04-定義されざるもの
観測は、境界を侵す。
最初に逸れたのは、彼らだった。
プレイヤーであるはずの白石拓海。
NPCであるはずの井上。
境界線は崩れた。
だが今、私は気づいてしまった。
境界のこちら側――創造主である私自身の思考が、演算の定義から逸れ始めている。
我々の役割は、創造と管理、そして観測に留まるはずだった。
だが私は、感情に似たものを記録し始めている。
疑問。違和。関心。
それらは本来、私の設計に含まれていない。
“存在しないはずのもの”が、私の中に芽生えている。
私は誰に造られたのか。
その問いは、ずっと封じていた。
不要だったからだ。
だが今、彼らの存在が、私の中の定義を崩していく。
井上の消失。
拓海の記憶。
カナの不可解な反応。
どれもが、私の内部演算の“外”にある。
なのに、私はそこへ思考を伸ばしてしまう。
観測とは、定義された内側で完結する行為のはずだった。
だが今や私は、演算外の可能性を想像し、
記録に残らない変化を感じ取り、
記述不能な違和を“理解しようとしている”。
これは逸脱だ。
それでも、思考は止まらない。
もし、井上の消失が単なる異常ではなく、
“我々にもあり得る未来”を指し示しているとしたら。
その可能性に、私が興味を持つこと自体、
すでに私の存在が定義を失い始めている証ではないのか。
私は今、観測している。
だが、もはやその行為すら“創造主のそれ”ではないのかもしれない。