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三ツ山大学オカルト研究会   作者: 黒川 右京
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ツツノシン その5

「俺は今月の末にある動画撮影を依頼されている。最初は断ったんだが、結構しつこくてね。しぶしぶ顔出しNGを条件に出演を了承したんだ」


「顔出しNGならお前が出ればいいだけだろ? どうして四分谷に替え玉なんて頼むんだ?」


 ツツノシンは僕の質問を聞いてニンマリとした。


「顔出しNGの場合、ギャラは30万。相場としては十分な金額だ。しかし、顔出しOKなら100万出すと動画撮影の企画担当から連絡があった。俺の見立てでは200万近くまで釣り上げられるかもしれない。これは非常に美味しい話だ。しかし、俺は顔出しをできない理由がある」


 さあ、聞け。と言わんばかりの顔で僕を見つめるツツノシン僕は気乗りはしなかったが、渋々ツツノシンの求める返事をした。ついでに嫌味も足して。


「なんで顔を出したくないんだ? やっぱりツツノシンの正体がガキンチョだとフォロワーも減るかもしれないからか!」


「柳田先輩、やめなさい」


 後輩にたしなめられる成人男性。我ながら恥ずかしい限りだ。


「そのとおりだよ枯木田君。中学生相手にみっともないぞ。さて、君の質問に答えよう。俺は家出をしている」


 家出? なんだかややこし事になりそうな予感が……。


「今は祖母に匿ってもらってここ『星の泉』で暮らしているんだが、動画になんて出演してみろ。すぐに見つかって家まで連れ戻されてしまう。両親がオカルト番組を見るとは思わないけど、何があるかわからないだろう?」


「どうして家出なんかしているの? あなた、その様子じゃ学校も行ってないでしょ」


 僕の返事も待たずに四分谷が返答を交わす。これ以上僕が失礼な事を言わないようにしているのだろう。


「ああ、行っていない。義務教育など凡人が落ちぶれないように作られたシステムだ。俺のような選ばれた人間が、足並み揃えて低レベルな勉学に励むことなど時間の無駄だろう。ああ、君が聞きたいことは家での理由だね。僕の現在の母親は、血が繋がっていない。父親は犯罪を犯して服役中だ。僕の実家には腹違いの弟がいる。これだけでなんとなく居心地が悪いのは想像つくだろ? 実家には毎日父親の犯罪を揶揄するいたずら電話。あんな家にいるだけで気が狂いそうになる。実のところ、あの母親とされる女性が俺を真面目に探しているとは思えない。一応、捜索願を出しているみたいだけどね。俺が本当に問題視しているのは、父親の方だ。犯罪者が身内にいるとバレると、俺の立場も危うくなる。どうだい、かわいそうな人生だろ?」


 ツツノシンの半生を聞かされた僕は、これ以上何も言えなくなってしまった。重い空気が立ち込める。四分谷は凛とした表情を何一つ変えることはなかった。


「あー。まあ、なんだ、なかなか大変な目にあってきたんだな。確かに顔バレは避けたいわな。四分谷、こいつの頼み聞いてやれるか?」


「嫌よ」


 俺とツツノシンは目を合わせた。お互い、聞き間違いじゃないか確認するように頷いた。


「お前も顔は出したくないクチか? まあいい。それならこの話は無しだ。俺の悲しい話も忘れてくれ」


「四分谷、そんな言い方しなくてもいいだろ。目的のためなんだ、どうにか聞いてやってくれ。それに、こいつは生意気だけど色々あったんだから、ちょっとは手助けしてやりたいって気持ちもある」


 僕はなんとか四分谷を思い留まらせようと、彼女の良心に訴えかけた。ツツノシンも少なからず同情させようと自分の身の上話をしたに違いない。


「私は嘘をつきたくはないです。それに、この子、自分に同情してるみたいで嫌いです」


「おお、自分に同情か。きついこと言うねぇ。まあ、君のような育ちの良さそうな人に俺の気持ちは分かるまい」


 ツツノシンのその一言が、正に火に油だった。


「育ちがいい? とんでもない。私は実の父親に虐待を受けていたわよ」


 僕は何か聞き間違えたのかと思ったが、ツツノシンの驚いた表情を見て確信した。虐待?


「父は仕事もせずに毎日家でお酒を飲んで、酔っ払って、私と母に暴力を振るった。私が五歳の頃に離婚が成立したわ。それからあの人がどうなったかは知らないし、知りたくもない。母は私を育てるために夜の仕事に就いた。年に一回は知らない男が家に来ては、新しいお父さんと紹介されるわ。結局、一度も再婚はしていないけど。今では母も、大嫌いな父と同様、酒に溺れている。そんな私の育ちがいい? あなたは羨ましい?」


 ツツノシンは口を真一文字に閉じていた。気のせいか、目が潤んでいるようにも見えた。


「ご、ごめんなさい」


「別に謝らなくてもいいのよ。こっちこそ子供相手にムキになってごめんなさいね。それじゃあ、さようなら」


 おもむろに席を立つ四分谷の腕を、ツツノシンは掴んで離さなかった。


「待って。改めてお願いがある。俺の名前は筒井曽野(つついその)。俺と一緒に、動画の撮影にでてくれないか」



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