KSK!(名称未定)
KSK!(タイトル未定)
デルドレッド連邦 の巻
時は西暦4025年、輝かしい高度文明の時代。旧地球連邦が開発した長距離航行技術が西暦2900年頃からお互いの存在を認識していた銀河系各所の文明をつなぎ合わせ、惑星間の往来を可能にしてネットワークを形成した。異種生物から発生した「異種人類」が当たり前に入り乱れる、華の時代。私の未来も、今から花開こうとしている、はずなんだけど。
「……どうしよう……」
大学時代にマイペースすぎたのが災いして、就職活動は連戦連敗。みんなとっくに内定をもらったのに、就職先の当てもない。ニューロはいざとなったらお父さんの会社があるじゃない!ってみんな思ってるけど父さんの会社は小さな運送業者、小惑星帯を器用に通るから仕事があるけれど私の分まで負担をかぶる余裕がなくて、「かわいい子には旅をさせないと。ここにいたら大変だし」という父さんの考えのもと、就職活動。なんでみんなこんなに決まるんだろう、私には全然わからない。
面接に行くと、女の子だったんだ!ってよく言われる。ニューロマンという名前は、父さんが「新しい時代の、素敵な未来」みたいな意味で新しい浪漫という言葉を別の言語に当てた。「マン」で終わるから男性だと思われる。でもそんなことで負けていられないから、元気よく「ニューロマン・コダックルです!」と自己紹介すると慌ててずっこける面接官がよくいる。主に旧地球郡東アジア系列の人であることが多くて、「コダックルさんなんですね!」と取り繕う。何が悪かったんだろう、その後は担当の人がずっとどぎまぎしている。コダックル社の令嬢なんて令嬢のうちに入らないはずだけど。
藁にもすがる思いでやってきた合同企業説明会でもだいたい同じことで、みんながなんでうまくこなせるのか全然わかんない。どこの会社も同じようなことをやってるから二、三個回ってできないなら後は全部できないんじゃないかなあ、と思って変わった会社を探した。もう就職できたらなんでもいいや、後で考えよう。この考え方はみんなもよくするらしい。考え方なのに考えていないのはこれいかに。
企業のブースがならんでる端っこの方には、あまり有名じゃない企業がいくつかある。そのまた片隅に行くと、だんだん小さくなる。なにせ近くの銀河連邦から集まってきているから法制度とか条例とか住人の体質や生態が違うなんて当たり前で、一本化されていないからどんどん変な会社になる。あんまり変すぎても嫌かなあ、と思って引き返そうとしたら、一番小さなブースに男の子がいた。ジュニアハイを出たところくらいかなあという年齢の男の子は、目をつぶって座っている。寝ているわけじゃないみたい。なんだろう、と思って話しかけた。
あの、と話しかけると、IDは?って聞かれた。説明会用のIDナンバーカードを見せると、ここに置いて、ってケースを渡された。IDカードを置くと、男の子は左手をかざした。グローブからスキャンレーザーが出て、ようやく目が見えないのだと気がついた。
専用グローブは欠損した感覚器官を補って、必要最低限の信号を脊椎へ送る。そういうの使う人もいるらしいよね、くらいは聞いたことがあって、実際に見たのは初めてだった。コダックルさん、所長を読んでくるから待っててください、って説明を受けることになった。そんなつもりじゃなかったけど、違いますって言い出しにくくて説明を聞くことにした。
裏にいるらしい所長さんを呼びに、男の子は棒きれを片手に歩いて行った。本当にただの棒、木製。日曜大工にでも使うのかな、という棒きれで壁や床をつつきながら裏に回った。所長、学生さんです。新卒の女性。ニューロマン・コダックルさん。男の子の声と同時に、イスがひっくり返るような音が聞こえた。なんて不届きな名前だ、そんなヤツいるのか!って慌てて出てきた所長さんは、若い男性。地球系列、混血かな。二十代後半くらいの年齢。最初は怒っていたような所長さんは、私を見て驚いたみたいだった。男の子に、「よくやった!超タイプ!」と何の話かわからないけど感動を伝えていた。男の子があきれている。私ももちろんあきれている。所長さんからこの企業が「まず何の企業なのか」から聞かないといけなかった。所長さんは、探偵。惑星間トラブルの解決を一手に引き受ける……!なんでも引き受けないと事務所が続かない、と男の子が捕捉してくれて納得いった。そういう小さな、探偵事務所らしい。
ニューロマン・コダックル、みんなからはニューロって呼ばれてます、と自己紹介すると所長さんは目を輝かせて聞いてくれた。男の子はなんでこんなに嫌そうなんだろう。いつから働けます?と話を進めたがる所長さんとは裏腹に、男の子が「法的手続きを踏まないと検挙される」と落ち着いて勧めてくれた。この子がいないと回らないんだろうな、と早くも裏事情がわかっちゃうまっすぐな事務所。探偵事務所ってまっすぐでいいんだろうか、なんか違う気がする。
所長のアミノ・ファイバーさんは、五年前仕事をやめて探偵になった。前職の経験を生かして、どんな過酷な現場でも力の限り走り続けるのが自慢らしい。探偵ってそうだっけ。頭脳労働の話が全然ない。「気軽にアームって呼んでください、ニューロさん!」と力強く頼まれたので「アミノさん」と距離を置くことにした。まずはそこから、とアミノさんが私の手を取ろうとしたけど、男の子がアミノさんの手を叩いて止めた。見えないんじゃないのかな、狙ったように止められてアミノさんは一度引っ込んだ。
ファイバー探偵事務所の所員 兼 所長秘書をやっているという男の子は、私から見たら所長さんよりよほど気になる。この子が気になって立ち止まったんだし。目の見えないこの子……カルディン・ミネラクル君は、所長さんが事務所を開業した後しばらくして最初の所員になった。そのときにはもう目が見えなくて、所長さんの顔を知らない。人を見た目で判断しない、いい子ですよと所長さんが言っていてカルディン君は真っ赤になっていた。ニューロさんのお人柄も、オレには一目でわかります!ぜひ一緒に仕事をしたい!と一人だけ見た目で判断する所長さんに名刺をもらって、他の企業の人の名刺と一緒にポケットにしまった。お返事待ってます!と熱弁する所長さんと私の間にカルディン君が入って、無理しないでと言ってくれた。おかげで帰りやすかった。
※
「地球人かあ。じゃあ胎生だよね」
その後も就職活動は続いた。地球人の女性だから、結婚したら産休取るんでしょ?という生態的ハラスメント「エコハラ」が当たり前に面接官の間で飛び交っている。胎生の人は休むのが長いから卵生の人にしようか、妊娠したら孵卵器も使えないんだし、と思う企業がとても多い。最初の頃は「女性をなんだと思ってるの!」と怒る団体がたくさんあったけど、そうだそうだ!と言い始める人がいると「あんたたちみたいなゴキブリと一緒にしないで!」ともう誰が味方で誰が敵なのかわからない。ゴキブリから進化した星の人たちだって女性なわけで、ここで喧嘩すると女性の中で悪者になってしまう。いつかどこかの星の人が「バカらしいからやめにしようよ」と言ったみたいで、もうその手の論争はしないようになった。しないようになったけど私だって子どもができたら産休取りたいから「じゃあ卵生の方が」と言われたら言い返せない。孵卵器を使わずに孵したいというこだわりのある人は仕事をやめるけどみんなそうもいかない。孵卵器を使ってれば孵ったあと二、三ヶ月ご飯をあげていたら職場復帰できるから人事の人たちは卵生の人を取りたがる。私も惑星パゴスでカモノハシに産まれていたらもうちょっと就職が楽だっただろうけど、そういうマッドサイエンティストなことがよぎると怖くなるのであまり考えない。
気がついたら就職が決まってないのは私とカリンだけ。学校で歴史と神学を専攻していたカリンは事務や受付のお仕事をもらえず、企業側に敬遠されている。なんで?って聞いたけどわかんないらしい。同じグループにいたけどあまりしゃべったことのないカリンと、就職できない組として置き去りにされてよくしゃべるようになった。でもそんなカリンも、ついに就職が決まりそうだって喜んでいた。内定がもらえそうなの!って得意げだったからどこに行くか聞いてみた。そしたら、それってすごい場所で。
「デルドレッド・ウェーバー!」
デルドレッド!?って驚いて腰が抜けそうになった。デルドレッド連邦は昔から波動共鳴体の産出国として有名で、銀河系のエネルギーは80%以上が今でも波動共鳴体に頼っている。デルドレッドでだけ取れるエネルギー資源で、宇宙空間の波動を通してビッグバンのエネルギーの一部を取り出す。効率には理論限界があるけど使い切れっこない無限の電源と同じ。運用に必要な安定剤が高騰してるけど、絶対必要だから潰れっこない大企業。デルドレッド連邦の主要機関ともつながってるし、国の中の偉い人に会うこともある。見初められたら、お姫様になれるかも!カリンはちょっと夢見がちだから、そう言って喜んでいた。遂に私はひとりぼっち。人生は誰しも一人、就職活動はみんな孤独。あー、帰って寝よう。そんなことをもう二ヶ月も続けているからそろそろ危機感が積もってきて、ダメ元で当たってみることにした。こないだ名刺をもらった、探偵事務所。電話をかけてアポを取って、なんか嫌そうに時間を割いてもらえた。
事務所を訪ねると、カルディン君がすごく嫌な顔をして出迎えてくれた。どうしたの?って聞いたら「顔に出てます?」。目が見えないから鏡も見えなくて、自分がどんな顔をしているかわからないらしい。でも今舌打ちしたよね。それもわかんないのかなあ。就職できたらカルディン君は先輩になるから、あまり偉そうなことは言わずに待つことにした。そしたら、示し合わせたように入ってきたアミノ所長。お待たせしました!って探偵なのにタキシードが平服なのかなあ。真っ赤な薔薇の花束をもらったから横に置いて、話を聞いてもらった。アミノさんでは心配だからカルディン君に進めてもらう。アミノさんは酔うといつもこうらしい。お酒を飲んでるのかと思ったら「人生に酔うことがよくある」らしい。私みたいな人が来ると、特に多い……って言いかけたカルディン君は、ところで、って話を変えた。
「胎生ですよね?」
同じ星系の人なのにいきなりそれ聞く?って言いかけたけどギリギリ飲み込んだ。やっぱり卵生じゃないと、ってすぐに話を閉じられそうになって慌てていたら「まあ待て」ってアミノさん。みんな事情があるものだ、美人は特にね、ってとても酔っ払ってらっしゃるのでやっぱり別のところにしようかなあ。ウチの仕事内容わかってます?ってカルディン君は反対みたいだったけど、アミノさんはそうでもない。一度、体験してみます?って中学生みたいな職場体験を勧められた。子どもみたいだけど、仕事ってどんなものかそんなによく知らない。ここは探偵事務所だから、現場に近い。二人でやってるから事務とか手続きとか一通り体験できて、外部とのやりとりも見れる。企業ってこうだ、ってやってみるにはいいかもしれない。少なくともこういう企業もある、ってことだし。このとき私は、「こんな企業あってたまるか!」なんて言われる企業があるとは思っていなかった。
とりあえず一週間、ファイバー探偵事務所にお世話になる。アミノさんはぜひ新人を採りたいらしくて「所長秘書が欲しい!」とずっと言っていた。アームと呼んでください!と頼んでくるアミノさんと私の間に入ったカルディン君が「無理しなくていいよ」って止めてくれる。すごく頼りになるしっかり者の年下。大きくなったらモテるんだろうな。私は二人についていっていくつかの現場を回った。
浮気調査の仕事では「嫁さんいるくせに欲張りめうらやましい!」ととてもお怒りのアミノさん。なくし物を探して土管に入るカルディン君は、コインを拾って帰ってきた。暗い場所はお手の物。いなくなったペットを探してほしい!と頼んできたご令嬢はとっても美人だけど、肌が真っ青の星の人。でもアミノさんはお構いなしで「お任せください!」とジャングルに飛び込んでいった。色とりどりの恐竜がズシンズシンと歩いているけど、死なないのかな。「さすがに入らないで」とカルディン君が止めてくれて、一時間ほどでアミノさんが帰ってきた。緑色のヨークシャーテリアをジャングルの中でどうやって見つけたんだろう。ご令嬢は喜んでくれたけどペットに夢中で、アミノさんは見ていない。報酬はお付きの爺やさんにもらった。お嬢様がお喜びで、と約束より弾んでくれたのにがっかりしているアミノさんはお金ではないもののために飛び回っているらしい、何かは知らない。お疲れ様です、と声をかけると疲れが吹き飛んだように喜んだ。「アームと呼んで」と言い終わらないうちにカルディン君が止めに入るのは、すごい息の合い方だと思うけどアミノさんはなんで嫌そうなんだろう。そろそろ研修も終わりに近づいた五日目、「就職先どうしよう」と考えているとアミノさんとカルディン君が言い合いをしていた。断ってられないじゃないですか、と言い張るカルディン君だけど「しなくていい」と突っぱねるアミノさん。したくない仕事が、何かあるらしい。その仕事というのが、聞いたことのあるようなもので。
「行かなくていい、デルドレッドなんて」
……デルドレッド?って聞いたらアミノさんが喜んだ。会話に入ったのはそういう流れだったからで、私も避ける理由はない。友だちが、そこに行くんです。就職で。……アミノさんの顔が、急に怖くなった。怒っているというより、何か真剣で、ふざけた感じがない。「……波動共鳴体?」ってカルディン君に聞かれて、なんでわかるんだろうと思ったけど先に「うん」って言っちゃった。アミノさんは、仕事を引き受けるらしい。私たちの乗ったボロボロの小型宇宙艇は、デルドレッドに向かった。
話を聞いてるとすごく大きな契約で、なんで断ろうとしてたんだろうと思ったら理由があるらしい。小さな事務所に大きな契約が来るのは危ないとき、というのもあるけど恐竜ほど危ないわけない。アミノさんが気にしていたのは、カルディン君。カルディン君の出身は、旧デルドレッド連邦。解体してわずかに小さくなる前の連邦の端っこで、カルディン君は生まれた。惑星内で国家が独立するのは今の時代ではとても大胆なことで、「生意気な!」って感じで喧嘩になる。カルディン君のいた町は、ひどい目にあった。……カルディン君は、ひどい目どころか目が見えなくなって、アミノさんがどんな顔をしているのか今でも知らない。仕事がないからって、戻る必要ない。それがアミノさんの言い分だったらしい。カルディン君と知り合ったアミノさんは前職の経験を生かしてファイバー探偵事務所を作って、今に至る。アミノさんの前職は……「バカらしいから言いたくない」らしい。顔も知らない相手は、信用しちゃいけない。でもカルディン君は、目が見えない。「一緒にいたらどんな人かくらいわかる」。当たり前でしょ、って言われて、とても立派な子だと思った。
依頼は、波動共鳴体の安定剤を不法に取引している場所があるらしいから、調べてほしいというもの。昔は原始的な調合だった安定剤は、作ろうと思えば作れるからがんばって作る人がいて、ホームセンターの材料でも不可能なわけじゃない。失敗したら危ないから、法的に禁止されてるけど……どこかで製造されている粗悪品の出元を、調べてほしいというものだった。




