7-12
「うわぁ、雨後のタケノコどころの話じゃない」
「ちょっと引くくらい生えてきたわね」
荒れ果てた荒野に、無数の突起物が。
黒光りした角のような物体が、荒野にエグいほど生えている。
これ全部、俺が《再誕》をかけた笹であり、それによって生まれた竹である。
「多分、めちゃくちゃ丈夫な竹が育つはずだよ」
「竹、なるほどねぇ。確かに強度的には素晴らしいけれど、あれって確か加工しないと腐るんじゃなかったかしら」
「えっと、多分この竹は大丈夫。この黒光りした表皮は、カビだろうが何だろうが全てを寄せ付けない。反面火には弱くなってるから、建築の際に台所の作り方には配慮が必要だな」
「なるほど、それならそれで、やり様はあるわ」
従来の竹は強度的には建材に申し分ないものの、カビたり割れたり虫に食われたりする。
なので、使うには樹脂かなんかで加工せねばならないと前世で聞いたことがある。
だが、この《再誕》をかけた笹こと、鬼竹(鬼の様に強い竹の意)はそれが必要ない。
この異常に黒光りした表面組織が、極めて高い丈夫さと防腐性を兼ね備えているのだ。
だかその代償に、耐火性能は低いので注意が必要だ。
「おし、こんなもんか。じゃぁ、そろそろ次いくわ」
「本当にありがとうね、これなら何とかなりそうよ」
俺はエリゼと一言二言交わした後、次の現場に向かうことにする。
「あ、そうだわ。これを持って行って」
「ん、なんだ?」
そこでエリゼが、俺に木箱を渡す。
それは小さなお弁当箱だった。
「あなた程の存在なら、そうそう病にはかからないと思うけど」
エリゼはそのゴツい顔に優しさをにじませ、微笑む。
「でも無理はしないでね。ちゃんと食べて体には気おつけて。あなたは私達の希望なんだから」
「…………うん、ありがと」
ちょっとだけ、ジンとくる。
心配をしてくれる。気遣ってくれる。
そういう人がいることは、とても有り難いことだ。
「……エリゼも無理はするなよ」
「え?」
俺はエリゼのたくましい腕をぽんぽんと叩いて言う。
「俺だって、エリゼのことを心配している」
付き合いは、驚くほど短い。でも、俺は彼女の苦悩を知っている。
他人とは思えないほどに、もう、思い入れている。
彼女は肉親に拒絶され、誰にも慮られることなく、今まで生きてきた。
ならばこれからは、俺が彼女を思ってやろう。
彼女を心配し、心を砕こう。
「いやだ、ダーリン」
エリゼは少しだけ涙ぐむ。
「ありがとう。とっても嬉しいわ」
そして、朗らかに笑うのだった。