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三ツ山大学オカルト研究会   作者: 黒川 右京
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思い出をデキャンタに閉じ込めて その3

 四分谷出会って三日が過ぎた。僕は『星川村』について、大学の図書館で色々調べていた。『星川村』は、我が三ツ山大学と同じ奈良県にある村だったので、資料探しに困ることはなかった。


 星川村は、奈良県民の九割が暮らす奈良盆地から離れた、中央南部に位置する山奥の村だ。四分谷に出会わなければこの村の歴史を調べることもなかっただろうし、きっとこの村の名前すら、僕は知ることもなかっただろう。それぐらい、奈良県は北部と南部で住む世界が違うのだ。

 僕がこの星川村について、この三日間で分かったことといえば、近畿でも有数の、知る人ぞ知る天体観測スポットだそうだ。正に村の名に恥じない、といったところだろうか。過疎化が進んでこそいるものの、観光地として一定の需要があり、ちゃんとしたホテルもある。そういう意味では合宿場所としては申し分ない。のだが、我々はオカルト研究会なのだ。合宿場所はそれなりに()()()()()の場所でなければならないのだ。


 そして、星川村にはそんないわくつき()()()()()のスポットも、伝説も見当たらなかったのだ。全く無いわけではない。UFOの目撃談や、ツチノコを見ただとか、あるにはあるのだが、そんなもの全国どこにでもあるのだ。『全国妖怪マップ』なる本によると、河童や大蛇の妖怪奇譚があるそうなのだが、具体的な内容はいくら書物を漁っても見つけることができなかった。これでは合宿先の候補としては少し弱い。現在、部員は六名、最終的な合宿地は多数決で決定される。今のままでいけば、僕と四分谷で二票、カバオも事情を話せばこちらに投票してくれるだろうから、これで三票、つまり半数の票は確保できる。候補地が三つ以上の場合、多数決で負けることはない。しかし、只野部長がこんないわくなしスポットを合宿先にしてくれるとは考えにくい。皆が納得してくれるようなオカルト話がどうしても必要だ。


 17時、この日の講義をすべて終えた僕は、『奈良民俗学 昔話あれこれ』のページをなんとなくめくり続けながら思考を巡らせていた。四分谷はそんな僕を不思議そうな目で見ていた。


「先輩、ちゃんと読んでいます? 背骨を抜かれた犬みたいな顔してますよ」


 部室には僕と四分谷の二人きりだった。彼女は普段は真面目な後輩を装っているが、二人きりになると、途端に僕のことをやたらと犬に例えてくるようになる。どうやら舐められているみたいだ、なぜだろう。


「なあ、四分谷。星川村でなにかいわくつき()()()()()のスポットとか知らないか?」


「さあ。私、河童しか見たこと無いので」


「幽霊がでる廃墟とか、神社とか無いのか?」


「知りません。子供だったもので。それに私、幽霊とかそういうの一切信じてませんので」


 河童を信じてるやつが言うな。そうツッコみたかったが僕はなんとかこらえた。


「とにかく、オカ研の合宿先にする以上、それなりの理由が必要だ。それは分かるだろ? 星川村に行くにはこの方法が一番なんだ。それは分かるだろ?」


「それはよく理解していますよ。少なくとも私が車の免許を取るより確実です。しかし、星川村に怪談やオカルト的な話はあったとしても、興味がなかったので何も知りません。柳田先輩だって、私と浮島先輩が今年の流行りのファッションについて話をしていても何も覚えていないでしょ?」


 それは最もな意見だ。しかし、僕がファッションに興味がないなど、一度も言った覚えがない。彼女は僕の服装を見て判断したのだろうが、全く心外だ。


「なら、その村に住むおばあちゃんに聞くこととかできないか? 昔から住んでいる人なら、その村の伝統や風習に詳しいはずだし、何かしらオカルト的なものがあるかもしれない」


「なるほど、先輩にしてはいい考えね。だけど、おばあちゃんは河童を信じてくれていないのよ。そんなおばあちゃんだからあまり収穫には期待しないでくださいね」


「助かるよ。何でもいいから、どんな小さなことでも分かったら教えてほしい。多少は話を盛ることになるけど、そこは了承してくれ」


「盛るって、嘘を付くってことですか? 私、嘘が嫌いなんですよ」


「僕だって好きじゃない。だけど仕方ないだろう? まあ、盛る必要もないくらいの話があれば、それに越したことはないけど」


 四分谷の祖母に期待するしかあるまい。いつしか部室は少し薄暗くなっていた。


「暗くなってきましたね、そろそろ帰りましょうか」


「だな」


 僕は立ち上がり、帰り支度を始めた。そこへ突然、部室のドアを開ける音がした。


「ぉおい、いるなぁ? 倫太郎、渋谷ィ」


 只野部長だ。部室で会うのは新歓の日以来だった。


「あら、只野部長。どうしました?」


「よろこべぃ、四分谷。今から歓迎会をするぞぉ」


 只野部長の後ろにカバオや浮島先輩がいることに気がついたのはその直後だった。 

 

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