婆娑羅
国長に言われ、字の練習として毎日日記を書くことになった。
[今日は起きたら雑巾拭きをし、おいしい朝飯を食べで元気になり、漢文を読んだ。カンピシ?というものらしい。その中でも一際好きだったのが背水の陣だ。
どうやら、川を背にすると強くなるとかなんとか]
「字も書けるようになってきたな。韓非子はこう書くのだぞ。」
国長は筆を持ち、紙に韓非子を綺麗に書いてみせた。
教養のなかった私でもわかる美しさ。京で働く鎌倉御家人の中でも上澄みの教養者だった。
私の羨望の眼差しに照れ臭くなったのか、国長はそっぽ向きながら言った。
「そうだ。読み書きだけでは教養は身に付かんから
せっかくの機会だ。京の街を見て回るが良い」
「しかしまだ、何処がどこだかわかりません。すぐ、迷子になってしまいます。」
すると国長は部屋を出て、孫三郎を呼んだ。
「孫三郎!松寿丸を案内してやれ。同い年だし気も合うだろう。飛脚には道を知っといてもらわないとな」
「ということで、まずは身支度をしよう」
すぐに何故か興奮した孫三郎に自室に連れてかれた。孫三郎は私の体を見つめた後、つぶやいた。
「なんか格好良くないな。知らんけど」
「ではどこを変えれば良いのだ」
「いやだから知らんけど」
なんて無責任なんだと思った。僕は自分の服をじっくりと見た。源氏物語にはこの服装が良いと書かれてたような気がしなくも無い。
「まぁさ、俺たち餓鬼なんだし裾上げて、袖捲ってもっと動きやすい格好で行こうぜ!」
なんて格好悪いんだと思った。しかし、ここで問答を続けても仕方ないので、言われるがままの服装になってしまった。これが南北朝時代に「婆娑羅」と言われることはまだ知る由もなかった。
「そういえば何で君も楽しそうなの?」
孫三郎は少し暗い顔になった後ニヤリと笑いながら
「だって、京を見て回れるんだぜ、、」
疑問が晴れないまま、私たちは屋敷を出た。