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拷問室


28


「ちぇっ、あんたとは友達になれねぇな」

 また、金髪近所迷惑男の平手が飛ぶ。いい加減にしやがれ、おれは太鼓ボンゴじゃねっての。

 皮膚を叩く景気のいい音がまた響く。

 だが、それは優貴の頬からではなかった。掌だ。

 飛んできた平手をいつの間にか拘束を解いた優貴の右手が受け止めている。

「うおっ」

 痛みに金髪男が呻く。優貴の指が絡みつき親指があり得ない方向に曲がったのだ。堪らず、金髪男が躰を傾ける。

「ほらよっと」

 絶妙のタイミングで優貴は右手を旋回させた。金髪男が痛みを避けようとした動きを手伝ってやったのだ。魔法のように金髪男の躰が回転した。くるりと飛び、上体を崩すと、次いで頭から床に激突する。クラブマガの技だ。

「これで二戦二勝だな」

 優貴は素早く他の拘束を解くとストレッチャーから飛び降りた。呻いている金髪男には悪いが、側頭部を蹴りつける。これで二時間ぐらいは寝てくれるはずだ。

 優貴は袖口に拘束具の鍵を解錠するのに使った針金を戻した。備えよ常にだ。ついでに金髪男からコルトガバメントM45A1と尻のポケットに入っていたフォールディングナイフを失敬する。

 莉愛、ホントにちょっとだけだって信じてくれてっか?

 優貴は来た道を急いで引き返した。


 尋問室の警備兵はあっさりしたものだった。にこにこと話しかけてきた大坂に気を許した瞬間に大坂の拳が警備兵のみぞおちに減り込み、激痛に前屈みになった警備兵の顎にフックを叩きこむ。警備兵は瞬時におねんねした。

「さて、いきまっせ」

 そう言って部屋に入っていく大坂の後ろを太田がおっかなびっくり付いていく。太田は象牙の塔の人間だ。実際の暴力沙汰なんて、幼稚園の頃の友人の喧嘩を見て以来だ。

「なにも気絶させなくても……」

「なにを言っとるんや。殺さなかっただけええんやで。死人に口なしやからな」

 太田は大坂が人間の仮面を被った猛獣であることを思い出した。特務工作員、しかも外注の工作員など人並みの常識なぞ持ち合わせていない。盗みや殺しが日常の世界にいる人間蟹なのだ。

「おや、寝とらんのかいな」

 十五平米ほどの部屋の真ん中に置かれた椅子に座っている前田莉愛が入って来た大坂を見上げた。

 前下がりボブの黒髪が白い肌とコントラストを見せ、薄茶色の瞳が美しく揺れる。上玉だ。

「あなたは誰ですか?」

「助けに来たんや、あんたを表の世界に戻したるさかい、安心せいや」

 莉愛が嬉しそうに笑った。大坂はそれを見て、眩しそうに目を細める。時間がなくて押し倒せないのが残念や。

「田村さんのお仲間なんですか?」

「まぁ、そんなもんや。あんたを助けるのを手伝うように言われてなぁ」

 大坂が莉愛の手錠を解く。

「おい、君っ。そんなことまでしなくていい。採血さえできれば」

 後ろから太田が大坂を注意した。手首にはシャントが挿入してある。そこから採血するのに手錠はかけたままでいいのだ。

 大坂の背後に太田を見た莉愛の顔が一瞬で強張った。立ち上がり、後づさる。

「うそだっ。あなた、田村さんの仲間じゃないんだなっ」

「仲間でっせ。このひとはあんさんの血を採らせてくれたら脱出を手伝ってくれるってことになっとるんや。田村さんも承知の上やで」

 立て板に水と、大坂の口から出まかせが飛び出す。こんな小娘、丸め込むのは簡単や。

「うそだっ。田村さんがそんなこと言うはずがない。田村さんはそんな風には考えないんだっ」

「ちぇっ」

 大坂はさらに逃げようとした莉愛の腕をつかむ。

「ほら、大人しくせいや。おどれの我が儘につきおうとる暇はないんや」

 とたんに大坂は凶悪な声を出した。

 小柄な莉愛を強引に引き寄せ肩を抱き、取り出した小型ナイフの腹で莉愛の頬を叩く。莉愛の全身が総毛立ち、固まる。

「そや、それでええ」

 大坂は莉愛に後ろで腕を組むように言うと出口に莉愛を押し出した。

「お、おい、君」

 予想外の展開に太田がしどろもどろに大坂に声をかけた。


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