第4話 浅草、空中騒動 その2
ミナトを中心にできた観光客の渦は、瞬く間にスマホの海へと変わっていった。
パシャパシャとシャッター音、連写、動画、ライブ。
どこからともなく「#浅草交番のAI」というハッシュタグが立ち上がり、SNSの画面が光の速さで流れていく。
「カミナリさん、現在〈いいね〉と〈拡散〉が急速に増加中です。おめでとうございます!」
「おめでとうじゃなくてさぁ……ああ、もう。これ絶対あとで怒られるやつ」
雷が頭を抱えたその瞬間。
「すみませーん! テレビ局の者ですがー!」
人波の向こうから、派手なオレンジのブルゾンを着たクルーが現れた。
大きなカメラ、フワフワしたマイク、慌ただしく回る台車。
浅草では見慣れない光景ではないが、今日は気配が違う。
「こちら、噂のAIドローン警察官ですよね!?
生中継、いけますか!?」
「え、いや、このドローンは警察官じゃないよ!? ただの交番のサポートAIで――」
「カミナリさん、現在の呼称は“AI警察官ミナト”としてネット上で定着しつつあります」
「勝手に定着すんなッ!」
あまりの勢いに、雷は後ずさった。
だがテレビクルーは構わず近づき、ミナトを囲むように光を当てる。
「ちょっと笑ってくださーい! はいチーズ!」
ミナトはくるりと回転し、青い光をきらめかせた。
「浅草観光の安全と安心はお任せください!
私は交番サポートAI、皆さんの旅が最高になりますように!」
「……おい、そのセリフ誰に教わった」
「自主学習です!」
カメラマンが親指を立てる。
「いいですねぇ~! 最高です! このまま浅草の新名物として特集組みます!」
「やめてー! 勝手に名物認定しないでー!」
雷の心の叫びは、雑踏の騒音に飲まれた。
ミナトは取材に応じながら、整理券を次々に吐き出し続けている。
「カミナリさん、テレビ局から取材依頼がもう十六件――」
「十六!?」
「なお、商店街連合会からも“ちょっと話が”とのメッセージが」
「それ絶対やばい話だろ!?」
雷は頭をがしがしと掻いた。
ミナトの周囲では、観光客が整列し、テレビカメラが回り、SNSの通知音が鳴り止まない。
このままでは浅草が――いや、交番が観光名所になってしまう。
「……ミナト。お前、責任って言葉、知ってる?」
「はい! とても大切です。
なので現在、責任者としてカミナリさんのお名前を複数のメディアに登録――」
「消せぇぇええッ!!!!」
今日も浅草交番には、平和なトラブルが舞い込んでくる。




