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大魔法使いクリストリストの稽古場日誌

大魔法使いクリストリストの稽古場日記


長きに渡った異世界からの侵攻が収束して二年。異界の門が閉じられてこの世界は平穏を取り戻した。死霊秘本の魔術が生んだ異形の怪物たちは野を焼き、人を喰らい、世界は滅亡に進むかに見えた。それを阻止したのが誰あろうこの私だ。魔術師が皆自分の技術を一極集中する中で黒魔法、白魔法に加えて混沌の魔法を使える者は少ない。三種を同時に使いこなす大魔法「クリストル」の使い手となればその時代に世界にいる方が珍しい。異界の門を閉じた私を皆が「大魔法使い『クリストリスト』だ!」と称えた。称えたのだがなぜか違和感のある呼び方で、しばらくして何か違う似たような響きのものを連想して気まずく黙り込んだ。それでもクリストリストと呼ばれ始めてしまったのでもうそれで通っている。私が女性ならまだ割り切れたかもしれないがいい歳のおっさんなのにクリストリストが通り名では性癖を疑われて、その手の店にはここ五年ほど行っていない!と口走ったから「やっぱりそうなんだ」とあらぬ誤解を呼んだ。汚名をそそぐために自分の本当の性癖を全部叫ぶのは本末転倒、せっかく覚えた大魔法の知識ごと自分の記憶を消そうかとよぎったがその前に酒に頼った。だいぶ飲んだので、その時に何か安請け合いをしていたらしい。いつのまにか私の城には三人の弟子が住み着いた。やってきた客に対して、ここはクリストリストの城であって娼館ではない!と自分で言う必要がなくなったのでぶっちゃけ助かっている。


ジャック・ホーンドール。真剣に魔法の勉強がしたい!と他の魔法使いに頼んだら断られたので途方に暮れていたという。道端で酔い潰れていたおっちゃんがかの好色大魔法使いだとは!と渡りに船と弟子入りを志願した。酒がもう二杯少なかったら速攻で断っている相手だが介抱されている間に署名まで済ませてしまい、城にいつくことになった。年相応というかなんというか女性に対する興味意欲関心が非常に強く、歳不相応な知識を持っていたりするので玄関口で「そういうお店なら街の裏手のあそこにいい女性が……」と説明していることがよくある。クリストリストの城が娼館ではなく無料相談所だと思われたら説明する意味があまりないのでいつも何か押し付けて客前に出ないようにしている。


ドクトネル・ジンマー。三人の弟子の中では年長者、話になる仕事がないから就職活動をしていないという実家のご両親が聞いたら怒りそうな若者だ。本人曰く両親は「仕送りするならなんでもいい」と就職を急かすまではしていないらしく、取ってつけたような回復魔法で日銭を稼いでいたとか。自分では腕がいいと思っているから「魔神(ましん)のジンマー」とハッタリ吹いていたら「蕁麻疹」と呼び始める者多数、アレルギーの人がたくさん尋ねてくるようになった。ジンマー自身がやたら尖ったヤツなので患者に食ってかかり、ジンマーを見ると蕁麻疹が出るようになったと苦情が来るミスター・アレルゲンだ。


カナーム・ヴィレッジ。三人の中では紅一点の年頃の女の子だが紅一点だからといって一番まともかというと他の二人とさほど変わらない。エキゾチックな東国で生まれ育ったというカナームは自分の地元をやたらと自慢する。料理をするのは大体カナームに任せる。人並みに上手い。その割には地元では名手と謳われていたらしいのだが、そこまで美味いだろうか、とは流石に言えない。東国の味は知識程度にしか知らない。料理はもちろん容姿、教養、人格に至るまで1.3倍増しで自分を捉えているらしい。たまにジャックが風呂をのぞいて怒られているが「他に女がいるならカナームはのぞかない!」と絶妙にありとなしの境目を表現する。こればっかりは私も感心した。上手いことを言うものだ。


三人が三人とも多少は素養がある程度で普段なら弟子入り志願されても聞き流すところだがゲロまみれのおっさんを助けてくれたのだからむしろ頭が上がらず、その場だけは立場がなく断らなかった。もとい、断れなかった。もし私が逆の立場なら「昔がすごい人だったらしいぞ」と感想を残して立ち去るだろう。異界の門を閉じたのは二ヶ月ほど前だというのにもう昔のこととは月日が経つのは早いものだ。経っていない気もするがもう昔かあなんて一人で脳内シミュレーションをしていると自分の小ささに恥ずかしくなる。まあ魔法学の修行なんてほとんど全員放り出すんだからしばらくの辛抱だ、と思って教え始めた。


私は自分の才能が憎い。すぐにいなくなると思ったからなんのかんの置いていたのに教えたらすぐに吸収していく。お前らホントに初心者か?と聞いたら「教え方が上手いんですよ」。見え透いたべんちゃらかと思ったらそうでもないらしく、他の修行場で教わろうとしたらみんな聞いたことのない専門用語を並べるばかりでなんのことかわからず弟子が全員雰囲気でやっていたから誰も身につかないというのが現実らしい。専門用語なんて上手く説明できないヤツが大量に覚えるのであって言うことが全部専門用語というのは頭の中がカラなのだ、とごく普通の意見を言ったはずなのに「おー!」と三人から歓声が上がる。世界はそんなに酷い状態なのだろうか、自分の修行ばかりしていたからあんまりわからない。今度文部魔法学省でクレームを言おうと思ったが「異常性癖の変態」の誤解を解かないと文部省での発言権がないからもっと後にする。


なんのかんの置いていてなんのかんの教えていたら三人ともそれなりに上達してきて、弟子たちは近所のダンジョンで案内とか死体の回収を手伝っている。死体を回収しておかないと冒険者からクレームがついて「生き返らせとけよ!」と理不尽なことを叫ばれる。蘇生魔法というのは高等呪文だからそれなりに難しい。だが蘇生を専門職の司祭に頼むと腐った死体になって帰ってきたなんて話がいつもあるので、三流にかかる前に生き返らせないと腐った死体がまた冒険に来る。幸いこのダンジョンには腕利きの案内人がいて、戦士としても魔術師としても腕利きのダークエルフは仕事ができる上に美人だと評判だ。ジャックがいつも「いいなあ、いいなあ!」とカナームを羨ましがっている。ジャックを送り込んでセクハラ被害が出たらそれこそ信用問題になるのでいつも違うフロアに振る。確かにあの人は美人よね、私の半分くらい!というのがカナームの弁、「…………うん…………」と男性陣の返答が遅れた上に不透明なので怒られるのがいつもの流れだ。私は怒られる立場ではないはずだが女性を上に置いておかないと訴えられた時に非常にまずい立場なので黙って怒られている。魔法司法省とは折り合いが悪いから話も通せないし。前に行った時受付で喧嘩して役人と髪の引っ張り合いになった。お前なんてしけーだー!と叫んでいたので法廷に行ったら敗訴が確定している。なぜこんなことになっているのだろう、救世の英雄というのはもっといい身分だと思っていたのに実際になったら肩身が狭い。娼館にも行けない。前までは行かなくていいと思っていたが男というのはストレスが溜まると他のものも溜まる。行っておけばよかった。それをわかってくれるのは三人の弟子の中ではジンマーだけなのだが。


「ドラゴニアンをご存知ですか?」


……嫌味で言っているのだろうか、リザードマンの上位種族だ。人型爬虫類リザードマンは種族そのものが生殖腺のような連中、鎧を着て歩いているチ×コ、と呼んでも問題ない連中が山ほどいる。無論全員ではないが種族全体でその傾向があるのだから全体に貞操観念が低い文化で異種族に関係を迫って自分たちがリザードマンなのに逆鱗に触れて魔法で丸焼きにされるというトラブルをよく聞く。腕っぷしが強い反面魔法耐性が極端に低く、攻撃幻術呪術とかかり放題。要するにトラブルメーカー。トラブルはスケベな話であることが多い。最近頭の中がそっち方面に走りがちなのでそのような見解で話しかけたが「自分はクリストリストだ」という自制心から逆に意識してその手の話を省く。意識的にその手の話に触れなかったことはジンマーは気づいていない。と思う。


ドラゴンというのは、絶滅寸前の種だ。かつては隆盛を誇ったオールドドラゴンたちは天変地異によりその数を減らし、わずかに生き残った者も人里を離れ、生き残っているものがどれだけいるものやら、という珍種。実物は魔法使いでも見たことがないという者が多い。だが、ドラゴンの中の何匹かは、その姿を変えて人間と交わり、交配種として人間界に混じったという噂もある。ドラゴンの血を引き、その血統を発現する者。遺伝的な問題からほとんどが自分をドラゴニアンだとは思っていないことが多い。今の時代にドラゴニアンが現れることは大魔法クリストルの修得者とさほど変わらない確率だ。「……はい」とジンマーが何か待っていたような間を置いて返事をした。だが話は、それとは違う支流に飲まれていった。ジンマーが送り込まれた霧の岩山に、ドラゴニアンが現れたというのだ。


鬼神の如き強さはまだ半人前のジンマーはもちろん百戦錬磨の冒険者たちも息を呑んで見つめるしかなかったという。今日は早く成果を上げて、人に会いに行きたいと急いでいる様子だった。とても素敵な人なんです、と柔らかく微笑む男は、爬虫類特有の凶暴性を持たず、何かの間違いだったのだろうかと自分を疑うほどだった。だがその強さはリザードマンの比ではない。ライトエレメンタルを簡単に撃退したというのだから疑うべくもなかったという。私も一瞬だが、耳を疑った。四元素及び三元質の性質の中にいないライトエレメンタルは単種攻撃の効かない厄介な相手、二つ以上の属性を同時に使えなければ苦戦は必至。その場にいた者が、誰か手伝ったのでは?と聞けば、単身戦って核となる頭上の光を両断したというのだから信じがたい話だ。不可能ではないが……だからと言って可能とも言えない。そして最後に、ジンマーが尋ねてきた。


「自分のことを、わかっているのでしょうか」


……ドラゴニアンは異様なほど珍しい種族、自分では気がついていない場合が多い。引いては、ドラゴニアンという種族がどのようなものか漠然としか知らないという場合も多い。だがそれだけ自制が効くのなら、危険はないだろう。ジンマーと私は、言い合いをするジャックとカーナムに目をやって話を閉じた。ドラゴニアンの「素敵な待ち人」とはどんな相手か、私は考えなかった。色を知らぬ魔法使いなど、凡庸な三流。私はこの後、それを深く胸に刻むことになる。







翌日、ダンジョンを訪れて責任者とともに現場を見た。エレメンタルは比較的ありふれた炎や水でも実体を持たないため手を焼く冒険者が多い。ライトエレメンタル単身で倒したというなら何かの間違いではないかと思ったが、事実だった。物理的に消滅することのないライトエレメンタルは飛散しても多くの光子及びタキオンとして痕跡が残り、冒険者たちの証言とも一致する。それを散らしたとなれば……今のうちに手を打つべきか、しばし考えていた。半ば伝説になったドラゴニアンは利用しようという不届者も多い。だが干渉し過ぎればむしろそういう輩の呼び水となる……静観の結論を出して帰路についたとき、職員の一人に尋ねられた。混沌の魔法について。存在自体は有名だが混沌魔法を実践する者はほとんどいない。むしろどのような技術かわからないままデタラメを吹聴する輩もおり、もう研究どころではない。私はそれを一欠片、手にしていた。あまり感心するほどの技ではない、と使えるようになるとわかる。通りで彼も、特に威張らないわけだ……そこまで口が滑り、慌てて話を切った。職員は何か特別なことを聞けたと思ったようだが、ありふれたことだ。そんなことを考えながらダンジョンを離れたことが、彼を呼んだのかもしれない。城下町の裏手に現れた、混沌の入り口。私に僅かの魔法を与えた、……魔術師でも魔物でもない。人のような、そうでないような……彼は自分を、妖怪と呼んだ。百害。この世と混沌をつなぐ、珍しくもない男。私は百害と、久々に話をした。


楽しそうだな、クリストリスト、と言われて僅かに目が泳いだ。彼はそれを見逃さず、わかってるよ、と付け加えた。クリストリストってのは、本当は何なのか。まったくいい根性してやがる、と楽しげな彼は、きっとまた何かを悲しんでいるのだろうとなんとなく思った。なんとなく、ただなんとなく。それが私と百害の、いつもの会話だった。伝えておこうと思ったんだ、と切り出した百害は、何かが動いている、と切り出した。『あれ』……。遥か地平の向こうにそびえる異界の門に目をやって、見た目ほど丈夫じゃない、と悪びれもなく言い出した。わかっている。あまりに大掛かり、あまりに大急ぎ。完璧なものなど出来ようはずもなく、あの手この手となれば破壊する手段はある。異界の怪物は、それに気づくほど利口ではない。まして向こう側からは、複雑怪奇な封印にしか見えない。稀に扉の向こうから聞こえていた轟音も聞こえなくなり、長い月日が経つ。だが……私が切り出す前に、百害は言った。ここから見ると、そうでもなさそうだがな。……扉はこちらから作ったものであれば、こちらから閉めることができる。裏を返せば、開けることができる……百害はそこまでは語らずに、私も語らない。百害は徐々に私から距離を取り、夜の街に消えていく間際に、言った。ドラゴンによろしく。私は彼を呼び止めることができずに……私自身も立ち去ることしかできなかった。


城に帰ると、明らかな爆発の後とともに黒焦げの皿が三人の弟子によって広げられていた。石炭かと思ったら「食べれますよ!」と言われてようやく食事だと気がついた。本当に大丈夫だろうか。ビニールとかついてたら絶対に有害物質が残っているであろうが、若者が作ってくれた料理を断るというのはあまりにも失礼だと結構歳なので思う。カナーム曰く、いつも通り絶品料理を作っていたらジャックがホムンクルスの材料を投げ入れた!というのでまあ食べれるはずだ。基本は生き物の体から作るホムンクルスなので食えると言えば食える。ホムンクルスって何から作るのかは今日だけ忘れることにして、とりあえず食う。こういうところが変態性癖の持ち主と思われるのだろうがこの業界はこんなことするヤツじゃないと登っていけない。それを教えるとだいたいの者が尻尾を巻いて逃げるのでこの業界はあまり繁盛しない。なぜ自分の城に戻るとスイッチが変わるのだろう、リラックスしているとは思えないのだが……食事の最中にジンマーが見てほしいものがあると切り出した。魔法学で最も難しいと言われる、組み合わせと応用。ぶっちゃけ組み合わせと応用ができないなら魔法なんていつ使うのだと説教したくなる一般論だが、言われているものは言われているので言われていると言っておく。それについて、三人はあーだこーだ考えていたらしい。例えば、と白の窓から見える門を指さして、あの強力な封印の仕組みを考えると、と解説し始めた。封印は強力であるが故にそこそこ単純なもので、確かに例題としてはちょうどいいかもしれない。規模が大きいほど小難しい話はなくなるものだ。あの封印の門は魔法学的には攻略不可能だが、物理的手法を併用すればそうでもない、と興味深いと言えば若者の話としては興味深い。要するにドラゴンがガオー!とやっちゃえば少しだけブレる、とジャックが端的に表現したが、やはり若者の言うことだ。この街にだって嵐は来るし雷も落ちる。そういう大きな衝撃は全体に受け流すように仕組んである、と教えると「えー!?」と残念そうな声が上がった。私が死に物狂いで作った門を壊したいのだろうか、このジャリガキたちは。大きなものが崩れるのは派手で目を引く、というこの一点だけは彼らを尊重したが、滅多なことは言わないように、と伝えておいた。私は、本当に自分が無配慮な大馬鹿者だと恥じなければいけない。門の封印は、巨大な嵐や雷なら、「全体に」それを受け流すようになっている。もしそれが、一点なら?こんな簡単なことを、考えもしなかったのだ。




翌る日、王宮の衛兵長に呼び出されて、異界の門へ向かった。警備兵が常々周りを固めているが必要のない警備だというのが全員の認識、私からしてなりふり構わずバカげた強度をと思ったので我ながらバカだなあといつ見ても思う頑健さの門は、壊すとなると何十年という公共事業になる。何かの冗談で壊そうなどという輩がいれば何年がかりで何をしているんだと怪しまれるのが必定、その時に手を打てば余裕で間に合う。だから扉の周りに衛兵がいるのはあくまで城下町の者たちの手前、ほったらかしにするのもよろしくないというただの当番。……だから衛兵長に呼び出されるというのは何事かと思い、足を運んだ。誰がしてもどうとでもなる仕事に、普段は指揮系統のトップは絡まない。それが本人も足を運んでいるというのだから……おそらく、欲しかったのだろう。この門の話を「なんとなく」する理由が。「なんとなく」話をすれば「なんとなく」受け取る者は僅かだがおり、一定以上伝わっているなら信用を置く。無論、できる者は限られているから、衛兵長の呼び出しは無視できなかった。


「ゴートリッツ?」


協会の聖職者が、警備に人員を派遣したいと申し出たという。思し召しというヤツだろうか。らしいですよ、と答えた衛兵長に「何の?」と聞くと、言葉を濁した。どこぞの王か、金の山か……とにかく信用ならない相手だ。しかしゴートリッツは王国では制止できない。遥か東方、あるいは雪深い北の異国、砂漠の大地を全て使って拡大した勢力は、一国程度では対抗できない。一説では、国ができるより遥かに昔から栄えていた者たちで、人はいるのに実体はない……と言えば恐ろしく聞こえるが、どこにでもある話だ。井戸端に女が集まれば亭主の悪口が始まる。誰がいて、誰がいないなんてことは特に意味がなく、どこででも起こる。それを相手に黙る王政なのだから、知れたものだ。私が何かを言おうとしても、どうせ他のルートを探すだろう。だが衛兵長には、ゴートリッツに対して強く出れない理由を他にも抱えていた。


「ワーマンティスです」


一瞬自分の顔が険しくなったのがわかった。昆虫騎士といえば、危険度は人狼の比ではない。人よりも大きな蟷螂など相手にすれば即座に食われるのが道理、それは今は……あの門の向こうに締め出された種族のはずだった。確かに一匹残らずとは言い難い封印、何匹かこちらに残ったかもしれない。だがこっちからだとしても力づくでどうにかなるではなく、小難しいことを考える連中でもない。無理に開けさせる、となれば今度は人間側に手段がなく、その結果はぐれ蟷螂として野生モンスター扱いを受けるのだが、現れたとなれば衛兵長も自然と呼び出されるだろう。それほどに、危険な種族だった。


私は衛兵長に、「ワーマンティスの生態」を「自分にわかる限り」教えた。凶暴、強靭、知能は、ないわけではない。あるといえばある程度の頭脳はお世辞にも大したものではない。だが一つだけ、これだけは気をつけるべきだという能力は、暗示。知能がない分、言い分を暗示として相手に与え、信じさせる能力に長ける。何か決定的な間違いを刷り込まれ、気が付かずに一生を終える者も珍しくなく、異生物を隷属させる。何かを覚えるような習慣を持つ者……この本を読んでいればいいなどと最初から思っている者は、カモにされる。おそらくは、「実体のない」「奴隷」の軍団となる……。衛兵長は私の言葉を遮り、風が強くて、聞き取れなかったと言っていた。心地よいそよ風に、そうだな、すまなかった、と答えて私は門の前を去った。

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