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プロローグ

当作品は番外編に当たり、銀の浄化に掲載されている物と内容がいくつかかぶっています。

また、エンディングが訪れ無いかも知れません。だらだらとした話になりますが、楽しんでいただければ幸いです。

 今日はいい天気だ。


 現在、俺の定位置と化している審査ゲートから空を眺めることはできない。しかし、俺はふと通勤中に見た空を思い出し、そう心の中でつぶやいた。


 先々週、我々国民を脅かしていた事件などまるでなかったかと思えてしまうほどに清々しく、雲ひとつない青天だ。


 空を見て感動を覚えると言うのはそれこそ久しぶりのことだと思う。


 まったく、俺はなに感傷に浸っているんだろうね。


 あぁ、無性に空が見たい。休憩時間はまだだろうか。


 雑多に交わる人の群れが視界の半数を占めているこの眺めも嫌いではないが、今の俺は広く開放的な風景を求めていた。


 膨大な雑音。賑やかで騒々しい。そんな音だが、つい先日までは今の比ではなかった。


 そういえば、その問題の事件は、場内に侵入した賊が帝国のお偉いさんを殺害したとか何とか、そんな内容が真面目くさったラジオ番組で報道されていたっけか。


 紛れも無く兵士という職に就き、事件当日まで王都で勤務していた人物とは思えないほど他人事な思考回路を持つ自分に苦笑してしまう。


 なんでも、そのお偉いさんは帝国から派遣された援軍のトップだとか何とか。


 数年前まで争っていた国の英雄、俺達からすれば殺戮者と呼ばれても仕方がない人物が態々現れた。どれほどの反感を買ったのか想像もつかない。


 しかし、その人物はラジオから流れた話を要約すると浄化の間に忍び込んだテロリストに果敢にも一人で最後まで対峙抵抗し、安置されていた聖光石(オーパーツ)と共に亡くなったとのことだ。


 立派ではある・・・・・・が、ご愁傷さまである。そこまでする義理があったのか疑問だ。


 そうそう、終戦の決め手の一つとされた人物、両国において意味合いは立場により大きく違うが大きな問題となっているとかも言ってたっけか。


 まぁもっとも、俺の立場的には無関係、とはいえないが直接影響がでるわけでもない。はっきり言ってどうでもいいと言えるほどに距離のある話であることに違いなかった。


 同僚や直属の上司なら話も別だが、そもそも面識があるはずも無い人物に感慨を覚えるやつは少数派であり、この反応が普通だと俺は思うわけで。



 ――不謹慎かね。


 しかし、まぁ結局のところ俺は一月以上ぶりに再開した日課とも言える仕事をすることに喜びを感じている。今なら、この兵士らしくないほどに平和で単調な審査ゲート官の仕事が好きかと問われたとしたら、確信を持って大好きだと答えることができるだろう。


 酷く残念なことだが、この騒がしくも賑やかな俺の日常風景にも愛着がわいてしまった。


 数カ月前までは、毎日繰り返えされる日常に嫌気がさしてきた生活だった。しかし、今回のことで、何事も平和が一番であり、この平凡でありきたりな日常ほど幸せなことはないとあの事件は改めて俺に教えてくれた。


 その点については、俺にこの平穏な日常の有難みを知る機会を与えてくれたわけだ。あの事件も俺にとって無駄とは言えない人生経験だろうよ。



 ・・・・・・いや、正直あんな経験は二度といらんが。


 とにかく、人類が滅亡するなどと言われない限り俺は関わることを拒否させてもらおう。そんな状況じゃどの道俺が何しても無意味だろうが。


 などと、どうでもいい思考をぐだぐだと脳内に流しながらと言う、とても真面目とはいえない状態で俺は仕事をしているのであった。


 おっと、仕事のようだ。


「身分証明書を掲示してください」


 う〜む、この台詞は一体一日に何度言っているのだろうか? 今度統計を取ってみるのもいいかもしれない。


「ハイ、どうぞ」


 いや、面倒くさいからいいか。


 証明書を手渡してくる女性に意識を戻す。


 妙齢の落ち着いた紺色でまとめた服装をした黒髪の女性とこちらも紺色のローブをすっぽりと纏った子供だった。修道女か何かか?


 フードに隠れて微かに見えただけだが、流れるような黒髪と金髪の対比が印象的な二人だった。


 しっかりと証明書を確認。ここは真面目にやらねばなるまい。


 証明書を見ると姓が一致している。ほぅ、姉妹と思ったが母娘ねぇ。ローブを纏った少女が妙齢の女性の手をしっかりと握っていた。その様子は、よほどひねてない限り、微笑ましく見えたことだろう。


 俺はその様子を見て口元を緩めると、確認のため書類に書かれている名前を繰り返した。


「はい、ジョイス・バーランドさんとメル・バーランドさんですね、それでは、良い旅を」

「ありがとうございます」


 俺に妙齢の女性が会釈をしながら微笑みかけ、隣の少女もそれに続いて無言ながらも会釈をした。


 う〜ん、いいね。


 そうだよ、この会話だ。このやり取りだ!


 俺の日常の象徴と言っていいだろう! 


 そして俺は二人に営業スマイルでない、過去を振り返った中でも最高と思われる笑みを浮かべ、二人に幸運を祈るとともに、このゲートから送り出した。


 二人はしっかりと手を繋ぎながら歩き出す。小声で行われているであろう会話は聞き取れず、彼女達の表情は伺えないが、それでも俺は二人が楽しそうに話しているように見えた。


「身分証明書を掲示してください」


 ――そしてこのすばらしい日常風景を噛み締めながら振り返り、次の客にいつもの言葉をかけた。



 俺に与えられた日常(アタラシイセカイ)に感謝の言葉を送りながら――。


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