表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

不安

 アリスとリリンは護衛部隊に土産を下ろしておくように命じた後、エルサーにより城内へと案内された。


 アリスからすれば勝手知ったるアルバニス城だが、エルサーに連れられた大広間は初めて足を踏み入れる場所だった。


 威圧感すら感じる荘厳な空間。中央には、ひときわ存在感のある大理石の円卓が置かれていた。


 何時の日か各国の首脳と共に、自分も魔王としてこの円卓を囲む日が来るかもしれない。


 そんな未来を想像して、アリスの口元が緩む。


 しかしアリスとリリンは大広間を抜け、隣接したとある部屋へと通された。


 大広間に比べれば随分と狭く質素。しかし今日はコリーナと二人だけなのだから、この部屋でも十分なのだろうと、アリスは納得した。


 アリスがソファに腰を下ろし、後ろにリリンが控えると、待ち構えていたかのようにメイドがお茶を用意する。


 アリスが目の前に出された紅茶を口にすると、初めてコリーナからお茶に誘われた時の風景が思い浮かんだ。


 もうすぐ会える。コリーナに……。


 そう思うだけで、アリスは自然と顔を綻ばせた。


 しかし、同時に今まで見て見ぬ振りをしていた不安も大きくなる。


 アリスは、ゼリムの言葉を思い出す。


「相手にしてみれば、我々は多くの同胞を殺した仇敵です」


 アルバニス軍と魔王軍との交戦は一度や二度ではない。戦死者は甚大な数に上る事は間違いなく、その中にはコリーナの母親も含まれている。


 その大半はアルバニスからの侵攻だ。自衛だから、戦争だからと理由をつける事も出来る。しかし致し方ないと、家族を奪った敵と手を取り合える人間がどれほど居るだろう。


 魔族であるアリスは、戦闘で兵が死する事を残念に思っても悲しむ事は無い。側近のゼリムやリリンであれば多少は違うかもしれないが、それでも相手を恨む事はない。魔族の基本理念が弱肉強食だからだ。


 しかし人間は違う。時にヒトは理屈よりも感情を優先する。


 特にアリスはコリーナの父である先代王に手を下した、直接的な仇でもあるのだ。


 コリーナがアリスを恨んでいる可能性だって十分あり得る。それはアリスも当然の様に思い至っている。


 しかしアリスは信じた。手紙に書かれた『親愛なる友』の一文を。


 この世界で唯一、アリスを友と呼ぶコリーナの言葉を。


「遅いですね……」


 そう言ったのは、アリスの後ろに控えていたリリン。


 確かに、アリス達が今の部屋を訪れてから暫く経つがコリーナは姿を見せない。


 それに脇で控えるエルサーの表情が、どこか冴えない様にも見える。緊張しているような、焦っているような……。


「主……いえ、アリス様、何かございましたらスグに私の後ろへ……」


 本来であればリリンの主は魔王。その為、会談の場ではアリスを「主」と呼ばぬよう、リリンはゼリムに注意されていた。


「大丈夫よリリン」


 アリスは、リリンにだけ聞こえる様に呟いた。


 大丈夫、コリーナが自分達を罠にはめようなんてしない筈だ。


 大丈夫、絶対に……アリスは自分に言い聞かせる様に心の中で反芻した。


 暫くすると、アリスは部屋の外にヒトの気配を感じ、その後扉がノックされた。


 アリスが反射的に背筋を伸ばす。しかし、開かれた扉から現れたのはコリーナではなく、白髪白髭の老人だった。


 法衣かの様な白いローブを纏った老人は、アリスの前で恭しく一礼する。


「この国の宰相を務める、ワルドアーツと申します。以後お見知りおきを」


「は、はい……お願いします」


 アリスも流石に虚を突かれ、戸惑いを見せる。


 ワルドアーツは僅かにアリスを見つめたかと思うと、再び頭を下げた。


「申し訳ないアリス殿、今コリーナ陛下はいらっしゃらないのです」


「……え?」


 一瞬、アリスはワルドアーツの言葉の意味が分からなかった。


「それは、どういう事でしょうか」


 そう言ったのはリリンだった。その声には、明らかな苛立ちが感じられる。


「コリーナ陛下は他国を訪問する為に出国し、まだ戻られていないのです……」


 ワルドアーツの説明を聞いた瞬間、リリンの殺気が室内を埋め尽くした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ