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三ツ山大学オカルト研究会   作者: 黒川 右京
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ツツノシン その3

 土曜日になった。ツツノシンと会うために梅田へと向かった僕と四分谷は、電車に揺られながら、席に着いていた。僕はほんの束の間、デート気分を楽しんでいる。リーバイスのヴィンテージ、1966モデルのジーパンに、白いコンバースのスニーカー。それにインディアンヘッドがプリントされたTシャツ。手首には三色のビーズが縫い合わされたレザーのブレスレットを装着していた。このアメカジファッションが僕の持ち合わせる中で、最強の夏服装備だ。髪も普段は寝癖をパーマ風と言い張っていたが、今日はきっちりヘアワックスで決めている。仕上げは香水。こちらはブルガリのBLV、ブループールオムだ。この清潔感の中に漂う色気が僕の男を上げてくれる。


「柳田先輩、香水つけました?」


「あ、なんだ、分かる? せっかく大阪に行くんだから、ちょっと気合い入れちゃったかな、ハハ」


「つけ過ぎです。不愉快です。もしかして消臭スプレーみたいに体中にかけました?」


「え、なにか駄目なの?」


 僕の疑問に四分谷はため息で答えた。


「次は気合を入れすぎないようにお願いします」


 四分谷は今日も、長く美しい黒髪はそのままに、ネイビーのワイドパンツに青と白のボーダー柄のトップス、足元はブラウンのサンダルと、比較的シンプルな服装だった。ツツノシンを警戒してか、体のラインが目立たないようにしている気がした。近頃暑くなってきたので、もっと肌の露出が増えると思っていた僕は少しだけ寂しくなった。


「四分谷は、『星の泉』ってカフェ、知ってるか?」


 僕は沈黙を恐れて、他愛のない会話をしようと、大して気にもなっていない質問を投げかけた。


「聞いたことありません、個人経営でしょうかね」


 




 ――9時25分、梅田。


 『星の泉』をナビアプリで探し回った僕たちは、路地裏の隅にひっそりと建つ店舗を発見した。ツツノシンが待ち合わせ場所に選ばなかったらきっと辿り着くことも、存在を認識することもなかったであろう、年季の入ったカフェだった。

 扉を開けると、チリチリン、と鈴の音がなった。店内は狭く、カウンターにパイプ椅子が4つ、大きな水槽の横には四人がけのソファが3つ、机を囲んで並んでいる。壁には手書きのメニューに60年代の映画のポスター。カウンターの奥ではレコードプレイヤーが、ノスタルジックなジャズを流していた。


「あらあら、お客さんなんて珍しい。いらっしゃいませ」


 店の奥から小さな老婆が現れた。飲食店を経営しているのに客が珍しいとは、この店大丈夫なのか。僕と四分谷はソファの方に、対面する形で腰掛けた。


「ツツノシン、まだ来ていないみたいね」


「実はあのおばあさんがツツノシンかもしれないぜ。それより、まずはなにか頼もう。四分谷はお腹空いているか?」


「朝食はとってきたので大丈夫ですけど、のどが渇いたのでクリームソーダでも飲みたいですね」


 僕はおばあさんを呼んでアイスコーヒーとクリームソーダを注文した。おばあさんは耳が遠いのか、何度か再確認をした上で頷き、カウンターの裏で準備を始めた。

 周辺を見回すが、ツツノシンはおろか、そもそも客が僕と四分谷しかいない。僕の正面、四分谷の背後にある水槽は水を定期的に交換していないのか、緑色に染まっている。中で何かが泳いでいることは分かるが、それがどんな魚か、あるいは亀か蛙かは判別できない。


 おばあさんが店の奥で誰かを呼んだ。階段をドタドタと駆け下りる音とともに、赤髪の少年が現れた。タンクトップに短パン。とても人前に出るような格好ではない。少年はカウンターに行くと、注文していた品を届けてくれた。モーニングサービスなのか、トーストとゆで卵も一緒に運ばれてきた。


「おお、これはありがたい、四分谷、食べられるか?」


「ありがたくいただきます」


「お前が四分谷か」


 少年は突然、四分谷に話しかけてきた。なぜ、四分谷の名前を知っている。まさか、この山猿のようなガキンチョが……


「俺がツツノシンだ。ようこそ、我が家へ」

 


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