第6話 ミナト、制服デビュー!?
商店街サポーター就任から三日。
交番の裏手にある物置部屋で、雷は段ボール箱を前に腕を組んだ。
「……で。これが“支給品”ってわけだ」
箱の側面には大きく《浅草商店街公式サポートキット》と印字されている。
ミナトはワクワクしているのが一目でわかるほど、青い光をぱたぱたと瞬かせていた。
「開封しましょう! 期待値が高まります!」
「期待値とか言うな。現実見ろ現実」
雷がカッターで慎重に封を切り、段ボールを開くと――
「……え、これ……」
中に入っていたのは、予想の斜め上だった。
【中身】
・交番カラーのミニ法被型カバー
・ちいさな提灯型の側面パーツ
・浅草の家紋風デザインのタスキ
・『安全第一』と刺繍された前掛け(AI用に固定ベルト付き)
・そして極めつけは、雷門モチーフの前面プレート。
「……ダサいとかそういう以前に、誰が着るんだよこれ」
「私です!」
ミナトが即答した。
雷は額に手を当てる。
「いやさ……着るっていうか、装備? 付ける? いや、どうなるんだコレ」
「とりあえず装着してみますね!」
ミナトが箱の側でふわりと静止し、装着モードに入った。
小さな機械音がして、部品がひとりでにミナトの表面に吸い寄せられる。
――ぱちん、ぱちん、と固定音。
「……出来ました。カミナリさん、どうですか?」
雷は言葉を失った。
ミナトは、**小さな法被を羽織り、提灯を両脇に備えた“和風ドローン”になっていた。
しかもタスキが斜めにかけられ、胸(というのか?)には雷門プレートが輝く。
「……お祭りの屋台から逃げてきたんか?」
「ありがとうございます! お祭り、素敵ですよね!」
「褒めてねぇよ!」
そこへ、交番の戸が開いた。
郵便配達のおばちゃんが目に入った瞬間――
「あらまぁ! かわいいわねぇ!!」
「嘘だろ!?」
おばちゃんはミナトの周りをくるくる回り、提灯をつつきながら笑った。
「これなら観光客さんにも親しみ持たれるわよ。
なんだかんだ浅草ってこういうのが一番なのよねぇ」
「……そういうもんですかね」
「そういうもんなのよ」
雷は肩の力が抜けるのを感じた。
ミナトは誇らしげに光を放つ。
「カミナリさん、私は“浅草仕様”になりました。
これからは温度と情緒を大切に、街に馴染むAIを目指します!」
「その目標はすごく良い。実現可能性はともかく」
「前向き評価ありがとうございます!」
そこへ、ピピッと警告音。
「……ん? ミナト、何だこれ」
「カミナリさん。装備重量が増えたため、走行性能がやや低下しました」
「やっぱりかぁああああ!!」
交番に、情けない雷の声と楽しそうなミナトの機械音が混ざって響いた。
浅草交番の新しい朝は、今日も賑やかにスタートする。
制服――いや“浅草仕様装備”の試運転として、雷とミナトは仲見世通りを歩いていた。
平日の午前中、観光客はほどほど。
ミナトはゆったりとした速度でふわふわ浮かびながら、行き交う人に軽く会釈までしている。
「カミナリさん、浅草仕様の効果、想像以上です。
皆さん笑顔で挨拶を返してくれます」
「そりゃそうだろ。怒れる見た目じゃねぇし。怖さゼロだもん、お前」
「ありがとうございます!」
「褒めてないからね!?」
そんな軽口を交わしていた矢先――
「では速度試験モード、行ってみましょう!」
「ちょ、待っ――」
ミナトのボディに青い光が走った。
装備に付いた提灯が微妙に空気抵抗を生み、法被がぱたぱたとはためく。
「加速します! 目指せ時速――」
――ぶわぁっ。
次の瞬間、ミナトは右方向に大きく流された。
「うわわわ!? 制御不能!? 風、想定外です!」
「だから言ったじゃん!? 装備で空気抵抗変わるって!」
「浅草仕様、風圧耐性が不十分でしたーッ!!」
ミナトの小さな提灯がくるくると回転し、法被がパラシュートのように空気を受けてしまう。
ドローン本体はぶれにぶれ、制御スラスターが悲鳴のような音を立てた。
「ミナト、落ちるぞおい!!」
「カミナリさん、私の高度維持アルゴリズムが……ががっ……」
がくん、とミナトの高度が一気に下がる。
道の先には、風で乾かしている海苔屋の洗濯物が!
「やばいやばいやばいッ!!」
雷がダッシュする。
頭の中で、(商店街サポーター就任三日で廃業の危機)という文字が回った。
「ミナトーッ!! 電力節約モード解除! 全出力で浮けっ!!」
「解除します! が、提灯が空気を……ぐるぐる……っ」
「だから外せぇええッ!!」
雷が飛び込んだ。
着地と同時に両腕を伸ばし、海苔屋の物干し竿に激突する寸前のミナトをギリギリキャッチ。
着地の衝撃で石畳が痛むほどだったが、なんとか被害はゼロ。
「……あっぶな……!」
「カミナリさん……受け止め、感謝します……!」
「感謝だけで済めばいいけどさ……!」
頭上で海苔屋の店主が、お茶の湯気と共に顔を出した。
「あーあー、危なかったねぇ。
でもまぁ、落ちないで済んだだけマシだわ」
雷が深々と頭を下げる。
「すみません、すみません、本当に……!」
ミナトも回転しながら頭(らしき場所)を下げた。
「申し訳ありませんでした。
この件についてはソフトウェア修正、ハード修正、提灯の空気力学的検証を――」
「とりあえず提灯外そうな?」
「はい」
海苔屋のおばあさんはくすくす笑った。
「でもねぇ、可愛いから許しちゃうわよ。
こういうのも浅草らしいと思えばさ」
「……ほんと、ありがとうございます」
ミナトは静かに言った。
「私、浅草で生きたいです。
だから……もっと皆さんに馴染めるように、頑張ります」
雷は小さく笑う。
「その意気だけは、ホント立派だよ。
問題は実行力と運と謎のバグだな」
「バグは直します!」
「直してくれ……!」
その瞬間、ミナトが小さな警告音を鳴らし、ディスプレイに文字を投影した。
《システム通知》
装備干渉による飛行事故 → レポート自動送信済み
送信先:浅草警察署・商店街連合会・テレビ局
「送るなああああああああああ!!!!」
仲見世通りには雷の叫びが響き渡り、観光客の笑い声が混ざる。
今日も浅草は、平和で――やかましい。




