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シャーロット王女の死【短編】

作者: 和執ユラ



 王城の自室でゆったりと過ごしていたシャーロットは、許可も得ずに部屋に立ち入ってきた突然の訪問者に視線を向けた。後ろに騎士を引き連れているその男は、冷然とシャーロットを見据えている。

 恐ろしいほどまでに整った顔立ちは、シャーロットとよく似ていた。


「シャーロット・カリスタ・リーヴズモア。お前に国家反逆罪の容疑がかかっている」


 温度のない声音を放った男は、この国の国王フレドリック。シャーロットの父親だ。


「弁明はあるか」

「――いいえ」


 悠然と微笑み、シャーロットは続けた。


「どこまで掴んでいるのかは知りませんけれど、恐らく全て事実であると思いますわ」


 悪びれる様子もなく紡がれた言葉に、フレドリックの纏う空気は更に冷たく鋭いものとなり、射殺さんばかりにシャーロットを睨みつけた。


「拘束しろ」


 王太女の国家反逆の疑い、そして怯む様子などなく落ち着き払った態度で本人がそれを肯定した事実に、騎士達は戸惑いを露呈してしまっている。しかし国王の命令に背くことなどできるはずもなく、また罪を認めたシャーロットを庇う理由もなく、彼らは彼らの役目に従い、シャーロットを拘束せざるを得なかった。


「今この時をもって王太女の地位を剥奪。サージェント侯爵令息との婚約も破棄とする」


 実の娘に向けているとは思えないほどの軽蔑を全面に出し、フレドリックは「連れて行け」と告げた。



 ◇◇◇



 リモア王国の第一王女であり王太女であったシャーロットは、王族用の牢の中に置かれたベッドに優雅に腰掛けていた。王族用ということもあり、特に不便を感じることはない。むしろ王太女生活より自由で気楽で、なかなか悪くない生活だと慣れ始めている。


 シャーロットにかけられている嫌疑は、国家機密を他国に売ったというものだ。隣国である帝国に。そして、国民の生活に関する調査書を改竄し、支援政策を縮小または潰したことも明らかになっている。

 全て事実なので、シャーロットは弁明しなかった。取り調べにも素直に、正直に答えている。なぜこんなことをしたのか――その理由については、明確にせず。それ以外のことは嘘偽りなく述べていた。


 牢で悠々自適に過ごしていたシャーロットは、牢の外、ここからは死角になっている階段の上のドアが開かれた音に意識を向けた。その後、階段を一段一段、ゆっくり降りてくる足音が響く。

 階段から現れたのはこの国の宰相を務めるサージェント侯爵の息子、クェンティン。彼は幼い頃からシャーロットの婚約者だった。それも数日前、国王の手によって破棄されているので、今はただの幼馴染みだ。


「――なぜ、このような愚かなことを」


 そう尋ねる彼の表情は厳しいものだ。幼馴染みとして、元婚約者としての親しみなど感じさせない、シャーロットの罪をただ責め立てるだけの雰囲気を纏っている。

 この男らしいと、シャーロットは意外に思うこともなかった。


「『愚か』? そうね、確かに愚かかもしれないわね。この国がどうでもいいからって、少し無謀だったわ。もっと徹底的に、慎重に動くべきだった」


 緩慢な動きで足を組み、手持ち無沙汰に長い髪に指を通す。己の行いを一切反省していないシャーロットのその姿に、クェンティンは酷く失望と嫌悪を抱いた。


「面会にいらしたジュリエット殿下に、心ない言葉をぶつけたそうですね」

「……は」


 思わず、シャーロットは冷たい笑い声を零した。どこか馬鹿にしたような、呆れたような色彩を帯びている。


「貴方はわたくしが国を裏切ったことよりも、あの子を泣かせたことに激昂しているのね」


 ぐっと、クェンティンの眉が寄せられた。

 妹のジュリエットが面会に来たのは数時間ほど前のことだ。シャーロットが国家反逆を企てるような人ではないと、何かの間違いだと訴え続けていた。そんな彼女が煩わしくて、言葉の刃を放って追い出したのは事実だ。

 シャーロットにとってジュリエットは、確かに妹である。二人きりの姉妹。けれど――仲が良いとは決して言えないし、少なくともシャーロットは妹を心底嫌っている。

 理由は単純だ。王太女として厳しく育てられたシャーロットと違い、ジュリエットはとても自由に育てられたから。


「貴方があの子に惹かれていることに、わたくしが気づかないとでも思っていたの?」

「っ……」


 不貞ではないけれど、その心の不誠実さを指摘され、クェンティンは息を呑んだ。

 彼はシャーロットの婚約者だけれど、いつだってジュリエットのことばかり気にかけていた。体が弱く庇護欲を掻き立てる、彼をよく慕っているジュリエットのことを。


「別に、貴方の心があの子に向いたところでどうでもいいのよ。わたくしは貴方のことが好きだったわけでもないし、政略結婚でしかないと認識してたわ。ただ、誰もがあの子に甘くてわたくしに厳しいこのリモアという国が、どんどん憎らしくなっていっただけ。だから裏切ったのよ」


 不可解だと、クェンティンは目を眇めた。その反応も想定通りで面白みがない。

 シャーロットの罪。その原因が自分達であることを、彼らは想像もしていないことだろう。


「あの男の娘、後継ぎとしてしか見られていないわたくしが、一体どれほど努力してきたと思う? わたくしはあの男みたいにただ一度見聞きしただけで全てを覚えたり実行できたりするような特技はないのよ。頭や運動神経がすごくいいわけでもないし、明らかにあの男より劣っているの。けれど凡人であることに甘んじることを許されないから、寝る間も惜しんで必死に勉強して、修行して、ようやく及第点をもらっていたわ」


 一つの失敗も許されない立場。それがこの国の王太女だった。完璧すぎる国王の後継者であるがゆえに、求められるものが多すぎて、窮屈で、苦痛なだけの地位。膨れ上がる期待に応えるには、到底足りない能力。それを補うにはただひたすら努力するしかなくて、それでも本当にギリギリのところに立っている。

 すぐ後ろには崖が待ち構えているような精神状態で、常に結果を齎さなければならない。完璧な国王と同様の完璧さを備えなければならない。それがいかにつらいことか、他人が理解できるはずもないのだ。


「それなのに、あの子は何? 教養はいつまでたっても拙いし、昔と違って体も多少は丈夫になっているのに、王女としての責任を果たしもしない。圧倒的にわたくしより劣っていて王女としての自覚も素養も足りないのに、叱られるどころか褒められて励まされてるわ。いつまでも甘えてばかりで、遊んでばかりで、それが許されることをなんの疑問も抱かずに享受して。腹立たしくて仕方ない」


 病弱ではあれど、王女として何もできないほどではない。出来ることはあるはずなのに、探そうともしない。

 ジュリエットは亡くなった王妃によく似ている。髪も目も顔立ちも、王妃から色濃く受け継いでいる。王妃を溺愛していた国王の想いがジュリエットに向くのは必然だった。

 一方で、容姿が国王に似てしまったシャーロットは、優しさに触れることのない環境下に置かれた。国王と同程度の能力を求められた。


「病弱で可哀想? ――ふざけないでよ」


 自由などない。家族だけの私的な場であっても、王太女としての立ち居振る舞いしか許されなかった。わがまま一つだって叶えられなかった。口にすることすら、厳しい叱責の対象となった。

 それに比べて、ジュリエットは違った。


健康な王太女(わたくし)より、自由な時間があったくせに。愛情たっぷりに、守られているくせに」


 静かな怒りと憎悪に燃える声に、クェンティンは動揺を露にし、瞠目した。その反応でさえ、シャーロットの癇に障る。

 シャーロットとジュリエット。第一王女と第二王女で、こんなにも扱いが違う。理不尽と言わずしてなんと言うのだろう。


「恵まれていることに気づきもしないあの子が、あの子だけを甘やかす貴方達が、わたくしをわたくしとして評価してくれないこの国が、本当に嫌いで忌々しいの」


 滅んでしまえばいいと、そう投げやりに思ってしまうほどに。


「わたくしだって、甘えてみたかった。あの男の娘だから、王太女だから許されないなんて、理不尽じゃない」


 一般の国民ですら、シャーロットを国王の娘としてしか見ていない。身分を隠して視察した時、それを思い知らされた。

 シャーロットが長年苦悩し、試行錯誤した末の大規模な生活支援政策の成功も、陛下の娘ならこれくらいできるよなと、シャーロットと会ったこともない彼らは笑って語っていたのだ。


「この国の人達と違って、エセルバート様はわたくしをただのシャーロットとして認めてくれた。一人の人間として見てくれた。だから貴方との婚約を解消して帝国に嫁ぎたいと、エセルバート様と結婚したいと申し出たのよ。いつも苦言ばかり呈されるわたくしよりジュリエットを女王にして周りが支えれば問題ないでしょうと」


 留学でこの国に滞在していたエセルバートは、隣国である帝国の皇弟。兄の皇帝とはかなり年が離れていて、仲は良いと聞いている。シャーロット達とは大違いだ。

 彼は、シャーロットの頑張りを認めてくれた。この国ではフレドリックの娘なのだから当然と認識されている全てを、シャーロットの努力の結晶だと褒めてくれた。

 初めて「シャーロット」として存在が許されたような気がして、歓喜が湧きあがった。母が亡くなって以来、人の温かみというものに初めて触れた。だから彼と共にいることを望んだ。恐らく、シャーロットが王太女となって初めて訴えたわがままだっただろう。


「けれどあの男、ジュリエットにそんな辛い立場を強いることはできないなんてほざきやがったのよ。わたくしはずっと後継ぎとして努力して努力して心身共に擦り減った状態なのに、あの子に降りかかる苦労は全部排除して、王女としての責任や義務に囚われることなくなんの憂いもなく過ごしてほしいなんて、そんなふざけたことを口走ったのよ? 大切な娘だからって」


 それはつまり、シャーロットは大切な娘ではないということに他ならない。ただの後継ぎでしかないと断言したのだ。


「この国にいる限り、『わたくし』は死んでいるのと大して変わらないわ」


 シャーロット個人は、この国では尊重されることがない。


「だからリモアの国力を低下させたかったの。帝国からの縁談を拒絶できないように。この先もこんな国に人生を捧げるなんて冗談ではないもの」


 王太女であるシャーロットは、正当に評価されない。常に国王と比較され続ける。この先もずっと、どんな功績を残したところで、当然だと片付けられる。それは耐えがたいものだった。

 愛国心なんて、とっくの昔に砕け散っていた。


「それに、あの男の評判も落としたかった。完璧だなんて信仰に近い尊敬を国民からも臣下からも向けられている、あの最低最悪の国王のね」


 この国は異常だ。国王をまるで神かの如く崇めている。彼が王であれば、この国は安泰だと。なんの心配もないと。先代の王が最悪の愚王だったから、国を立て直したフレドリックは皆から尊敬されているのだ。


「結局、あの男と比較するまでもなく平凡なわたくしでは出し抜くことなどできなかったわけだけれど……評判は傷ついたでしょうね。後継者の育成に失敗したんだもの。これは紛れもなく大失態よ。あの男の人生で、きっと唯一のね」


 計画は失敗してしまったけれど、国力低下だけが本命ではない。本当の目的の一つは嫌がらせ、意趣返し、復讐。それは成功しているから、おかしくて楽しい。


「ああ、本当に最高の気分だわ」


 すっきりとした表情で、シャーロットは微笑を零している。


「殿下……」


 シャーロットのこんなに穏やかな顔を、クェンティンは初めて見た。そして痛感した。それほどまでに、彼女の心は離れていたのだと。自分達が、そうさせてしまったのだと。


 ふと、シャーロットは目を伏せた。


「ジュリエットのように、わたくしも……あの男ではなく母に似ていたら、少しは大切にしてもらえたのかしら」

「あ……」


 彼女の口から零れた疑問。ずっとそんなことを思っていたのだろう。「シャーロット」には、王太女としての価値しかないのだと。


「疲れたから出て行ってくれる? もう話す気分じゃないわ」


 しっしと、虫でも払うような仕草でシャーロットは手を動かす。


「それと――階段にいるその人も、ちゃんと連れて行ってちょうだいね。無意味な叱責や罵倒で睡眠を邪魔されたくないから」


 ここからは相変わらず死角で見えない階段の方を一瞥したシャーロットは、もう興味をなくしたのか、こちらに背を向ける形でぽすりとベッドに横になった。

 クェンティンは口を開いたが、言葉は発さずに口を噤む。コツコツと足音を立てて階段まで行き、そこで待っている男をちらりと窺った。

 壁に背を預けて腕を組んでいた男――国王フレドリックの表情は、俯いていて髪が邪魔をしているせいで確認できない。しかし、その手にはぐっと力が込められていた。




 フレドリックは執務室に戻ると、肘を立てて組んだ手に額を乗せ、ずっと脳内でシャーロットの言葉を反芻していた。


「あの子の言った通りだ。これは私の過ちだ」


 こんなことになるまで、気づけなかった。自らを責めるしかない。


「陛下だけの責任ではありません」


 申し訳なさそうに表情を歪めながら、クェンティンは後ろで組んでいる拳を震わせていた。


「婚約者として、あのお方をお支えするべきだったのは私です。過ちを犯したのは私とて同じです」


 シャーロットとフレドリックは違う。そんな単純で当然のことを、考えもしなかった。

 違う人間なのはもちろんわかりきっていることだけれど、フレドリックの娘であり王太女であるから、能力面まで全て同じレベルを求めてきた。彼女の努力も苦しみも、何も知りもしないで。そばにいる立場だったのに、ずっとよそ見をして、彼女の悲鳴に気づかなかった。寄り添うことをしなかった。


 周囲の人間のシャーロットとジュリエットへの対応は、その差が歴然としている。それが当たり前だと、皆が皆、そう認識していた。王太女であるシャーロットと病弱なジュリエットとでは、その扱いに差異があって然るべきだと、そう思っていた。

 それ自体が間違っていたとは思わない。第一王女と第二王女ではその立場も責任もまったく異なる。けれど――悪い方に、明確な差がありすぎた。あまりにもシャーロットを蔑ろにしすぎていた。振り返れば振り返るほど、シャーロットを尊重したことがないのだと改めて実感する。

 王女でありながら甘やかされるだけの妹をまざまざと身近で見せつけられてきたシャーロットの心は、一体どれほどの傷を負ったのか。

 今更気づいたところで手遅れだ。一国の王女として絶対に選択してはならない手段に走るまで追い詰められたシャーロット。彼女との深まった溝が埋まることはないだろう。


 とにかく誠心誠意、謝罪をしなければと、まずはそれからだと、フレドリックが結論を出したところで。


「――陛下!」


 重苦しい空気が、ノックの後に聞こえた切羽詰まった声で切り裂かれる。フレドリックが入室の許可を出すと、扉を開けて入ってきた騎士が落ち着きなく膝をついた。


「報告いたします。殿下が……第一王女殿下が、いなくなりました!」


 騎士から告げられた言葉に、フレドリックはバッと立ち上がった。クェンティンも共に、すぐさまつい数十分前までいた王族用の牢へと向かう。


「これは……」


 王族牢の中は、衝撃の光景が広がっていた。

 強く鼻を刺激する濃密な血の匂い。石造りの床には大きな血溜まりがあり、シャーロットの姿はなかった。その代わりか、血に染まった布の切れ端が落ちている。

 その布は、シャーロットが着ていた質素なドレスのものだろう。


「シャーロット……」


 愕然としながら、フレドリックは娘の名前を呟く。その声は虚しく牢に響いた。



 ◇◇◇



 目を開いたシャーロットは、あの牢とはまったく異なる、統一感がありながらも華やかな部屋に、ぱちりと瞬きをした。


「ここは……」

「皇宮の私の部屋だ」


 降ってきた声に顔を上げる。シャーロットを横抱きにしている銀髪の青年が、ゆっくりシャーロットを降ろした。

 あの牢から、一瞬でこの部屋に移動した。これが魔術というものらしい。リモアでは馴染みがない、不思議な体験だった。


 青年――エセルバートは、シャーロットをソファーに導いた。シャーロットの隣に腰掛けると、華奢な手をとってその甲に口付ける。


「さて。これで君は自由の身だ、シャーロット」

「そうですわね」


 用意していた血をばら撒いた。何が起こったか、きっとリモアで解明されることはないだろう。その中でも確かなのは、シャーロットの命が絶望的だという結論のはずである。

 彼は、シャーロットを連れ去ってくれたのだ。


「それで、どうされますか? わたくしの情報があれば、リモアを帝国の属国にすることなど容易いですけれど。皇帝陛下への土産として差し出した方がよろしいでしょうか?」

「我が国は特に新たな地を求めているわけではないから、あちらの出方次第だな。君を手に入れた今、あの国に求めるものは何もない」


 この先、リモアが発展しようが衰退しようが、知ったことではないということだ。シャーロットを苦しめた国への気遣いなど、抱くはずもないのだから。


「君が滅ぼしてほしいというのなら別だが」

「いえ。最早必要のないことです。時間の無駄ですわ」

「そうか」


 シャーロットが構わないのなら、エセルバートもどうでもいい。


「そんなことより、君のこれからだ。もちろん私の求婚に頷いてくれるだろう?」

「はい、エセルバート様」


 嬉しそうに頬を緩ませて、シャーロットは頷く。エセルバートも満足げに口角を上げた。

 そもそも、二人の縁談をフレドリックが拒否したからこそ、今この状況は作られている。


「養子の話もすでにまとまっている」

「まあ。周到ですこと」

「父の従兄夫婦なのだが、優しく温かい人達だ」

「子供がいないのでエセルバート様が後を継ぐという公爵家ですか?」

「ああ。居心地の良さは私が保証する」


 幼い頃からエセルバートが通っている家らしい。公爵夫妻はエセルバートを実の息子のように可愛がっているそうだ。シャーロットのことも快く迎えてくれるそうで、普通の家族というものをよく知らないシャーロットは待ち構えている対面に実はドキドキしている。


「全部新しくしてしまいましょう。名前も改めたいですね」

「いいのか?」

「構いませんわ」


 シャーロットとジュリエットの名前をつけたのは母だったそうだ。ジュリエットは亡き母からの贈り物の一つなのだと大層嬉しがっていたけれど、シャーロットは特別だと感じたことはなかった。むしろ呪縛のようだった。

 正直なところ、フレドリックやジュリエットのせいで、母に対する愛情などとっくに消え失せているのだ。


「エセルバート様に呼ばれるのは好きですけれど、わたくしには特に思い入れもない名前です。どうせなら名前も変えてあの国との繋がりなど全て断ち切り、全くの別人として暮らしていきたいです。貴方と共に」


 リモアのシャーロットではなく別人として、新たな人生を歩んでいきたい。


「エセルバート様がつけてください。わたくしに、新しい名を」

「そうだな。何が良いか……」


 愛おしげに目を細めて見つめてくる彼に、彼女は楽しそうに笑みを浮かべ、己のこれからに思いを馳せた。


 その日、シャーロット・カリスタ・リーヴズモアは死んだ。そして、愛しい人に新しい生を与えられた彼女の、第二の物語が始まる――。



誤字報告の受け付けを終了しました。ありがとうございました。

※シャーロットはフレドリックを父として見ていないので、ただ王の後任として育てられたという認識が強いです。その心情的に、血縁色が強い跡継ぎではなく後継ぎを使っています。最後あたりの「エセルバート様が後を継ぐ〜」もその名残です。

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