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三ツ山大学オカルト研究会   作者: 黒川 右京
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美女と河童と偽りのない思い 4

 四分谷璃子。シブヤではなくシブタニだそうだ。彼女は河童を探すことを条件にオカルト研究会に入部をしてくれるそうだ。早速、部員として(厳密にはまだ入部届を提出していないため部員ではないが)このむさ苦しい二人組の男に混じって新入生の勧誘を手伝ってもらった。


 結論から言うと、みず・ひこうタイプに十万ボルトで攻撃したくらいに効果は抜群だった。四分谷の美貌に引き寄せられた男の新入生があちらこちらと、次々にオカ研に殺到したのだ。入部希望者が5人ほど集まったところでカバオは部室の案内のため、新入生を連れて1号館を後にした。しかし、四分谷璃子は引き続き新歓の協力のために僕とこの場に残ったのだった。




「新入部員にいきなり新歓を任せるなんて、随分と人使いが荒いんですね、柳田先輩。私、このサークルのこと何も知らないんですよ?」


「提案したのはカバオだ。それを了承したのは四分谷だろう。とはいえ、君がいることで入部希望者はかなり増えた。仮想通貨の暴騰みたいだ。後は実際に見学して何人生き残るかだな。恐らく部長が部室にいるけど、あの人について行ける人間は限られているからね。四分谷も一度会ってから入部を決めたほうがいいよ」


「その部長、そんなに変わった人なんですか? 私は河童さえ一緒に探してくれるなら入部に変更はありませんけど。蒲田先輩や柳田先輩だって充分変な人でしたよ。ほら、見てください。さっき別れ際に蒲田先輩が渡してきたメモ。携帯の電話番号に色々なSNSの個人ページのアドレスが書き記されています。あの人は女性にいつでも渡せるように常備してるんですか?」 


 四分谷は可愛いクマのマスコットが描かれたメモを見せてきた。僕はその紙を何度も見たことがある。カバオはかわいい女の子を見つけるとすぐにこのメモを渡しているのだが、大抵気持ち悪がられて、後でこっそり僕に返却されている。


「あぁ、それ、僕が処分しておくよ。ごめんね、いきなり変なもの渡して。あいつ、悪いやつじゃないんだけど、女の子が普通の人より好きなだけなんだ」

 

 何度このセリフを言ってきただろうか。テンプレートに沿ったセリフ、機械的な平謝り。


「私は別に気にしてませんよ。電話番号はもう登録しましたし。同じサークルに所属しているんですから連絡先を交換しておくのは当然でしょう、SNSはいりませんけど。柳田先輩も連絡先交換しときます?」


 突然の提案。それも人生でまたと見ないような美女から、今さっき会ったばかりなのに。同じサークルの部員なのだから何も不思議じゃないのだが、僕は何を意識してか、動揺を隠しきれずに思考が停止してしまった。


「へ? いや、今あったばかりなのに、そんないきなり連絡先とか交換していいものなのか。いかんいかん、女の子がいきなり見ず知らずの男性と連絡先の交換など。まして君は世間一般的な極めて平均的市民の視点で見るに、それはもう逸脱して美しい。そんな女性が自ら連絡先の交換を持ちかけるなど全く、勘違いされたらどうするんだ。あぁ、言っとくが、僕が勘違いするわけではない。世間一般的な極めて平均的な男性の思考を準拠に推測しただけで、決して僕が君を意識しているわけでも、君に意識されているなどという愚かな幻想を抱いているわけでもない。これはあくまでも、世間一般的な極めて平均的な世の中の男性だった場合の警告である。君はそういう行為を行うことで勘違いし、涙する男性が生まれるかもしれないということを、肝に銘じておくのだ」


 思考が理性の検閲を受けずに言葉となって吹き出していく。かなり早口で話していたので四分谷がどこまで聞き取れていたのかは定かではない。


「なんだかよくわからないですけど、私と連絡先は交換したくないってことですか?」


 四分谷不安げな上目遣いで僕を見つめてきた。彼女いない歴=年齢の男がそんな顔で見つめられたらもうダメだ。


「違う違う、交換したい交換したい! ちょっとまて、なんでそうなる。いいか、四分谷。僕はマトモで健全で紳士的な男だからいいんだけど、そんなことは他の男に言ってはいけない。世の中の男は皆、狼なんだ。それを理解した上で交換をしよう」


「フフ、柳田先輩って面白いんですね。わかりました、気をつけます。それじゃあ、交換しましょう」


「お、おお! そうだな! 交換しよう!」


 全く、不甲斐ない先輩だ。この時の自分は思い出すだけでも恥ずかしい。だが、こうして僕は彼女と無事連絡先を交換することができた。


「それじゃあ、これから仲良くしましょうね、先輩」





 暫くして、12時のチャイムが構内に鳴り響く。新歓も一区切りだ。僕は四分谷を連れて部室に戻ることにした。さて、新入生は何人残っていることだろうか。


 

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