地下広場3
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「いけっ」
壁を飛び出してグロッグ26を構える。その途端にSCARの連射が優貴を襲う。優貴はすかさず壁に戻った。これがデコイだ。優貴が壁に戻ると同時に大坂が飛び出し、SCARの射手に45ACP弾をばら蒔く。優貴を狙っていたガルムが大坂へ薙射する。大坂が下がる。
優貴は大坂への射線の移動を確認することもなく、通路に飛び込んだ。グロッグ26をまっすぐに構えて連射するが、これも目眩ましだ。
ガルムのSCARがこちらを向く。
「大坂っ」
「あいよっ」
隠れていた大坂が再び飛び出す。両手保持でHK45C構えた。ヘスコ防壁からわずかに出ているガルムの顔にじっくり照準を合わせる。
やったれ!
銃声が鳴り響いた。
ぱっとガルムの顔面から血飛沫が上がる。45ACP弾の圧力に、ガルムの頭が上を向き、SCARの5・56ミリ弾を撒き散らして倒れる。これがショットだ。デコイで引き付け、精密射撃のための時間を稼ぎショットする。急造とは思えないコンビ芸に優貴はにやつきながら、一・三メーターほどの高さのヘスコ防壁に飛び乗った。勢いを殺さずに、片足を撓め、踏み切る。
同時に優貴は頭を下げた。胴回し回転蹴りの要領だ。跳ね上がった下半身が上に行き、眼下に見えるもう一人のガルムにグロッグ26を乱射する。
倒れたガルムに代わってSCARを構えようとしていたガルムは思わぬ角度からの連射に頭蓋骨を粉砕され、血を噴きだして倒れる。
優貴は何とか受け身をとって着地すると、振り向いてグロッグ26を構えた。
血塗れのガルムがふたり倒れている。ほかには誰もいない。悪いね、ガルム君。
「クリア!」
優貴はグロッグ26を構えたまま叫んだ。ヘスコ防壁の向こうで大坂が走り始めているはずだ。
優貴はグロッグ26をアンクルホルスターに突っ込み、ルーポロッソを取り出した。充分に冷えている。テンプルインデックスに構えると振り返った。奥へ走る。
「莉愛……」
「これでいいわ」
壁に押し込めたC4に信管を挿入し終わった絢がつぶやいた。
高さ五十センチの位置に開けられた穿孔に詰め込まれた乳白色のブロックからケーブルが垂れ下がっている。
「起爆装置を」
莉愛がベルゲンの中から小型のデヴァイスを取り出し、渡す。
絢はそれにケーブルを接続すると床に置いた。
「十分ぐらいでいいわね」
絢はデヴァイスに一とゼロを入力するとタップした。デジタル表示の数字がカウントダウンを始める。
「十分で逃げ切れるのか?」
莉愛は当然の疑問を絢にぶつける。
「いいのよ。そこの扉は対爆仕様になってるから。閉めてしまえば安全よ。相当揺れるだろうけど」
「なるほど、そういうことか」
「そのあいだにあたしたちはSHTFR(窮地用ルート)から逃げ出すってこと。行くわよ」
二人が莉愛を先頭に核起爆室を出て、入った時の同じように操作パネルに取り付く。
液晶は青い表示のままになっている。キィを挿入し、同時に回す。表示が黄色に変わる。
次にパスワードの入力をしてエンターを押せば分厚いステンレスドアが閉まる。
莉愛と絢が同時にパスワードを入力し、エンターを押した。壁の中のモーターが動き出し、厚さ二十センチはあるステンレスのドアが右の壁からせり出してくる。
莉愛はそれを見ると絢のそばに行って手を出した。絢がその手を取る。
「終わったわね」
「よかったのだ」
ほっと二人が息を吐いた。だが、その時。
「そこまでだ」
低くくぐもった声が響いた。
莉愛は全身の毛を逆立てて、声のした通路の奥を見た。
暗闇の中から男女五人の姿が現れ、左右から閃光が走った。火花を散らして操作パネルが粉砕され、絢の抗弾ベストから火の粉が舞い上がった。叩きつけられる5・56ミリ弾を受けながらも、絢が莉愛を通路の反対の壁に際においてあるコンテナの影に引っ張り込む。莉愛も胸に弾丸を受けていた。カーボン複合材を仕込んだネイビーのトレンチコートがなければ死んでいる。
「大丈夫?」
「うん。あたしは大丈夫だ。ちょっと痛いけど」
抗弾材は銃弾を止めてはくれるが、打撃までは止めてくれない。胸が痛い。
ふたりは、ステンレスドアが五十センチほどの隙間を開けて停まっているを見上げた。これではガルムにC4を止められてしまう。
「C4を解除すれば、われわれガルムが核のスイッチを握るということになる。そこから出て来い」
中央のアフリカ系の男が二人に命令した。




