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エレベーターシャフト


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「ったく、憑いてねぇ」

 優貴は周囲の気配を再確認した。外に出る。

 天井をぐしゃぐしゃに破壊され止まったままのエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。ケージは無事に作動しくれた。上昇し始める。さすが日本製は違う。

 優貴は天井に口を開けているメンテナンス口を見上げた。軽くジャンプして、躰を引き上げ、ケージの天井に出る。鉄骨とコンクリートが高速で流れて、最上階へご案内だ。

 六階に着くと優貴はエレベーターシャフトの鉄骨に飛びつき、巻き上げ機などが置いてある機械室へと侵入した。整備用のドアを開けて、埃と黴の臭いのする天井裏へ移動する。

 優貴はサブのCICのPCからメインのCICの場所を如才なく掴んでいた。この階の東の翼端がその場所だった。

 優貴は暗い天井裏を忍者よろしく移動していく。


「こちらジュリエット。ミニ・クーパーのドライヴァー及び同乗者の身元識別終了。神宮司諒一と槇村香にて異常なし。対象はすでに解放」

 最後の報告に絢は唇をかんだ。一体どういうことだ。田村と前田はまだ館内にいるというのか。

「フォックスロットの報告は」

「さきほど報告あり。未だ対象の姿なし」

 そんな馬鹿な。外に出てもいなければ、館内をこれだけの時間をかけて、探索しても見つからないなんて。雲のように消えたというの? しかも、女を連れて。

「植田CO。どうします?」

 オペレーターが絢に指示を仰ぐ。

「いいわ、全チームを帰還させて」

「了解」

 オペレーターの応答とともに絢は椅子に腰を下ろした。深々と腰かけ、ヘッドレストに頭を預ける。

「そういうこともあります。相手が一枚上手だったということです」

 警備主任の慰めの言葉が痛い。アダムスPOOの叱責が聞こえるようだ。叱責は甘んじて受けなければいけないが、前田莉愛を取り戻したというのにまたすぐ逃すというのがやりきれない。しかも、前田の血が不死身の人間を作るということは証明された後にだ。絶対に取り戻さなければならない。

 絢は指で目頭を揉んだ。まずは基本に返らないければ。

「もう一度前田莉愛と田村優貴の情報を洗い直しましょう。行動パターン、知り合いを徹底的に洗う。そのうえで立ち寄り先を予測して、先回りすのよ」

「了解」

 CICのあちこちから応答が聞こえる。職員の士気の高さだけが絢の慰めだった。


 財務省上の霞が関料金所から帝都高速都心環状線に入ったポルシェ・カイエンの後部座席で、大坂がノートパソコンを開いた。

「どうするんですか?」

「売り込みや」

 メモリーを読み込ませて、大坂が画像をオンラインストレージにアップロード始める。

「売り込みって。マスコミか何かに?」

「アホかいな。マスコミなんかに売り込んだって一文の銭にならんわ」

「しかし、CIAエージェントを裏切った以上、マスコミなどで公にしてもらわないと報復されるのでは?」

「なにを言うとるんねん。マスコミがわてらを助けてくれたりするもんかいな。マスコミっちゅうのはな、正義の味方やないんやで。金をくれるやつらに都合のいい事と、馬鹿大衆の耳障りのいい事だけを、垂れ流しとる貧乏人や。そんな奴らのところにこんなええ話を持って行ってみ。表に出る前に、一番金をくれる官庁に忖度して握りつぶされるのがオチや」

「では、どこに?」

「まあ、まずは、日本政府やな、次にUKとフランス、ドイツ、それから本命はサウジや。あそこは次の産業として医療を考えとるさかいな」

「ロシアや中国は?」

「あほ。ほんまにあんた安物スパイ映画とかマスコミに吹き込まれた固定観念で出来とるな。仮想敵国に話を持って行ってみ、その瞬間に問答無用で目撃次第射殺シュート・オン・サイトやで。仲ええもん同士やからこそ、ビジネスになるんや。仮想敵国に持って行ってみい、金儲けどころやない。死ぬ」

 大坂は太田の世間知らずを馬鹿にして、犬を追い立てるように手を振った。ムッとするが太田はそれを押し殺す。この男の機嫌を損ねれば、それだけで怪我をする。さっき裏拳で殴られた頬が熱をもって鈍痛を発している。それにアップロードさえ終えてくれれば、何とかなるはずだ。

「お、ようやく終わったで。やっぱ、映像データは重いで」

 大坂が喜色満面といった声で手を揉むとキーボードをたたき出した。

 太田はその音を祈るような気持で聞いている。


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