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僕とメグの恋愛事情  作者: エルサリ
2/4

調査

「……もう一回聞いてもいい?」

「だから、あの写真に映っていた女の子は、浮気相手じゃなくて妹だったんですよ」

そんなはずはないんだ。高良翼は一人っ子で母と二人で暮らしているはず。妹なんているはずがない。先日僕が、ああいったのはその場を取り繕うための方便でしかないんだ。

メグは翼に騙されている。このまま付き合い続けるメグを想像して不安がモクモクと込み上げる。こんな嘘がずっとバレないはずがない。今はポカポカとしている彼女の気持ちも、数カ月後には停滞して、心を梅雨前線が支配してしまうだろう。

そう思う一方で、それを指摘できずにいた。もし、ここで「翼に姉妹がいない」と指摘してしまえば、僕が嘘をついたことになってしまう。そうしたら翼とは別れたとしても、僕に対しての信用も落ちるだろう。

「ねえ、なんで妹ってわかったの?」

メグはポカンとした表情でこっちを見る。

「なんでって、そんなのバッサーに聞いたからだけどーー」

言い終わると同時に、一人の男がやってきた。

「よう、メグ、待たせたな」

いつもと同じ稲妻模様の服、高良翼だ。

「なんだ待ち合わせしていたのか。そう言ってくれればよかったのに」

僕はなんとなく悪態をつく。

「ははは、別にいいだろ。浮気現場を見られたとかそういうのじゃないんだし」

こいつ、いけしゃあしゃあと。そう思ったが、まだ浮気が確定したわけではない。僕は探りを入れてみることにした。

「そういえば、翼って妹いたんだっけ?」

翼は驚いたような表情を見せる。

「え、ああ、いるけど……」

口ごもるような声になった後、チラとメグの方を見て、即座に僕の方に視線を戻す。

「その話は今度でいいか。今からデートだから。メグ、行こうか」

そう言い残して、そそくさとメグと翼は立ち去っていった。

その反応を見て僕は思った。

いやこれ、確実に浮気してるだろ。


ーーー


どうしたものかと思案しながら僕は帰路についた。

せめてあの写真に写っていた女の子が誰かわかれば、すぐに翼の兄妹じゃないことは証明できるのだが。

うつむき気味に考えながら、トボトボと歩く。

おや、なにか落ちている。

白地に「青井」とレースが刺繍されたハンカチだ。少し古いのか生地はボロボロになっている。

顔をあげると一人の女の子が前を歩いているのが見えた。

「すみません、これ落とし物じゃないですか」

「あら、ありがとうございます」

彼女は振り返り、僕と顔を合わせる。

あれ、この子、どこかで見たような。

僕は少し考えて、気がついた。

写真に写っていた女の子だ。翼と仲良さそうに手を繋いだり、家に入っていった女の子、つまり、翼の浮気相手だ。まさか同じ大学だったとは。そしてこんなすぐに見つかるとは。そして名字が違うから兄妹ではないじゃないか。

僕は硬直して黙り込んでしまった。顔を見つめ合った状態が続く。先に動いたのは彼女の方だった。顔を少し赤らめて背ける。

「す、すみません。私の顔になにか」

「ご、ごめん」

僕もおもわず、顔を背けた。

「青井さんというのですね。ハンカチに名前が書いてあったので」

青井さんは自分のハンカチをチラと見た後、照れくさそうにハンカチを畳んでポケットにしまった。

「子供のときに、母から頂いたものでして。今でも大切に使っています。もう、ボロボロなので、少し恥ずかしいですが」

「そうかな、母からもらったものを大切にしているなんて、素敵な話だと思いますよ」

「あ、ありがとうございます」

青井さんはペコリとお辞儀して、小走りで走り去った。

さて、どうしたものか。

僕は再び思案しながら再び帰路についた。


ーーー


「ガソリンは7℃で1%、すなわち50Lに対して500mLの膨張が生じるのだ、つまりガソリンを給油する際には膨張していない寒い時期に入れたほうがお得になるのだ」

「それは驚き桃の木青天の霹靂だ。我々、気象予報研究会としては活用しない手はないな」

メグにどう説明しようかをサークル内で考えていたが、思いの外有益な情報が飛び交っていて集中できない。僕はため息を付きながらサークルをでた。

部屋を出たところで、バタリとメグに遭遇した。

「先輩、お疲れさまです」

「メグか。丁度いい。少し話したいことがあるんだけど、食堂にでも行かないか」

「サークルじゃだめなんですか」

「サークルは人が多いから。2人になれる場所がいい」

メグは驚いた後、顔をうつむけながら顔を赤らめる。

「先輩の気持ちは嬉しいのですが、私にはバッサーがいるから」

「違う、そうじゃないんだ。翼のことで話をしたいと思って」

なんとか取り繕い、僕とメグは一緒に食堂へと向かった。

しかし、今のは僕の言い方も悪かった。ここからはセンシティブな話題にもなる。言葉選びはより慎重に行ったほうが良いだろう。ここで選択肢を間違えるわけには行かない。


ーーー


「だからあ、バッサーは浮気なんてしないんですよ。私という彼女がいるのですから。えへへへへ」

メグが笑いながら缶ビールを口に入れる。

浮気されていることを知ったら、メグはショックを受けるだろう。だから、あらかじめ酔っ払っていたほうが、受けるショックも和らぐかと思ったが。

僕は選択肢を間違えたのではないか。

「さっきから説明しているだろ。この写真に写っている女の子とこの前あったんだって。そしてその子は青井さんって言うんだ。翼の妹じゃないんだよ」

「だったらその子を呼んできてくださいよ」

メグが机をバンバンとたたき始める。大学の食堂で泥酔している人がいたら嫌でも目立つ。みんながこちらをチラチラと見ている。中でも一人の女性がすごい形相でこちらを見ていた。

ちょっと待て。あの子は青井さんじゃないか。

「メグ、少し待ってて」

「ほえ」

僕は席を立ち、青井さんの方へと向かった。

「青井さんだよね」

青井さんは露骨に嫌そうな顔をしている。

「誰ですか。あなたは」

「ほら、前にハンカチを拾った」

青井さんはハアとため息をつく。

「なにそれナンパ?やめてほしいんだけど」

「違うって、え、あれ?」

「それよりそこの彼女をなんとかしてあげたらどう?見苦しいんだけど」

青井さんは一層鋭くメグを睨みつけたあと、立ち去っていった。

僕はトボトボと席に戻る。

「先輩……」

メグは悲しそうに声を上げる。

「さすがに大学の食堂でナンパはやめたほうがいいですよ」

「違うから!」

大学の食堂で泥酔している人に言われたくない。

それにしても青井さん、前にあったときと雰囲気が違ったけど。


ーーー


「もう少しで家だからな」

「んー」

僕は肩を貸しながら、メグの家まで送り届けようと歩いていた。面倒だとは思ったが、こうなった原因は僕にもあると思った。しかし、メグに今日説明することはできなかった。この分だと素面のときに説明しても聞いてくれないんじゃないか。それはまずい。このままではメグの心が梅雨前線に支配されてしまう。

ーーポツポツ。

本当に雨が降ってきた。雨が僕とメグを打ち付ける。困ったことに今日は傘を持っていない。段々と雨脚も強くなってきた。僕が濡れるのは構わないが、泥酔したメグがこれ以上、体を冷やすのは良くない。僕は上着をメグに被せようかと思った。

その時、僕とメグの頭上に1つの傘がさされた。

「やれやれ、気象予報研究会として、傘くらい持っとけよ」

そう言って隣に立つのは、いつもの服を着た高良翼だ。

「ありがとう。でもどうしてここに」

「お前が、メグに手を出さないか跡を着けていたんだよ」

そういいながら、僕に傘を手渡す。代わりに翼がメグを抱えこむ。

「もっと早く手を貸してくれればいいのに」

僕はまた、なんとなく悪態をついた。

「そう言うなよ」

ハハハと笑った後、翼が語りだす。

「実を言うとな、メグがお前と浮気しているんじゃないかって疑っててな」

「僕が?メグと?」

「悪いな。まあ、そういう噂を聞いちゃったからな」

噂か。正直なところ心当たりがまったくないわけではない。今日の食堂での出来事も傍から見たら痴話喧嘩に映るのだろうか。だが、翼は僕とメグの関係を知っているし、いまさら気にされると思わなかった。

「それよりも翼はどうなんだ」

「俺か?」

「お前、一人っ子じゃなかったか。妹なんていなかっただろ」

翼は顔を背け、遠くの雨を眺めた。

「妹は、まあいるよ」

また口ごもるような返答をした。

「嘘をつくなよ。これ、隣に写っているの本当に妹か?」

僕は翼と青井さんが手を繋いで歩いている写真を見せる。

「何だ、この写真は」

翼が驚く。写真をまじまじと見つめる。

「どうだ、妹と歩いていただけだって、メグの前で誓うことができるか」

僕は問い詰めたが、翼はしばらく黙り込んだ。

「……わからない」

「わからないって何だよ」

「俺にもわかんないんだって」

翼が答えると同時に稲光が走った。少しして雷鳴が轟く。僕は雷と翼の迫力にたじろいだ。

「いや、すまない。妹のこと話すって言ってたな。だけど、明日でいいか」

「今じゃだめなのか」

「口で説明するだけじゃわからないこともある。直接見たほうがいいだろう。明日の12時に大学前公園に来てくれ」

こいつは何を言っているんだ。だが、あまりにも澱みなく言う翼に、僕は何も言い返せなかった。

「じゃあ、俺はこのままメグを送るから。お前の家はあっちだろ。また明日な」

「ああ」

そう言い残して翼とメグは言ってしまった。僕は立ち尽くして二人を見送っていた。


ーーー


そして、翌日。

僕にとっては忘れられない一日が始まった。

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