XXXしないと出られない部屋 Other Side
聖女というのは損な役回りだ。
常に清純で、清廉潔白で、純真で、そして慈悲深く、とにかく清らかでいる事が求められる。
市民の前では常に笑顔を絶やさずに、話しかけられたら優しく丁寧な言葉で接する、それが当然とされる存在。
それが『聖女』だ。
「ったく、やってらんない。もうマジでこんなの呑まなきゃ無理。ホント無理」
「……なぁ、外ではそれやるなよ?」
「わかってるわよ。ビジネスなんだから割り切ってる」
「ビジネス……初めて聞いたよ、ビジネス聖女って」
私は勇者と大戦士、それに大魔道士との4人で魔王を倒すための旅を続けている。
勇者とはだいぶ打ち解けて、私の『素』をさらけ出すのもためらいが無くなってきた。
ただ、田舎育ちで私を『清純な聖女』と信じている大戦士と大魔道士の2人の前では、私はまだまだ清らかでいなければならない。
まぁそれも魔王を倒すまでの辛抱だ。
正直言って、今の私のパートナーである勇者は強い。人外の強さなんていう生易しい表現で語れるようなものじゃない。
歴代勇者が束になってかかっても、ほぼ確実に秒で蹴散らせる。いわんや魔王ごとき、多分一撃だ。
それでも私達がチンタラと旅をしているのは、王様の思惑がある。
『勇者パーティが世界を救う、その旅を見せることこそが、朕の威光を世に知らしめることとなる』
なんていう、自己顕示欲丸出しの考えを私達に押し付けてきやがった。
あのハゲはいつかボコしてシメてやらなければならないだろう。
なぁに、怪我で済めばいくらでも私が『なかったこと』に出来るし、最悪死んでも蘇生させれば良い。簡単なことだ。
いっそ死んだ後に蘇生させて、私が影から操るというのも面白そうだ。面倒くさそうだけど。
「やっちまうか、あのハゲ……」
「なぁ、最近随分イラついてるな。夜の酒が増えてきてるぞ」
「イラついてる……そうね、そうよ。イラついてるわよ。あぁもう、考えただけでまたイライラしてきた」
私はジョッキになみなみと注がれた蒸留酒を、ぐいっと一気に流し込む。
本来なら、聖教会の掟で『聖職者は飲酒すべからず』と言われているけれど、その割にワインはOKという、変な決まりがある。
ワインがあるなら、ウィスキーだって良いはずだ。神が『まぁ呑め』と仰っているんだろう。
「おいおい! 危ない飲み方するなよ!」
「これが呑まずにやってられるかってのよ! 何なのあの2人!」
「……は? 2人? え、誰?」
「あの2人はあの2人よ。カーンとエミリアよ」
私は葉巻の先を葉で噛みちぎって、魔法で先端に火をつける。
あぁ、この紫煙の芳醇な香りがタマらない。ウィスキーと葉巻は、私の聖女としての旅に欠かせないものだ。まぁ人に見せられる姿じゃないけれど。
「あぁ、大戦士カーンと大魔道士エミリアか。あの2人がどうかしたのか?」
「……ねぇ勇者、あなた気づいてないの?」
「何に?」
ダメだ、この鈍感男、クソ真面目過ぎて魔王討伐しか考えてない。
カーンとエミリアが幼馴染で、おまけに互いを想い合っている事くらい、私に言わせれば『わかり易すぎてめまいがする』と言えるくらいなのに。このクソ真面目勇者は、パーティ内の人間関係ってやつに気を使うっていう余裕すらないのか。
「あの2人、両片想いよ」
「りょうかた、おもい……」
「あーもう! つまり! お互いがお互いの事を好きなのに! 自分の片想いだって考えてるってこと!」
「え? そうなのか!? じゃあ想いを打ち明ければ良いじゃないか」
よし、魔王をボコして王様をシバき倒したら、勇者も『わからせ』る必要がありそうだ。
私のミスリル製のメイスがうなる日も近いな。
「あのねぇ……幼馴染ってそう簡単じゃないの。わかる? わかんないわよね?」
私は葉巻の煙を口にため、そのピリッとした刺激と甘い濃厚な香りを堪能してから、唇をすぼめ煙で輪っかを連続で飛ばす。
「子供の頃を知り合ってるからこそ、今の大人になった姿とのギャップに戸惑う2人。成長して大人の身体を見ても、まぶたの裏には幼い頃の姿が蘇ってなかなか歩み寄れない……複雑でもどかしくてじれったくて甘酸っぱい、そんな微妙な心の動きなんてわかんないわよね。あぁもう焦れったい」
そう。
とにかく、見ていて焦れったいのだ。
「決めた。このままだと私の胃に穴が開くわ」
「酒でか?」
「違うわよ。ちょっと勇者、今から出かけるわよ。どうせ魔王は城にいるんだから、今から行ってスパっとボコしてシメましょ」
「だからさ、言い方——」
「ほら支度して。あの2人を起こさないように。40秒で出るわよ」
こうして私と勇者は2人で宿を抜け出し、魔王城へ向かった。
ストレスがマッハで八つ当たり万歳な状態の私と、ナチュラルに極まった強さの勇者の2人がいれば魔王軍なんて物の数ではない。
魔王の襟首を掴んで『ごめんなさい、すみません、ホントもう二度としません、許してください』と泣いて漏らしてゲロを吐きながら土下座する程度に痛めつけてからが、私の策略のスタートだ。
「ねぇ魔王」
「ひぃっ! お、おおおおゆおゆお許しを! お許しをォ!」
「いちいち泣くな。オラ返事」
「は、はひぃ、美しく聡明で慈悲深い聖女様……」
よしよし。やっぱり躾は大切だ。帰ったらこの調子であのハゲ王もわからせてやろう。
私はポーチに忍ばせた葉巻を取り出して口に咥える。
「おい魔王、火」
「……え?」
「え、じゃないだろ、私が葉巻出したら火ぃつけるんだよ。いちいち言わなきゃわかんないの?」
「す、すみません! 火ですね!」
魔王が指先に火球の魔法を灯らせ、葉巻の先に火をつける。
紫煙。芳醇な甘い香り。あぁ、この一服のために生きている。
「よし魔王。ちょっと聞くけど、『一度入ったら条件を満たすまで出られない隠し部屋』とか無いの?」
「へ? あ、いや、そ、そういった部屋はないですが……」
「じゃ作って」
「え」
「私は、作れって言ったの」
「……作ります、作らせて頂きます……」
「それから、当分この城は私達——じゃなくて勇者が管理するから」
「え? 俺?」
だからそこの真面目男、あっけにとられた顔をするな。空気を読め空気を。
「わかりました……それでその、部屋を出る条件というのは……?」
「そうね、いっそ思い切りムーディにしましょ。で、それはもうぐっちゃぐちゃのヌルヌルに◯◯◯な◯◯◯◯◯を◯◯らせたエミリアと、◯◯◯◯に◯◯◯ッ◯◯た状態のカーンが、ベッドの上で夢中で◯◯◯◯に明け暮れる、ていうのを条件にしましょうか」
おい魔王も勇者も、何だお前らそのドン引きの顔は。
今更私が純真で男のハダカ見た程度で『イヤですわ、殿方のハダカなんて』と恥じらうような女だと思ったか。ビジネス聖女を嘗めるな。
「そうね、部屋の名前は『XXXしないと出られない部屋』にしましょうか。あの2人を罠にかけて転移させて、媚薬も欲しいわね。それから——」
「……あの、勇者さん? あの方はホントにその、聖女なんですかね?」
「俺はそう聞いてるけど……」
「そこ、聞こえてるわよ」
さぁ、盛り上がってきたわよ。
勇者とか聖女って、イメージ商売な側面もあるから大変ですよね……
ストレスが溜まるお仕事でしょうし、たまには一服しないとやってられないと思いますw
だから、ウィスキー片手に葉巻スパァな聖女様がいたって良いと思うんですw




