第1話 浅草交番の雷さん、AIと出会う
雷門の前では、観光客が列を作り、ロボットがその横で自撮りポーズの研究をしている。
境内の方からは、AIが音頭を取るラジオ体操の声まで聞こえてきた。
「……はぁ、ほんと景色変わったよなぁ。俺が新人の頃は、鳩くらいしか飛んでなかったのに」
交番で湯飲みを片手にぼやいているのは――そう、雷さんこと
雷電轟。
五十路手前、機械オンチ、でも誰よりも街を愛してる男だ。
そこへ、交番のドアが勢いよく開かれた。
「し、失礼しまぁすっ! 助けてください警察さん!!」
飛び込んできたのは、観光ガイドの制服を着た若い女性。肩で息をしている。
「落ち着いて。深呼吸。どうしたの?」
雷さんが椅子を勧めると、彼女は泣きそうな顔で説明した。
「うちの会社の配達ロボットが暴走して……! 雷門前を猛スピードで走ってるんです!」
「ロボットが……暴走?」
どこかで聞いたことあるような話だが、雷さんは眉をひそめて立ち上がる。
「つまり、歩行者天国を逆走中ってこと?」
「は、はいっ! しかも観光客を避けながら写真撮ってて……!」
「写真? 暴走するのに?」
雷さんの頭に疑問符が浮かぶ。
そのとき――
ピィィィィィィン!
交番の外から電子音が響いた。
次の瞬間、白いドローンが窓の外にふわりと浮かび、スピーカーから声がした。
『状況を確認しました。浅草交番との連携モードへ移行します』
「……え、連携モード?」
雷さんの湯飲みが、手から落ちそうになる。
『初対面ですね、雷電轟巡査。私はAI・ミナト。浅草地区の安全支援AIです』
「AIが、俺の名前……知ってんの?」
雷さんは困惑しながらも外に出る。
ミナトと名乗るAIドローンは、雷さんの目の前で一度深く旋回し、頭を下げるような動きをした。
『協力をお願いします。暴走ロボットの停止作業に、あなたの経験と判断が必要です』
「いやいやいや。俺、機械オンチだよ?
ボタンひとつ満足に覚えられないし。昨日なんてLINEスタンプの買い方で三時間迷ったし」
『大丈夫です。ボタンは私が押します。雷さんは“決める”だけでいい』
雷さんは目を細めた。
突拍子もない言葉だが――なぜか心に刺さった。
「……分かった。じゃあ、頼るよ。
困ってる人がいるなら、助けなきゃな」
ドローンのライトが一瞬明るくなる。
『了解。作戦開始』
交番の外、浅草の街へ。
人混みの向こう、暴走ロボットの形をした白い影が確かに走っていくのが見えた。
「よし……行くか」
雷さんは帽子をきゅっと押さえる。
浅草の街を守るのは、人かAIか。
その答えは、まだ分からない。
ただ一つだけ確かなのは――
この街で今日から、物語が始まるってことだ。




