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スナック・イザベラ2



「このあいだだって、スペインの人だっけ? 有名なサッカー監督のインタビュー、断ったらしいじゃない。大西さん、こぼしてたわよ。怠け者って」

「なんども怠け者って言うなよ。あの監督の言うこと面白くねぇんだもの。おれがやんなくても誰かがやるさ」

「ほんとに、よく暮らせるわよ、それで。まぁ、ゆうさんのいいところはがつがつしてないところっちゃ所なんだけどね」

 中里はそう言うとモーニングふたつね? と確認して奥の厨房に言った。

「ったく、初対面からペラペラしゃべりやがって」

 優貴は苦笑いを浮かべて毒づく。

「でも、いい人だ。ちゃんと最後には田村さんをほめてました」

 優貴は莉愛の言葉に微笑む。莉愛はちゃんと中里の繊細さに気づいている。

「あの、田村さん、怠け者なんですか?」

「なんだ、莉愛まで」

「だって、だらだら過ごすの好きそうじゃないのに、怠け者って言われてて変な感じがするのです」

 莉愛は相手に踏み込んでしまったと思ったのかまた独特の言い回しをした。

「そうだな。次から次に仕事をこなして、大儲けするってのには興味がないかもな」

「……」

 莉愛は無言でうなずいた。

「人間の欲ってのは果てしがない。百万稼げば、五百万欲しくなり、五百万手に入れば、次は一千万欲しくなる。際限がない。しかも、それを手に入れたところで、結局どうなるものでもないだろ? 究極の目標があるわけでもない」

「究極の目標?」

「ああ、神の国を作ることや、世界のすべてを理解して、すべての人々が理性的で、絶対自由を得る社会・世界を作るっていう目標を目指してる連中もいるけどな」

「ユートピアかな?」

「そう。でも、その言い方が古めかしくなってるだろ? 一般的じゃない。それで、何をやるにしても虚しさを感じる人々と、そんなものどうでもいいから、自分の欲を満たすためにただ儲けることを目指す人々になってる」

「それ、真実だ。あたしも、大人になりたいってなかなか思わないもの」

「かといって、働かないわけにはいかないしな」

「うん」

 莉愛は深く頷いた。

「でも、田村さんはそのどっちでもない気がするな。どうしてだ?」

 優貴は片方の口角をあげて微笑む。

「こんな話にずいぶんと喰いつくな」

 莉愛はあっと手で口を抑えた。自分の口調が変わってしまっていたことに気づいたのだ。

「ごめんなさい」

「いいさ。警護するのには遠慮があるより」

 両手を膝に押し付けて俯いてしまった莉愛に優貴は続けた。

「どうしてだろうな? まぁ、一つ言えるのは」

 莉愛が再び顔を上げて、優貴を見た。まっすぐな視線だ。

「それは」

 優貴は莉愛の顔を指さした。

「あたし?」

「そう、ウェブサイトの取材もそうだけど、荒事をやってるとこうやって手応えのあるやりたいことにぶつかるってわけさ」

「……やりたいこと」

 莉愛は首を傾げて目線を左下にやった。

「まぁ、巫山戯た面白がり屋だってことは間違いない」

 優貴はそう言うと親指で頬を掻いた。


「美味しかったです」

「だろ」

 莉愛がお腹をさすって笑顔を浮かべる。

「フレンチトーストかぁ、あたしも作ってみよう」

「お、いいね。おれは食べる役な」

「いいですよ。でも、食材は買ってきてください」

「おれ、食材を買ったことないな」

「ええ~、ほんとですか?」

「基本、外食かコンビニ」

「お金かかるなぁ」

「そうでもないさ。好きな時に好きなもの食べられること考えれば安い」

「わがままですね、田村さん」

「気づいた?」

「だいぶ前に」

 莉愛は笑顔を浮かべるとパッと優貴の手を取った。

「さぁ、帰ろう」

「ああ、警護の方法考えないとな。あとはそいつらの素性を洗い出す方法も」

 優貴の言葉に莉愛の顔が緊張する。

「大丈夫だ、何とかしてやるから、安心しろ」

 優貴は繋いでいる莉愛の手を強く握る。

「うん。大丈夫だね。怠け者の田村さんが全力投入」

 莉愛は巫山戯て見せるとへへぇっと笑う。そして、その手は優貴よりも強く握り返してきていた。


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