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友からの誘い

 物語を書いている時は、その世界に没頭している物。


 当初は続きを書こうなんて考えていませんでしたが、前作を書いている間に、何となく物語が思い浮かんだので、それを形にしてみようと思い立ちました。


 前作は短期間に纏めて投稿しましたが、今回はマイペースで投稿していこうかと考えております。


 ゆるゆるとお付き合いいただけましたら幸いです。

 淫濁の地ラジアル。


 世界を蹂躙せんとする魔王ヴェルナスが居を構える、最果ての地。


 日の光すら拒絶するその大地は、魔を冠する者達にとっては楽園であり、魔界から人間界へ侵攻する為の最前線基地でもある。


 そんな瘴気渦巻く大陸の中央に位置する魔王城。そこには、魔王軍有数の猛者が集う。


 彼等は主を中心に、如何にして人を貶めるか、如何にして神を謀るかを模索する。


 世界を、我が物とせんが為に……。




「なりません!」


 魔王城の最深部、玉座の間に凛とした声が響く。


 漆黒のローブを纏い、樫の杖を持った魔道士風の青年は、蛇の様な鋭い目つきで主を見つめる。


 彼の名はゼリム。魔王軍の参謀長を務める軍事の要であり、魔王ヴェルナスの右腕。


 魔王軍屈指の実力者で、その発言力は魔王に次ぐ。時には、主である魔王に異を唱える事すらあると言う。


 彼は今も魔王軍の未来の為、己が主に立ち向かっていた。


 しかしその主は、彼の想いを推し量る気など微塵も無いようだ。


「何で何で! 何で行っちゃダメなの!」


 主は身の丈に合わない玉座の上で、華奢な手足をバタバタと振り回している。


「ヴェルナス様、お聞き届け下さい」


「ヴェルナスじゃない! ア・リ・ス!」


 主の名はアリス。


 魔王ヴェルナスの忘れ形見であり、現魔王軍を率いる存在。


 腰まで伸びた眩い金髪に、煌びやかな銀色の瞳、透き通るような白い肌を持つ彼女は、人間で言えばまだ幼さの残る少女。


 身に纏った真っ白なドレスも相まって、魔王を名乗るには聊か……いや、かなり違和感がある。


「何度も同じ説明を繰り返すようで恐縮ですが、先代魔王ヴェルナス様の死は我々魔王軍最大の秘事。アリス様が真なる魔王の力に目覚められるまで、ヴェルナス様ご健在を内外に示す必要があるのです」


「だからって、私を父様の名前で呼ぶ意味があるの? ゼリムだって外では私の事をアリスって呼んでるじゃない!」


「名には少なからず魂が宿ります。この城内でヴェルナス様の名が聞かれなくなれば、人間界は兎も角、天界には必ずその異変が伝わる事でしょう。そうなれば、一気に全面戦争となる可能性も……」


「天界もそんなに暇じゃないって、神達は人間への恵みだのなんだので忙しいだろうし。そもそも神の眼に探られない様に結界だって張ってるんでしょ?」


「念には念を、です」


 もう何度同じやり取りを聞いただろう。


 アリスの使い魔、黒猫のキューイルは半ばあきれ顔で毛繕いを始めた。


「ご理解ください。ヴェルナス様は今でも玉座に君臨している……その事実が大切なのです。その為、少なくとも玉座に御座す間はヴェルナス様で居て頂かなければなりません。それなのに、事もあろうか城を離れたい等と……」


「離れたいなんて言ってないでしょ! ちょっとお出かけするだけだって!」


 そう言って、アリスは手にした便せんをゼリムに突き付ける。


 その手紙が届いたのは数日前。送り主はアルバニス国の新女王コリーナ。


 アリスはとある一件で王女だったコリーナと出会い、利己主義の権化トレル王を討ち取った。


 手紙にはコリーナが女王に即位した報告と挨拶、そして今後のラジアルとのあり方に関して会談の場を設けたいとの旨が書かれていた。


「ヴェルナス様、落ち着いてください。アルバニスは、今まで幾度となく我が領土に兵を差し向けてきた相手。なぜそのような誘いに乗らねばならぬのですか」


「良いじゃない、被害なんて殆どないんだから」


「被害の程度は問題ではございません」


「じゃあ何が問題なの?」


「相手にしてみれば、我々は多くの同胞を殺した仇敵です。それが例え返り討ちと言う形であっても。そんな仇敵を、己の懐に呼ぼうと言うのです。罠に決まっています。のこのこ足を運べば、如何なる目に合うか……」


「コリーナはそんなヒトじゃない! ほらココ見て! ほら!」


 アリスが便せんの一部を指し示す。そこには『親愛なる友・アリスへ』と書かれていた。


「ねっ?」


「ねっ? と言われましても……ヴェルナス様もご存じでしょう、人間とは大儀の為なら如何なる虚言や偽装も厭わない種族なのです」


「コリーナはそんなヒトじゃないの! そもそも虚言や偽装なんて魔族の得意技じゃない! それがダメなら、私の事をアリスって呼びなさいよ!」


 ああ言えばこう言う。


 アリスの性格を熟知しているゼリムだが、今回に限っては中々説き伏せる事が出来ない。


 アルバニスでの一件はゼリムも聞いている。外の世界に疎いアリスにとって、コリーナ女王は特別な人間なのだろう。ゼリムの一番の懸念は、そのコリーナの存在だった。


 これが魔族同士ならまだ良い。しかし相手は人間だ。いずれ蹂躙すべき相手なのだ。


 魔王となるべきアリスが一人の人間に固執する、それは側近として看過できぬ問題だ。


「魔族は人間にとって恐怖の対象、魔王はその象徴。安易に人間と関わり合いを持つべきではございません」


「良いじゃない。魔族が人と関わり合った話なんて昔から腐る程あるんだから」


 アリスの我が侭は何時もの事、しかし今回の食い下がり方は異常だ。長年仕えているゼリムやキューイルですら見た事が無い。


 アリスとゼリムの睨み合いを横目に、巻き込まれる事を恐れた黒猫キューイルが、その場を離れようと背中に蝙蝠の羽を作り出す。


「キューイル! アナタはどう思う?」


「はいっ!?」


 突然アリスから話を振られ、キューイルは全身をビクッと震わせた。


「キューイルはコリーナの事を知ってるでしょ! 大丈夫よね? 罠なんかじゃないよね?」


 アリスがキューイルに詰め寄る。


「わ、私は使い魔ですので、意見をする立場では……」


「構いませんよキューイル、君の発言を許可しましょう。正直に言ってみなさい」


 アリスに続き、ゼリムまでもがキューイルに詰め寄った。

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