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特別大使アリス

 空は快晴、風は微風。人間で言えば絶好の外交日和とでも表するだろうか。アリス達一行は、アルバニスの首都を目指して街道を行く。


 ゼリムを説得後、アリスはコリーナ宛に会談へ参加する意志を手紙で伝えた。


 その後ゼリムによる日程の調整がなされ、更に数日後、ようやくアリス達はアルバニスへと向かう事となった。


 一団はアリスが乗る馬車を中心に、周囲には10体の武装した騎馬隊が配置されている。


 彼等は参謀長ゼリムが選び抜いた一騎当千の精鋭部隊。


 人間の軍隊であれば、一個師団をもってしても突破は困難だろう。


 そんな絶対的セーフティーゾーンの中心で、豪奢な馬車に揺られるアリス。彼女は、着慣れぬ紺色のドレスの裾を摘まみながら、大きなため息をついた。


「あ~あ、母様からプレゼントされたドレス着たかったなぁ~」


 嘗て母から送られた思い出のドレス。アリスはここぞと言う時に着ようと、長年大事に保管していた。


 コリーナからの手紙を受け取った時、今こそが『ここぞ』だと思ったのだが……。


「確かにあのドレスは素晴らしい物です。しかし、大使としては聊か煌びやかすぎるのではないかと……」


 そうリリンに諭され、渋々別の物を選んでもらった。


 人間界で諜報活動をしていたリリンの助言だ、アリスとしても異論は無い。ただ残念だと言う想いは捨てきれていなかった。


「申し訳ございません、我が主よ」


 アリスの対面に腰かけていたリリンが、深々と頭を下げる。


「謝らないでよ、リリンが悪い訳じゃないんだから」


 今回の護衛部隊編成に関して、リリンは自ら部隊長に立候補した。ゼリムは大反対していたが、幹部連中の弱みを尽く握っていたリリンの策謀により、最終的には多数決で評決を取る事に。結果、大差の票をつけてリリンの帯同が決まった。


 そのリリンはと言えば、日頃は淫魔らしくほぼ裸にしか見えない格好なのだが、今はシックな男性用のモーニングコートを着用している。


 リリン曰く、自分が女性用の衣装を着ると、それがどれほどのボロでも無意識に男を魅了してしまう。


 そうなれば、アリスの会談に支障が出てしまうかもしれない……そんな懸念があると言う。


 アリスに言わせれば男装のリリンでも十分魅力的であり、女性までも誘惑してしまうのではないかと思えた。


 いや男女だけの話ではない。リリンの魅了は老若男女を超えて発揮される。意志の弱い者であれば種族すら問わず、噂では魔獣やアンデッド、果ては昆虫や植物すら魅了できるらしい。


 リリンに魅了され操られている膨大な傀儡達が、今でもラジアルの守りの要になって居る。


 その計り知れぬ実力は、アリスの目標の一つになっていた。


「主よ、如何なさいました?」


 アリスは、何時の間にかマジマジとリリンを観察していた。


「いや~どうしたらリリンみたいになれるのかなぁって」


 アリスの視線が己の胸に向けられている事に気付いたリリンは、ポッと頬を赤らめる。


「主よ……宜しければ今夜にでも、手取り足取り……」


「えんりょしまーす」


 リリンと会話をすると、最終的にすれ違いになる事が多い。手慣れたアリスは、モジモジするリリンを軽くあしらい、窓の外に視線を移した。


 見覚えがある。アリスが初めてあの街を訪れた時と同じ風景だ。


「リリン、もうすぐ着きそうだよ」


 アリスの言う通り、程なくして一行はアルバニスの首都、トレル改めノイ・コリーナの正門に到着した。


 アルバニスの首都は、代々時の王の名を冠する習わしがあり、今は現女王コリーナの名が用いられている。


 街の正門はすでに開かれ、多くの兵士達が待ち構えている。その中に、アリスは見知った顔を見付けた。


 アリスとリリンは馬車を降り、出迎えた一団に一礼する。


「お久しぶりですね、エルサー殿」


 アリスに声を掛けられた熟年男性は、甲冑の兜を小脇に抱えながら深々と頭を下げた。


「お待ちしておりました。アリス殿下にご来駕頂けた事、アルバニス女王コリーナに変わり、深く御礼申し上げます」


「こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。ですが我が一族は王以外、身位はございません。その様な仰々しい敬称は不要です」


「承知致しました、アリス殿」


 エルサーは先の一件でアリスと知り合い、コリーナの眼前で一戦を交えた仲でもある。


 エルサーからすれば、アリスには個人的な恩義もあるのだが、今語るべき事ではないだろうと、己の職務を優先する。


「この先は私、騎兵団長エルサー・マガクがご案内いたします」


 エルサーに先導され、アリスは再び馬車に乗り町中を進む。


 今回の来訪は、あくまでも極秘裏に行われている。


 その為、何も知らない一般市民にとってはただの日常。


 アリスの一行を見ても、何処かのお貴族様がやって来た位にしか思っていないだろう。


 その為か、アリス達は何事もなくアルバニス城に到着した。


 こちらの正門もすでに開け放たれており、アリス達はそのまま城の中庭まで進む。


 中庭でエルサーが馬を降りると、アリスとリリンも馬車から降りた。


「何だか凄く久しぶりな気がするなぁ」


 アリスが眼前にそびえるアルバニス城を見上げ、ポツリと呟いた。

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