サイバネティックハンターズSLG!!(PALM BLADE)
PALM BLADE
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私の作った医療用 兼 工業用強化骨格は腕に物を言わせて人体の動きを片っ端から再現した。でも医療用であると同時に工業用なのでイジった部分もたくさんある。肩に組み込まれたレールガンもその一つで、腰、喉、顔、肘、手首に足首と十重二十重につけられたセーフティを全部外すと発動する。右腕の半完全弾性衝突体を通して手のひらから撃ち出された衝撃がその先の岩盤を吹き飛ばす。本来鉱山とかそういう場所で肉体労働をするために使うはずだったんだけど、依頼元の考えがまずかったので運用されていない。一回だけ被験者になったのがヴァン、改造されたら元に戻すが効かないからこの状態で生活するしかない。首をくくりたくなるような話だと思うけど、無趣味無意欲無関心が生活の基本だったから困るといっても知れているらしく、前の職場の方がよほどつらかった、という意見しか返ってこない。仕事ってどこでもつらいわよねえ、とみんなで同意しているウチの会社は会社として危うい。
ヴァンが現場で実働員として働くんだけど、強化骨格のメンテや維持でも大変なのに修善となれば大赤字、壊れるようなことはしないように!ときつく言ってある。従業員が三人しかいないんだから抜けられると困る。しかも残り一人がファントム、サイバー空間にデータとして残っているだけのヤツなので段ボール一つ運ぶのにも私がしないといけなくなる。責任者なのに!現場経験はあるけど下請けだったシロタさんみたいな腕力はない。腕相撲したことあるけど、二回勝っただけだ。
だからヴァンの体を点検するたびに言い聞かせている。事務所のガレージの片隅にあるメンテナンスボックスでヴァンに小言を言った。妙な撃ち方をすると自爆するかもしれないわよ、と注意すると、いつも気をつけている、とヴァンが言っていた。……気をつけるとかできるの?体の負荷は一応フィードバックするけど、被験者がどれくらい自己管理できるかは本人しかわからない。ヴァンは生身だった時代政府部隊にいたから、やたらと過酷で自分の体だけは把握できないとやってられなかったらしい。政府部隊ってもっと適当なのかと思ってた。デタラメに見えるのにね、とこぼすと「オレにもそう見える」とヴァンが大まかに同意して、点検が終わった。生身だった時代にヴァンの手当をしたことがあるファントムは、そのときと変わらないように体を動かしているから不思議だと言っていた。表情が増えた以外は変化がなく、社食で日本伝統食をすすっていてもおかしくなさそうに見える、らしい。これでも表情が増えたのか、職場ってつらいわよね。ファントムは生身のときノーブル財団の下請けで、現場でガーゼを当てるだけの医療従事者をしていたけど「まったくだ」と言っていた。楽な職場とかないのね、自分でやっても大変だし。「この会社はそういう問題ではない」と全員わかっているけど誰も言わなかった。
「あのメカノイドの行方は?」
さっきの事件で逃げていったメカノイドは、まだ見つかっていないらしい。見つけても強すぎて手が出せないだろうからわざわざ見つけて揉めない方がいい。でも危ないのは確かで、すぐにどこかで暴れるかと思ったらどこにいるかわからない。完全にオフラインでネットワークを使っていないから検索しても引っかからず、メカノイド本人もこんなに使わないと不便で仕方がないだろうに接続しないからそもそも機能がついていない可能性がある。ヴォルトクラウンはなんでこんなの運んでいたんだろう。元の上役たちだけトンズラこきかけて置いてけぼりにされそうになり、上役たちが捕まったので下っ端は大慌て、誰かがおいしい話を持ちかけたら飛びつくのは想像に難くない。おいしい話には裏があるのもほぼ確定、だますヤツも同じようにだまされるという典型例だ。だから、あのメカノイドを運べ!と言っていたヤツがいるはずなんだけど、政府が再編成した臨時部隊はそこまでつかんでいない。政府部隊で有能な人というのはかなり限られていて、知る限り一番仕事ができていた情報戦略室の長官が出頭に近い形で逮捕されたので、今は本当にいない。だから仕事のたびに頻繁にディザスターが駆り出されて力尽く、臨時だろうが政府部隊のイメージはすでに地の底なので泣く泣くこなしているらしい。公共機関とか辞めて起業したらいいのに。
まあ絶対に私たちが追いかけなくても同業他社が山ほどいるし、今日の帳簿を黒くしないと会社が潰れてしまう。今月は勝ち越せそうよ!とオーズモーのようなことを毎月言っていると「ギリギリ勝ち越しだと落ちる方が早いだろう」なんてファントムに言われた。もちろん負け越すときはすごく負け越すので言い返せない。きー!
私が反論しようと頭の中を検索していると、ファントムの方が早く「メールが来てる」と何か見つけてきた。さすが私のファントムシステム、スパコンを遙かに凌駕する演算速度!と感心すると「……普通に探したけど」と言われた。私の検索が遅かっただけらしい「速かろうと遅かろうと無いものをループで探すから時間がかかるんだ」という一般論には蓋をして、メールを見た。ジェファーソンさんだ。
理由はどうあれ先行でこの手の仕事を始めた私たちにはお得意さんがいる。デザイン会社の責任者として働くジェファーソンさんというメカノイドは、初仕事の相手。中小の企業の間でたまに話題に挙げて、仕事を回してくれる。お客様は神様です、なんて言う人がいるけど冗談じゃない、こっちから頭を下げなくても信用と信頼で協力してくれる人の方がよっぽどありがたい。頭が下がる。
お客様仏様ジェファーソン様の精神で仕事を引き受ける大前提でメールを読む。デザイナーズマンションの建設現場の、施工業者が第三者機関に来てほしいと言っているらしい。すぐに行きます!私たちは立派な第三者です!すぐに電話して返答すると、「そこまで下手にならなくても」とジェファーソンさんが引いていた。
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「第三者?関係者じゃねえか」
……ぐうの音も出ない。建設現場の施工業者から見たら、現場責任者の知り合いのジェファーソンさんの紹介だからツテをたどったのと同じ、向こう側の人間だ。でも現場で小競り合いがあるなら賛成派か反対派のどちらかが呼ばないと第三者が来ない。通りすがりの第三者が小競り合いを見たら、第三者であるが故に通り過ぎて関わらない。だから誰が介入しても疑わしいのだ。こんなに第三者なのに。「私たちは大丈夫なんて言い張る悪質な業者もいますけど!」と説得しようとしたら墓穴を掘って、何も言われていないのに何も言えなくなった。通りで「上手くいかないかもしれないので見積もりはそのときに」と念を押された。ダメ元だったらしい。
でもダメ元で呼ばれたということはそれくらい困っているはずだ。一応現場責任者にヒアリング。なんだか報告連絡相談が上手く行かず手違いが頻発して、安物の回線を敷いたからだと現場が怒り始めた。敷いた回線は安物ではあるけどこんなに悪くなるはずなくて、でも実際に通信できないことが多いから物がダメなんだと言われたら反論できない。でもそんなはずない、という泥仕合になっているらしい。現場を見て回ったヴァンが「前の職場よりよほどできている」と感想を残した。あんたの職場回線悪かったの?と聞いたら「回線はつながってるけどつなげるヤツがいない」という地獄のような職場環境が垣間見えたのでそれ以上つっこまず、ファントムに話を振った。シーバーに聞けばすぐに返ってくると思ったらシーバーがオレンジ色で点滅している。どうしたの?HEY!ファントム、返事をして!とかなり基本に戻って音声を送ったけど時間がかかった。通れなくて、と言っていたのでんなわけないでしょうと問い詰めた。サイバー空間に大雨が降って土砂崩れで交通整理をしていたとでも言うのだろうか。ファントム曰くそういうことではなく、建設現場のサイバー空間がやたら不安定で大きな容量だと崩れる。多少なりとも丈夫なルートを探すのに時間がかかったらしい。どんな演算速度が速かろうと、ファントム本人がクロスワードパズルを途中で放り出すようなヤツの人格なのでその手のことが苦手だ。力尽くなら誰にも負けないのに。情報空間で力尽くというなかなか謎なスペックだ。
建設現場の横っちょのハイパーハウスでそういう話を聞き、今度は現場の人。人間の鳶職の人が高所作業をしていたりメカノイドの作業員が重い物を運んでいたり、とにかく肉体派。こういう場所の人たちのことはヴァンがわかるだろうと思ったらコミュニケーションそのものが苦手なのでヴァンにはできない。任せておいたら特に何もせず「狭い隙間に重い変圧器を持っていくのは誰がやる?」と現場で話し合っていたから手伝った、と関係ないことに労力を使っている。すごいなあんちゃん!とそれなりに感心されたから多少やりやすいだろうか。こっちも頼む、と次々に呼びつけられていて最初は現場作業のために作った強化骨格なので便利も便利、引き抜かれたらウチが困るから早くしよう。裏手の休憩所にいる人たちに話を聞きに行った。
休憩所の人たちに職場の話を聞くと、もちろん嫌がられた。話を聞くだけじゃないですか、と説得しようとしたら「労働者にとって休憩時間が命の次に大事とわからんか」とねじ伏せられて困ってしまった。もっともこういう職場なので女性がいると華やぐらしく、缶コーヒーを買ってもらった。違いがわかる男ね、ゴリゴリの作業用メカノイドだからなびきはしないけど。分厚い装甲と大きな動力炉、ついでに黄色いヘルメットに「安全第一」と書いた現場監督の一人で、「女の子には優しくしねえとモテねえぜ!」と笑っていて涙が出そうになった。「女の子じゃなくてレディってところか?」と言われてムッとしたら察してくれたようで怖がり始めた。そのとき作業員の一人が、内線代わりのシーバーに通信が入ったから話し始めて、資材の搬入がどうたらこうたら……上手く会話ができないらしく何回も聞き直していた。とうとう通話が切れ始めてかけ直して、また切れる。そりゃ困るわよね、と納得していたら現場監督がシーバーを受け取った。こうすりゃつながるんだよ、ほら。でも上手くいかなくて現場監督が何回もかけなおして、つながったのかしばらくだまっていた。その向こうに、私は見たことのある人を見つけた。休憩所の更に向こうの公道に、人間型のメカノイド。目が赤く光っていて、あれ?って思っていたらがちゃんと音がした。現場監督が、シーバーを落とした。その腕が変形して、作業用のアームに変わった。




