核起爆室2
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莉愛は絢を見た。絢は素早く首を振ったが、莉愛はそれを無視して肩の高さに手を上げてコンテナの影から出る。
核起爆室からの照明が莉愛をほのかに浮かび上がらせた。
「!」
ガルムたちの顔が引きつる。同時に湧き上がった驚きと喜びの感情がガルムたちの顔を言いようのないものにしてしまう。二つの感情に引き裂かれているのだ。
「前田様……グラティア様」
「そう、あたしは前田莉愛です。あなた方に血をあげた前田莉愛です」
莉愛は五人のガルムたちを見回すと手を降ろした。ボタンに手をかけ、埃だらけのコートを肩から落とす。
薄暗い照明のなか、真っ白なワンピースがぼんやりと浮き上がった。まるで天使が舞い降りたような美しさだ。
あまりの美しさにガルムたちのSCARの銃口が落ちた。殺気が緩む。目が吸い寄せられてしまうのだ。
「核を封印させてください。そして、あなた方もあたしと一緒に来てください。あなた方のマスターにはなれませんが、何とか元に戻る方法を考えます」
これが莉愛と優貴の用事だった。
「ま、前田様」
いまにも跪きそうな風情の中央のアフリカ系のガルムが震える声を出した。悲しそうに首を振る。
「前田様、それでは困るのです。俺たちは愛し、この身を捧げる貴人が欲しいのです。貴人のお役に立ち、貴人の笑顔を見るのが最高の喜びなのです。それを与えてもらえないのであれば、一緒には行けません」
「それに、今あたしたちは内藤隼人様に忠誠を誓っています。前田様、あなたには従えない」
左のファストヘルメットにカメラを装着しているガルムが言葉を継ぐ。
莉愛は哀し気に首を振った。なぜ、この人たちは自分のために生きようとしないんだ。
「そうだ、あたしたちは内藤様にこの身をお捧げしているのだ。それを惑わすな」
「お前は我々を惑わす悪魔だ。そして、内藤様はお前を連れて来いと言ってるっ」
悲しげだったガルムが突如として高圧的になった。莉愛に会ったショックで一瞬思いだした莉愛への思慕とそれを受け入れてもらえなかった哀しみが、同じ絶対値をもって内藤への忠誠心と転じ、莉愛への憎しみに転嫁していく。
「そうだ、あたしたちを捨てたお前は敵だ。いいように甚振ってから内藤様に差し出してやるっ」
中央のガルムが顎をしゃくった。右のガルムがSCARを構え直し、前に出る。最新のつなぎ型のボディアーマーにARディスプレイつきファストヘルメットを身に着けたその姿はまるで、非人間的な怪物だ。
「動くなよ。銃で撃たれるのは痛いぞ」
髭面のガルムの口から涎が零れる。異様な興奮がガルムを捉えていた。聖なるものを汚す興奮だ。
「今、裸に剥いてやる。ああ、どんな声で鳴くのか楽しみだぜ」
莉愛の顔が強張る。
「ほら、手を頭の後ろに組め、跪け」
莉愛はくちびるを引き結んで、キッとガルムを見上げた。
「なんだぁ、その目は」
「いやだ。あたしは従わないぞ。誰かを踏みにじるような人には従わない。しかも、自分のためでもなく、誰かのためになんて最悪だ。あたしはそんなの嫌いだっ」
「こいつっ」
SCARのトリガーにガルムの指がかかる。莉愛は目を閉じた。未来の銃撃の衝撃に全身が緊張する。
田村さん……。
目を固く閉じた莉愛の瞼に優貴の笑顔が映じた。
『任せろ』
瞼の中の優貴が自信満々で莉愛に言う。
「え?」
「莉愛っ」
優貴の叫びがした。こっちは現実の声だ。
莉愛が目を開いた。
ガルムの背後から優貴が飛び込んで来る。
「今行くっ」
優貴は手前の四人のガルムたちを完全に無視して、莉愛に迫るガルムに肉薄した。慌てて振り向いたガルムがSCARを振り上げたところを肘で突き上げ、反転すると腕をとってガルムの下腹部に腰を叩きつける。一本背負いの要領だ。ガルムの躰が宙を舞った。ガルムたちに飛び込む。
状況の変化についていけないガルムを更に銃撃が襲った。追いついて来た大坂だ。突破する。ガルムたちは遮蔽物を求めて下らざるを得ない。
「莉愛っ」
「田村さん!」
大坂の銃声が聞こえる中、莉愛は優貴に抱き着いた。




