村がどこかにあって、いつもお餅をついていました
「お月さんが食べられてるよ!」
チビは言いました。
こどもじゃないのにこどもみたいに小さいので、皆からは『チビ』と呼ばれている兎さんでした。
チビの言葉を聞いて、兎さん達は心の中でホントかなあと思いながら空を見上げました。
すると、なんとチビの言う通りお月さんにかじったあとがありました。
「「「なんとっ」」」
兎さん達はびっくり。
いつも兎さん達を照らしてくれるお月さんは、空でいつも真ん丸の姿でした。
兎さん達は優しいお月さんが大好きです。
だから、お月さんに感謝を篭めて、こねたお餅はいつもお月さんと同じ真ん丸にしていました。
それが今では、お月さんは頭からかじられて、横顔の横の部分が残っているだけになっていました。
兎さん達は大騒ぎ。
「誰だ。誰がやったんだ」
「お月さん。大丈夫ですか」
「ああ、この世の終わりじゃー」
チビは小さいけれど、小さいからこそ誰よりも早く小さなことに気づきます。
「皆、見て!」
お月さんを食べているのは亀さんでした。
小さな亀さんではありません。
背中に象さんが乗っていて、更にその上には青い宝石がころころと転がっている、とても大きな亀さんでした。
そのとても大きな亀さんは一口ずつ、
パクリ
パクリ
とお月さんを食べていきます。
「「「やめたげてよぉ」」」
兎さん達は悲痛の叫びをあげます。
あの綺麗な真ん丸が、どんどんと形を欠けたものへと変えていきます。
ああ、せっかく真ん丸に形を整えたお餅もお月さんに合わせて欠けたものにしないといけないのでしょうか。
亀さんは食べるのを止めません。
真ん丸お月さんが、ちょっと丸いお月さんに。
ちょっと丸いお月さんが、レモンみたいなお月さんに。
レモンみたいなお月さんが、麦の葉っぱのように細長く。
麦の葉っぱのように細長かったお月さんは、とうとう全部食べられてしまいました。
亀さんはお腹がいっぱいなので、眠り始めました。
兎さん達は、地に手をつけて嘆きます。
「いったい何がいけなかったんだろう」
「これは私達に対する罰なの」
「お月さんは今も俺達を見守ってくれている」
嘆いている兎さん達を見て、チビは言いました。
「皆!」
兎さん達はチビを見ます。
「お月さんを作ろうよ!僕達のお餅でお月さんを真ん丸く戻してあげよう!」
それは名案でした。
チビは小さいけれど、言うことはいつも大きかったのです!
「「「お月さんの為ならエンヤコーラサッサ」」」
その日から兎さん達の歌が村で響き始めました。
男兎は畑を耕し、お餅を作るための黄金色に輝く麦の畑をたくさん作りました。そして、たくさんのお米を作りました。
女兎はお米を蒸して、お餅の元を作りました。
お爺さん兎は空に立てかけるための梯子や臼や杵を作っていました。
お婆さん兎は働く皆の為におにぎりを作ったりお茶を入れたり、皆の健康にいつも気を遣っていました。
子供兎は変わらず無邪気に村を走り回っています。たまに餅の元をつまみ食いしてお母さん兎に怒られている兎もいました。
それから村の皆で集まって、臼と杵で餅をつき、空に梯子をかけてお月さんを少しずつ少しずつ真ん丸にしていきました。
真っ黒な空から麦の細長い葉っぱのようなお月さんがひょっこり顔を覗かせて。
麦の葉っぱのように細長かったお月さんが、少し太ってレモンのようなお月さんに。
レモンのようなお月さんが、あともうちょっとで真ん丸お月さんに。
あともうちょっとで真ん丸お月さんが、真ん丸お月様に。
黄金色の麦の畑から取れたお米は輝く黄金色で、お月さんも変わらない輝きで兎さん達を照らしました。
「皆!」
若者兎だったチビは、まだ小さいまんまだったけど、子供がいて孫もできたお爺さん兎になっていました。
兎さん達は、チビを見ます。
「楽しかったね!」
チビは、お爺さん兎だけど、小さかったから、子供のように無邪気に笑いました。
お月さんはそんなチビの耳に優しくキスをしました。
………………
……………
…………
………
……
…
それからまた長い年月が経ちました。
あまりにも長い年月だったので、兎さんの耳はいつの間にかピンと長く立っていいました。
空からは黄金色のお月さんが兎さん達を照らしていました。
そして、一羽の小さな兎が空を見上げて村の皆に言うのです。
「ねぇ、皆、お月さんが………!」
………………
それはお月さんが形を変えるお話。
お餅をつく耳の短い兎さん達のお話。
芳しい匂いに誘われて起き出す亀さんのお話。