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栞アバター

あかねの案 〜栞アバター ひまり〜

作者: 荒尾ナユタ
掲載日:2026/04/26

◇出会い

若きコピーライター・あかねは、図書館の閲覧席で頭を抱えていた。

机の上には、落語全集、和菓子の歴史書、地方菓子の資料がうず高く積まれている。

その中に一冊だけ、場違いな本。『赤毛のアン』。

中ほどの本を抜こうとした瞬間、積み上げた本が崩れた。

雪崩のように前へ倒れ、向かいの席で書き物をしていた女性を直撃する。

「ご、ごめんなさい!」

慌てて拾い集めるあかねに、女性は穏やかに言った。

「ずいぶん、不思議な取り合わせですね」

あかねは苦笑する。

「コピーライターなんです。今、和菓子屋さんのプロモーションで……アイデアが煮詰まってて」

あかねの差し出す名刺に、女性は自分はひまりだと告げる。

同世代の女性というのもあり、あかねは気さくに話しかける。

初対面のはずなのに、不思議と口が軽くなる。

ひまりは静かに相槌を打ちながら聞いている。

どこか、人の言葉を引き出す空気をまとっていた。

挿絵(By みてみん)


◇ことばの理由

「でも、『赤毛のアン』だけ少し浮いていますね」

ひまりにそう言われて、あかねは一瞬だけ言葉を選ぶ。

「私、孤児院で育ったんです」

アン・シャーリーに、自分を重ねていたこと。

その言葉に何度も救われてきたこと。

「だから、言葉で人を動かす仕事がしたいって思ったんです」

スランプの今、心の拠り所として書架から持って来たと話す。

今度はあかねが問い返す。

「ひまりさんは、ここで何をしてるんですか?」

ひまりは、少しだけ笑った。

「私は“栞アバター”。人の読書を少しだけ手伝うの」

そう言って、一枚の紙片を差し出す。

彼女によく似たイラストが描かれた栞。

説明はそれだけだったが、不思議とそれ以上は聞かなくてもいい気がした。


◇ひらかれる会話

話し足りないあかねは、ひまりを近くの喫茶店へ誘った。

図書館では抑えていたおしゃべりが、一気に溢れ出す。

「最近、全然本読めてなくて。家、積読だらけなんですよ」

苦笑しながら続ける。

「でも、読んでない本って着てない服と一緒で、先の楽しみが大きいということでしょ。」

ひまりはくすっと笑う。

「あかねさんって、本当にアン・シャーリーみたいですね」

「髪はダイアナみたいですけどね、カラスの濡れ羽色ってほどじゃないけど」

自身の黒髪を弄るあかね。

「そういえば私の知人に燃えるような赤毛の人がいますよ。“リク”って男の人だけど」

ひまりが思い出したように言う。

軽やかで、とりとめのない会話。

けれどあかねにとっては、言葉の一つ一つが仕事のヒントになる様な気がしていた。


◇名前のない答え

ケーキセットを食べ終えたあと、あかねはふと呟く。

「このモンブラン、和栗でしたよね」

スプーンを置きながら、続ける。

「栗って、和菓子と洋菓子……どっちになった方が幸せなんでしょう」

一瞬の沈黙。

そして、ひまりが吹き出した。

「面白いこと言いますね」

くすくす笑いながら、やわらかく言う。

「でも、幸せって“食べた人が決める”んじゃないですか?」

その一言で、あかねの中で何かがつながる。

和か洋かではない。

素材でもない。

“どう感じてもらうか”。

「……あ、それだ」

小さく息を呑む。

言葉の輪郭が、はっきりと見えた気がした。

店を出る。

「じゃあ私、次があるので。お仕事、がんばってくださいね」

あっさりと別れを告げるひまり。

「あ、待って、連絡先——」

振り返ったときには、もうひまりの姿はなかった。


◇しるし(栞)

数週間後。

プレゼンは成功し、案件は一段落していた。

最後に提示した一文——

「これはまだ、名前のないおいしさです。」

その場にいた全員が、一瞬だけ言葉を失った。

クライアントが考える側に回らされた、その沈黙が、何よりの手応えだった。

久しぶりに部屋を片付けると、一冊の本が出てくる。

『赤毛のアン』

「あった……」

少しだけ笑って、本を開く。

そして、あの日もらった栞をそっと挟む。

ページをめくると、言葉が自然に胸に入ってくる。

まるで今の自分に合う場所を、知っているかのように。

あかねはふとひまりの言葉を思い出す。

「私は“栞アバター”。人の読書を少しだけ手伝うの」

静かな部屋で、ページをめくる音だけが響いていた。


挿絵(By みてみん)

読書を応援するWEBアプリ『栞アバター』なるものを作ってます。開発中のベータ版が以下リンクからお試しいただけます。


※現状のアプリは localStorage のみ で動作しているため、以下の制限があります:

❌ ブラウザを変えるとデータが消える / 共有できない

❌ パスワードが平文で localStorage に保存されている(セキュリティリスク回避のため他サービスとのパスワードの共用は避けてください)

❌ 端末を跨いだ同期不可



栞アバター リク

https://v0-shiori-avatar-app.vercel.app/


栞アバター ひまり

https://v0-himari-avatar-update.vercel.app/


栞アバター Kai

https://bitter-book-buddy.lovable.app/


栞アバター 麗羅

https://rira-reading-buddy.lovable.app/


栞アバター Ω(オメガ)

https://omega-encounter-project.lovable.app/

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