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地下広場


66


 通路の右に大坂が駆けつけた。

「じゃまや」

 壁に寄り掛かっている黒い物体を押しのけ、抗弾ベストからアップルを取り出す。安全ピンを引き抜き、通路に放り込む。

 爆風が通路をどおもした。鼓膜を守るために大きく口を開け、耳を塞いでいた優貴は顔を出して、さらにルーポロッソを連射する。粉塵で白く塞がれた通路内に跳弾の火花と血煙が混じる。

「おい、こっちだっ」

 奥で声がした。ガルムが増援を呼んでいる。いい感じだ。

 ふと粉塵の中で人影が動いた。さっき優貴が蹴り飛ばしたガルムが起き上がったのだ。粉塵が薄くなる。

「うっ」

 優貴は思わず声を漏らした。

 最新の上下つなぎのボディアーマーにARディスプレイつきファストヘルメットをかぶったガルムの右半分と顎がなくなっていたのだ。アップルの榴弾に貫かれたらしい。

 だらだらと血を吹き出しながらも、ガルムはシグ・ザウエルP320を構えた。残った左目が鬼火を宿し、優貴と大坂を往復して、威嚇しつつ、後退する。

『あんなになっとるのに生きとる。ガルムっちゅうのはなんちゅう奴や。そりゃ、シールズはんも全滅するわけや』

 優貴が大坂を見た。

『判っとるがな』

 大坂が壁際から飛び出した。P90を構え、ガルムを狙撃する。反撃しようと頭を出したガルムが二人吹き飛んだ。だが、それ以上はうまく行かない。残ったガルムのSCARが大坂に集中する。銃声が充満し、壁のコンクリートが弾け、弾道が刻まれる。

 反対側の壁に寄った優貴が大坂に人差し指を立ててなかを示した。もう一回だ。

 大坂が頷き、抗弾ベストのアップルを放り込む。また、爆風が通路を吹き抜ける。

 今度は優貴が銃撃する番だ。壁際から飛び出す。だが、その瞬間、火線が飛んできた。慌てて優貴は壁際に戻る。

 爆風にもガルムたちは怯まず、SCARの弾幕を張ったのだ。手榴弾に乗じての突撃を予測して迎え撃つ。本当にこいつら知性を失ってるのか? そう思いながらも優貴は口元を緩めていた。

『この状態で三十分だ』

 銃弾の嵐を受けて壁に隠れながら、優貴は大坂にサムアップした。

 これが絢と優貴で立てた作戦のポイントだった。陽動でガルムを引き付けると言っても、逃げ回るわけにはいかない。そんなことをすれば、陽動だとばれてしまう。かといって核地雷へ向けて侵攻すればシールズ6と同じ憂き目にあう。ならばどうするか? その答えが膠着戦というわけだった。


「内藤様、ガルムのロバート・メンディから襲撃を受けているとの報告です」

 インカムを付けて、PCの画面を見ていた女が部屋の奥で背を向けて立っている内藤隼人に言った。小柄だが、肉付きのいい骨の太さを感じさせる女だ。

 内藤は振り返ることもせずに呟く。

「粉砕せよ」

「はい」

 女、加藤良子が回線をつなぎ、ロバートに命令を伝える。

「了解です(ウーオーツ・サー)」

 FEBの地下で直立不動で復唱するロバートの姿が見えるようだ。

「ガルムというのは、人間そのものだな。三宅元、そう思わないか?」

 加藤に背を向けている内藤が椅子に縛り付けられた初老の男に尋ねる。

 初老の男、三宅元はがっくりと落としていた頭をあげて、内藤を見上げた。切れ長の鋭い目とまともに目を合わす。

「さすが、我と同格のバロン。もう快復したか」

「そうじゃ、いくら痛めつけられてもわしは不死身。何度でも蘇る」

「しかし、不死身とはいえ痛みがないわけではない。繰り返される痛みはつらいものだ」

「経験ありじゃな? 内藤」

「ああ、以前の名前の時に、腐れ役人どもにな」

 内藤は左腰に差さっている日本刀の柄を叩いた。

「人間という動物は常になにかの奴隷になりたがる。親の、子供の、神の、権力者の、思想のな。考えることをやめ、奉仕することに喜びを見出す。仕える相手を見つけたガルム、嬉しさでいっぱいの声ではないか」

「そうであろうよ。グラティアの高濃度のフュシスを受けてしまえば、従命自動症を発症する。だが、本来人間はそうではない。人は自由を求め、さらに自らを律する力がある。わしはそれを信じておるのじゃ」

「ほう、それで姪の前田莉愛を誘き出すのを拒否するか、三宅? ディ様のおかげで不死身の躰を手に入れているにもかかわらず」

 銀髪にひげを蓄えた三宅は唇を噛んで内藤を見上げた。


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