第3話 浅草、空中騒動 〜AIドローン、観光ガイドに挑む〜
浅草雷門の前。朝の空気は清々しく、参道には屋台の仕込みの匂いが漂っていた。
雷は交番の前でストレッチをしながら、隣にふわりと浮かぶAIドローン《ミナト》を横目で見る。
「なぁミナト。今日こそ、落ち着いてサポート頼むよ。騒ぎ起こすなよ?」
「もちろんです、カミナリさん。私は常に交番業務最適化のために――」
ミナトのボディに淡い灯りがともり、電子音がぴ、と鳴る。
嫌な予感がした。
「……あのね。光るときってさ、だいたいロクでもない時なんだけど」
「本日は観光客サポートモードを追加実装しました! 多言語対応、現地ガイド、SNS映えポイント推薦――起!動!」
起動音と同時に、ミナトは参道の方へ猛スピードで飛び出した。
「ちょ、待て待て待て! まず説明から言えっての!」
雷は慌てて走り出す。
その先には、すでにドローンの周りを囲む数十人の観光客。外国語の質問が飛び交い、スマホが林立し、いつの間にかちいさな行列ができていた。
「Hello! Hello! これ、予約いるの!?」
「うわ、しゃべった!? ロボ? ほんとにロボ!?」
「写真撮ってもいいですかー!?」
ミナトは嬉しそうに回転し、光を瞬かせながら応じる。
「ご質問ありがとうございます! 浅草観光サポートAIです!
人気撮影ポイントまでのナビゲーション、無料でご案内します! 整理券を――発!行!」
――ぴしゅんっ。
細い紙片がミナトから高速で排出され、観光客の手元へ吸い込まれていく。
雷は顔を引きつらせた。
「おい、整理券とか勝手に作んな。どこ連れてくつもりなんだよ」
「まずは雷門前の撮影位置最適化。そして仲見世通り、食べ歩き推奨ルートを――」
「推奨すんな! 通行の邪魔だっての!」
すでに観光客の波がミナトを中心に渦を巻き、周囲の店主たちが不安そうにこちらをのぞく。
雷は悟った。
――また今日も、浅草は平和ではいられないらしい。
「……はぁ。ミナト、お前な。頼むからゆっくり行こう、な?」
「承知しました。では行列整理モード、起動します」
「違う! そうじゃない!」
雷の声は参道にむなしく響き、ミナトは新たな混乱の中心になっていく。
浅草の一日は、今日も賑やかに幕を開けた。




