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CIC(戦闘指揮所)2


31


「どうしてそんなことになってるのよっ」

 CIC(戦闘指揮所)で田村優貴と田村が連れ去ったとみられる前田莉愛の捜索指揮に当たっていた植田絢は現場からの報告に声を荒げた。

「申し訳ありません。尋問室B27付近で接敵し、デルタ・チームと連携して挟撃、ターゲットはエレベーターゲージの天井を破壊してシャフトに侵入し逃走を図りましたので、追跡したのですが、どこにも見当たりません」

「見当たりませんじゃないわよ。エレベーターシャフトに通じているメンテナンス口はっ」

「はい。それもすでに調査していますが……」

 大失態だ。絢はロレックスを見た。警備兵が田村優貴と前田莉愛を見失って十分以上経過している。

「方針変更。ターゲット二人は館外に脱出している可能性が高まった。館内の捜索はフォックスロットが専任。残りのチームは今からCICから送る出館者の追跡、身元識別アイデンティファイに当たって」

 絢は警備主任に今から二十分遡っての出館者の映像とデータを各チームに送ることを依頼する。警備主任はすぐさまデータを洗わせた。十件ほどの出館者が判明し、警備兵のチームに送られる。各チームが地下駐車場からフォードに乗り込んで飛び出していく。方針転換から三分と経っていない。さすがの機動性だ。

「逃がさないわよ」

 絢はメインモニターに映る田村の写真を睨みつけて呟いた。


「なんや、えらい騒動ですなぁ」

 大坂はIDカードを非接触センサーにかざすと警備兵に話しかけた。日本人の警備兵が制帽の鍔を押し上げて肩を竦める。

「だれか逃げ出したみたいですよ。警備部はてんやわんやで、捜索に出て行きました。まぁ、こういう監視カメラやドローンがある時代に逃げ切れるもんでもないでしょうけどね」

「そやな、馬鹿な奴や」

 警備兵は大坂が乗ったポルシェ・カイエンの窓から車内を確認した。ほかには誰も乗っていない。

「今夜の当直はツイてないですよ。ついさっきアネックスの方で銃撃騒ぎがあったかと思えば、今度は逃亡騒ぎでぎゃんぎゃん警備部からは言われるし、普段は静かなのに」

「そやな。でも、退屈せんで済む分ええんとちゃうかぁ」

 警備兵はまた肩を竦めた。

「そうとでも考えないとやり切れませんよ。はい。問題なしです」

 警備兵は手元を操作して、カイエンの前を塞ぐバーを上げた。

「おおきに。まぁ、もう何も起こらんことを祈ってまっせ」

 大坂はカイエンのシフトをドライヴに入れるとアクセルを踏んだ。地上へのスロープを上がりながらつぶやく。

「あほが。車内のチェックも碌にせんと金もらいおってから」

 大坂は大通りに出ると路肩にカイエンを止めた。ハッチバックに回って隠れている二人を引っ張り出す。

「あんたは、わてと一緒に後部座席や」

 莉愛を後部座席に押し込み、大坂がそのあとから乗り込む。

「わ、わたしは?」

 路上に取り残された太田が不安気に大坂に尋ねる。

「あんさんは、ドライヴァーやまずは首都高乗ってな、そのあとは東北自動車道を北上や」

「大坂さんは?」

「わて、わてか? わてはちょっとやることがあるんでな。ええ車やろ。ポルシェやで。安全運転でたのんまっせ」

 大坂はそういうとドアを閉めてしまう。太田は仕方なくドライヴァーズシートに乗り込んだ。


 十分ほどで外の喧騒が静かになった。優貴は用心深くさらに十分間、機械室の闇の中でおとなしくしてからドアを開けた。LED照明で照らされたエレベーターホールには誰もいない。近くに人の気配もなかった。うまくいったようだ。

 バッズの回線をつなぐ。捜索チームの報告が流れてきた。出館者を追跡している。優貴はそれをしばらく聞いてから外に出た。苦虫を潰したような顔をしている。捜索指揮している植田絢COは優貴が莉愛を連れ去ったと思っている。莉愛が連れ去れたことを通報して、FEBに捜索させようとしたのだが、思わぬ誤算だ。


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