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【◐ な ろ う の か み さ ま ◑】

作者: 塩谷 文庫歌

 オレの創作意欲は涸れ果てた。

 もはやなんの情動も示さない。

 心が死んでいる。

 心が死んだのだ。

 もう、キーボードを押し込む気力すら萎えた。

 液晶画面のブルーライトで精神が燃え尽きた。


 死因は、これだ。

『 文 筆 家 に な ろ う 』 の ユ ー ザホ() ー ム 。



「なんでユーザ()ホームじゃないの?」



 死んだ魚の濁った眼で問いかける。

 なろう運営様独特の短縮形だった。

 何故か最後の伸ばし棒を嫌ってる。


 だが、もう諦めた。

 過去の話になった。

 こんな生活、もう沢山だ。


 [設定情報]を押し「ユーザ情()報編集」を選ぶ。

 ずぅ――――っと下へ、スクロール。



[ 退会手続きはこちらから行えます ]



 そこに書かれていた警告文にヒヤリとした。



[ 退会するとデータはすべて削除されます ]



 なにが?

 すべて。


 勢いだけで書き続け尻切れトンボに終わった長編が。

 誰の心にも、かすりもせずに、放置している連載が。

 試しに書いた3つの短編が。


 1通だけ感想を頂いたエッセイが。

 (もっともこれは苦言だったが)


 かきあげた理想の世界と、かけてきた膨大な時間が。

 オレのユーザI()Dごと消滅する?



 ……望むところだ。

 こんな黒歴史を残すなんて、こっちから願い下げだ。

 そのすべてを、今、この場で消してやる。



「退会理由? このうえ、まだ文字入力させる気か!」



 知ったことか、空欄ママで逝く。

 なろうのオレは死んでいくのだ。



「誰も読んでくれない文字を入力するのは、もう沢山だ……」



 そして、オレは。



 そいつを……



[ 退 会 実行 ]を、押した――――



「@゜▽゜)ノ は~い♡ こんちわ~っ」

「な、ななっなんだ一体全体なんだ?!」



 自室に低く濃霧が立ち込めた。

 雲の上、という感じだろうか。


 そして、目の前に立っている謎の人物。


挿絵(By みてみん)


「なんで幼女が……」


「 な ろ う の か み さ ま ! 」

「 な ろ う の か み さ ま ? 」



 どこまで名字で、どっから名前?

 一体どこで区切ればいいんだ……

 それより、この子供、どこから入ってきた?!



「いわゆる、転生とかする系の女神様といえばおかわり……」

「ました。 ……いるんだ?! 本当にいるなんて感激だ!」



 思わず椅子から立ち上がった。

 椅子?



「えっ? ……じゃオレ、自室で座ったまま死んだの?」


「では 質問タ~イム♪ ほしいスキルを さずけましゅ♡

 次の なかから えらんでネ♪


  ▶ メテオストライク

  ▷ アセスメントブースト

  ▷ ホットリストレジスト

  ▷ インプレッション

  ▷ ランダムテイマー

  ▷ プラスメッセージ


 このうち1コの どぉれ?」



 いきなり「 メ テ オ 」から――?!

 どれもこれも凄そうな名称ばかりだ!


 でも……具体的な内容わかんないな?


 チートでウハウハ、ただの持ち腐れ。

 ゴ ミ カ ス ならば 転 生 後 秒 殺 。


 長年憧れてきた転生ライフが充実したものになるかどうか、それは、この選択にかかっている。一旦落ち着いて慎重にいこう。スキル選びで焦ってはいけない。


 まずは深呼吸から。


 すー はー


 いよぉし!



「あー。コホン。このメテオストライクとは?」


「はぁい! いっくよ~♪

 メテオスっとととなんでしゅか!ヾ( ゜д゜@」


「説明、まずは説明を!」

「おぉお? 質問板っ!」

「いいえ、違いますけど」


「え~っとね~ぇ? PVx★★★★★が発生」



 PV……プレイヤーの 、バイタリティ?

 ぱ ぱー ぴ ぷ ぺ ぽ …… フィジカル?


 子 供、わ か ら ん !



「すんごーい攻撃魔法?」

「こうげき? なんで~」


「PVっていうなにかで、隕石が5個降るとか」

「いんせき? そんなのあぶなすぎるでしょ♪」


「だから威力がスゴイ、みたいな……違うの?」

「ぶつかるの? おにいちゃんしんじゃうよ?」



 なんだ? ……どうにも拭えない違和感。

 不思議と、前世で聞き覚えのある単語だ。

 この幼女は本当に、転生の女神様なのか?


 見たかんじポワンと光っている、奇妙な棒を持っている、制服ともなんとも判断しかねるコスプレ風衣装を身に纏い、プラスチッキーなピーコックブルーの毛髪、背中にパタパタ小さい翼。これで飛べる?おしりから、しっぽが伸びてる。



「ちょっと失礼?」

「ぅひゃぁうん♡」



 えっ……軽い!!

 空中に5センチ浮いてるッ?!


 わ か ら ん ……



「おはなし中でしょ~! プンスカッ!」

「そうでした。メテオストライクとは?」


「小説を投稿して、見られたらね~ぇ?」

「投稿作品を見る。 ……PVのこと?」



「ぜったいに評価が10ptずつ入るの♡」



 小説を開く、それがPV。

 PVx★★★★★が発生。

 10ptの評価ポイントを確約?


 思わずペシャリと尻餅ついた。



「それっ……なろうの?」

「そうよ? なろうで!」


「 バ フ 効 果 え げ つ な い ッ !! 」

「異世界とか、いかないけどネ」



 異世界?

 チートキャラにもほどがある超高火力。

 それこそオレにとっては異次元の世界。


 素 晴 ら し い 能 力 ッ !!



「@゜▽゜) ではあらためまして~

  次のなかからえらんでネ♪


  ▶ メテオストライク

  ▷ アセスメントブースト

  ▷ ホットリストレジスト

  ▷ インプレッション

  ▷ ランダムテイマー

  ▷ プラスメッセージ


 さぁえらんで! どぉ~れ?」


「 1 個 ず つ 順 に 御 説 明 を ! 」





――――――――――――――――――





 オレは悩みに悩んだ。


 これほど頭を使うならキーボード打ったほうがマシ、そう思うほど慎重に吟味し何度も何度も比較検討して、吐き気をもよおし尿意をもよおし号泣したり喚いたり叫びながら床に壁に頭を打ち付けては正気を取り戻して葛藤し続けた。


 その結果。

 満身創痍ではあったものの決意した。



「ここはやはり、メテオストライクで」

「では! ここに~ぃ、おすわりっ!」


「え……こう?」



「@゜▽゜)ノ いっくよ~


  ひょーか? ぶくま? おともだち?


  ごりやく たくさん おやくそく☆


  どういう まほうが ごいりよう?


  ほしい スキルを さずけましゅ♡


  くるものこまばず さるのもにょ……のにょ

  なんだっけぇ?  ……さるのののわじゅ!」



「え? や、ちょっ後半! 後半それでOK?!」


「 めっ テ オ ス ト ラ ―――― ぃ く ☆彡 」

「 それっ い け ま せ ー ん ハ ッ グ ァ !! 」





 と……いうわけで(詳細は伏せておくが)。

 初志貫徹で、「メテオストライク」を入手。

 連載再開を喜んでくださった読者様の、僅かながらの反応があった。

 執筆そっちのけで、KASASAGA様に祈りつつ棒グラフを眺める日々。

 喜べたのは、そこまでだった。


 異様なほどの高評価でランキング入りを果たすと、ユーザ間の交流も拡がって、リアルを圧迫するほど多忙になったが、些細な問題だった。書き散らかした文章を推敲せずに投稿しても、スキルの恩恵で評価は変わらなかったから。


 が……風向きは変わっていく。


 連載執筆は行き詰まった。個人企画の参加が増えて隙間時間に粗雑で小粒な短編ばかり投稿し、それが不自然なほど高評価を得て、周囲との微妙な温度差が()()()となって不正行為を疑われはじめたころには、潮が引くように交流相手や読者様は去っていた。


 気付けばオレは孤立していた。


 死んだ魚の濁った瞳で、過去作の解析結果を閲覧。

 0ばかり並んでいる、PVが0なのだ。

 メテオストライク発動条件の、PVが。


 連載は2PVで、プラス20ポイント。

 今でも、メテオは効いている。



「でも…… メ テ オ 意 味 無 ぁ い 」



 以前なら、大喜びしていた評価。

 だからこそ痛感させられている。



「この20ポイント」



 まったく喜べない。



「読者様の押してくれた★なの?」



 そもそも、このスキルは本末転倒。

 全部が全部、★★★★★で塗り潰されるのだ。

 ★何個だったのか、押されたのかどうかすら。


 読者様との、大切な接点を失った。

 つまり……「デバフ効果」だった。

 これは外法、禁呪、使っちゃダメ。



「常時発動型・精神汚染系……メテオストライク」



 こころの支えを失って、またも心はポッキリ折れた。

 オレの心はなんの反応も示さない。

 執筆など、できるわけがなかった。

 退会処理すら億劫だった。


 今度こそ、残機はゼロ……


 ゲームオーバーだ――――


「@゜▽゜)ノ は~い♡ こんちわっ」

「あぁ。 ……あのときの、女神様?」


「しらみつぶしにやろっか? 基本から☆彡」

「だね、そうだよね……そうする。甘えてた」


「なにがたりなかったの~ぉ?」


「別に評価が欲しかったわけじゃない、みんなに読んで欲しかった、それを評価が低いから、評価システムが悪いからって責任転嫁したオレがいけなかった。連載は毎回失敗してた、完結させる自信がなかった。逃げた、短編に逃げてた。違った、短編こそ群雄割拠、固定客を掴むのは容易じゃない。バフ効果でなんとでもなると侮って……誰にも相手されなくなってた」


「どんなの書きたかったのかな」


「ずっと読んでた連載がいくつもあったし、自分ならこうするって何度も思った。いざやってみたら、どうもこうもない。連載は大変すぎた、更新が滞ると数少ない読者様はどんどん減った、すぐ誰も読んでくれなくなった。テンプレぐらい誰でも書けるとか、なろうは投稿が多すぎるとか、古臭くって使いづらいとか……なんか文句ばっかりになってたけど」


「みんないっしょのつかってるよ?」

「内容の問題だった、甘えてた……」



 謎の幼女は「よしよし」と頭をなでてきた。

 ひ弱な腕力に抵抗する気力すら出てこない。


 情けない、涙が出た。


 そして……


 なにこれ?



 頭 皮 と っ て も 気 持 ち い い !!



「さいのーなくても、それしかたないよ?」

「わかってる」


「ちゃんとかんがえた? なに書きたいか」

「考えた……つもりだった」


「シナリオも?」

「つもりだけど」



 謎の幼女は奇妙な棒でポカンと頭を叩いてきた。

 ゴシゴシ乱暴にオレの涙を拭きニコッと笑った。



「いっしょにかんがえたげる。胸アツなキャラ☆」




「 そ れ は ―――― ッ !!!」



 胸アツ……?


 謎幼女、胸の厚みはゼロなんではなかろうか?

 小首を傾げて「ん?」とニンマリ笑った。

 にょろにょろ動くしっぽが妙に気になる。


 しっぽ?


 そ こ …… 今 ど う で も い い 。

 胸薄こそ至高の嗜好、これも今は無関係。



「もしや……創作の相談に、のってくれるんだ?」


「もっちろんだよぉ♡ ふぁいと~ぉ!!」

「よ……よろしくおねがいいたします!!」


「@゜▽゜)ゞ よぉ~っし まっかせなさぁ~い♪」



 オレは初めて女神に出逢った、そんな気がした。

 この笑顔の女神様のために頑張れそうと思った。


 ノートとペンを机に置き、エディタ起動。

 大きく息を吸い込んで、あ、あれ?



「なにから始めればよろし……えっ? なんですか?!」


「なろうにすんでる。わたし、さいしょの読者様です♡」

「響きは甘いけど、それ、誰でもOKってことだね?!」


「そだよ? くるのもこまばず!」

「去る者も、追わないんでしょ?」



 プクーとホッペを膨らませ「きたじゃない!」と怒る。


 そうだ、来た、確かに来ている、ここにいる。

 なろうの女神様はオレの元へ再びやってきた!

 この、たったひとつの笑顔さえあればいい!!


 今度こそ転生し、オレはなろうで …… ん ?



 え、なに?



「書籍化できたらね?」

「え、いきなりそれ?」


「りっぱな書影をトップページに掲載したげる♡」

「なんで、着手する前から失敗フラグ発言を?!」


「なんで? ……それはね~ぇ?」

「それは?」


「@゜▽゜)ノ なろうのかみさまだから~.:*☆」



―――――――――――――――――――――――



☆*:.よんでくれて ありがとーございましゅ.:*☆


★をおしたら すごーく ごりやくあります

@゜▽゜)ノ でも おひとりさま 5こまで!!


 【♪ なろうのかみさまのおうた ♪】

  雲月さん つくってくれました♡

  GoogleDrive で 再生できます☆

  ▼ ず~っとスクロールしてネ!

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― 新着の感想 ―
[一言]  他のスキルの効果も知りたい!  お歌も聴いてきましたよ。  合唱してほしいですね(笑)  ポイントとかは結果論で、その前に求めるものが——っていうのは、数字「も」戦っているかたには、通じ…
[良い点]  そうそう、作中で疑問に思われている「文末の延ばし棒(ー)を省く」と言うのは、関西系の企業の表現に多いと思います。  京都が本社の任天堂の「ファミリーコンピュータ」とか、大阪が本社の「日本…
[良い点] ありがとうございまーーーす メテオストライクのこわさもよぉーーーくわかりましたぁ!
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