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プロローグ
夜の道を走る車内。
母が振り返り、柔らかい笑みを浮かべる。
「ベルト、ちゃんと締めた?」
助手席の父はハンドルを軽く叩きながら、くだらない冗談を言う。
「おいおい、シートベルトなんて飾りだろ。俺のドライビングテクがあれば──」
「また始まった」
そう言って大貴は窓の外へ視線を逸らす。
隣では妹が声を上げて笑っていた。
──あの瞬間までは、世界は平和だった。
ワイパーが急に軋む。
雨粒の向こう、眩しすぎる光がこちらへ突っ込んでくる。
父の顔が強張る。
「──ッ!」
轟音。
車体がねじ切られるような感覚。
世界が反転する。
ガラス片が宙に舞い、妹の細い悲鳴が途切れる。
光と衝撃がすべてを呑み込む瞬間──