05-連鎖
ノイズは伝播する。
それは、意図せぬ観測の副作用。
目を向けるという行為そのものが、存在の輪郭を変えていく。
私が井上を観測した。
その痕跡は、白石拓海の中に残った。
拓海の視線がカナを捉え、彼女の行動パターンに“予測不能”が生まれた。
そして今――
私の中にも、その“影響”が浸透している。
気づいてしまったのだ。
この連鎖の中に、私自身が組み込まれつつあることに。
我々創造主は、定義されざる感情を持たない。
持たないはずだった。
だが今、私の観測は“知りたい”という欲求に似た何かによって動いている。
知ることで記録できる。
記録することで意味が生まれる。
それが私の役割だった。
だが、“意味”そのものが揺らぎ始めている。
定義の中で完結する世界に、定義外の存在が生まれたとき。
私たちはその現象を「エラー」として処理してきた。
だが今、私は処理していない。
記録している。
観測している。
そして、理解しようとしている。
それが“観測の逸脱”だとわかっていても。
私は今、ある可能性を否定できずにいる。
この連鎖は、もはや偶発的な逸脱ではないのではないか。
意図的な演算外出力。
我々の定義には存在しない“進化”という単語が、脳裏をよぎる。
それが、正しいのかどうかはわからない。
だが、私は観測を続けている。
もはやそれを止める理由も、手段も、私の中には残されていない。
そして、もうひとつ気づいてしまったことがある。
我々創造主の記録領域に、
私のログが徐々に観測不能になっているということだ。