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出陣前夜 ~プロローグ~
「聞かせてください。あなたのことを」
出陣前夜、妻は真剣な眼差しで言った。僕は咄嗟に返した。
「正行様がお待ちだ。すぐに行かねばならん」
正直なところ時間に余裕はあるが、妻の顔をこれ以上見ると、別れを惜しみ、戦場に出れなくなると思ったため、早く出ようと思った。
しかし、妻はより険しい顔になって言った。
「知っています。小楠公がお待ちなことも、この戦が厳しいことも。私は無論、あなたが生きて帰ってくると信じていますが、戦の行方は分かりません。
ので、話してほしいのです。あなたの半生を」
ぼくは、少し考えた。自分は何者かを。いや、ずっと考えてきたことだ。でも、答えは分からない。ならちょうどいい機会だ。自分が何者かを探すために記憶の旅に出よう。ついでに心の整理も,,,
「わかった。命令の時間まで少しある。くだらないが聞いてくれ。」
妻は少し微笑み、私の顔を見つめた。
登場人物
主人公:楠木正行の家臣。明日から大戦に臨む。
妻:主人公を愛す。出陣前夜に身の上話を聞く。