6-5
眷属化三人目。
名をジョージという。
こいつは……
地味だ。
彼に目立った外見的特徴はなく、名前もまた地味だ。
生まれも平民の生まれである。
両親は亡くしているものの、それはブラキリアでは珍しいことではない。
かといって天涯孤独というわけでもなく、妹と弟がいて、それらを養っている。
マフィアに所属しているものの、本人自身は気性が荒いわけでも無く、至って温厚だ。
仕事も色街での統括業務が主だっていて、殺生等は主だってはしていない。
酒は飲みすぎない程度に嗜むが、タバコも薬も女もやらない。
弟と妹を他領に逃す金を貯めている、心優しい、だが平凡な青年である。
基本的に、彼には特筆すべき点は無い……
だだ一つ。
天才であるという事を除いて。
ーーーー
僕は自他共に認めるモブ野郎だ。
そこらに掃いて捨てるほどいる、普通の男だ。
まぁ、要領はいい方だとは思うが、言い換えれば器用貧乏とも言える。
僕の仕事はマフィアお抱えの色街の統括だ。
経理関係や必要物の手配、荒事の対応から娼婦のケアまで、なんでもござれだ。
統括とは聞こえがいいが、要は雑用である。
僕は、この地味な見た目も相まって、非常に雑用を押し付けられやすい。
毎日毎日、いろんな奴らから雑用を押し付けられ、それを処理する毎日だ。
地味で平凡な日々。
しかし、それでいいと思う。
給料はしっかりもらっているので特に不満はない。
金をしっかり貯めて、遠からず他領へと移り住み、そこで今よりも安心な毎日を送るのだ。
それでいいし、それがいい。
ブラキリアの崩壊を直に経験したからこそわかる。
なにより普通が一番なのだ。
しかし。
そんな僕の平和は一瞬にして崩壊する。
ある日のことだ。
僕はいつもの様に雑務に勤しんでいた。
そんな時、突然頭上からヒリついたものを感じる。
考えるより先に体が動いた。
バックステップで距離を取ると、僕がさっきまでいた場所に骸骨の鬼が落ちて来たのだ。
それを一目見て、僕は全力で逃げた。
絶対に関わってはいけないと思ったからだ。
すぐに妹と弟を連れて、この地から抜け出さなければならないと思った。
が、次の瞬間。
僕は魔術師姿の骸骨の前にいた。
転移魔法を使われたと察した。
この魔術師骸骨は恐らくさっきの骸骨鬼の別フォルムと当たりをつける。
転移させてくるのなら逃げるのは無理と判断し、瞬時に魔法剣で切りかかる。
風の双剣を顕現させ、一息で三十六回切りつけた。しかしバリアで一切効いていない。
切りつけた際の硬さから、僕の手持ち戦力で貫くことは出来ないと判断し、煙幕の魔法と閃光の魔法と爆音の魔法と刺激臭の魔法と水蒸気の魔法と暗闇の魔法を同時展開して、高速起動も発動させつつ逃げる。
そこで、僕の意識は一旦途切れた。
次に気がついた時には、何故か骸骨の戦士相手に殺意を持って挑んでいた。
僕はこのように、ムキになって相手に攻め入ったりはしないので、恐らくこれは精神異常の魔法をかけられているのだと推測できるが。だが、その解除は到底できそうには無く、現状、手の施しようはなかった。
相手の格が違いすぎる。手も足もでない。もう、どうしようもない。
だが。
諦める気は無かった。
だって、死ぬまでは生きているのだから。
だから、死ぬまでは生きてやろうと、僕はそう思った。
「お前、いいな」
何時間か戦い抜いた後、不意に骸骨戦士がそう言う。
青い炎が灯る眼孔と目が合い、僕は真正面からそう言われた。
「シンプルに強い」
その骸骨には表情の無いのだけど、だけど笑っているようで……
「お前すごいよ」
普段褒められる事のない僕に、それはやめてくれと言いたい。
ストレートな賞賛は、僕に効く。
あと。
気のせいだろうけど。
何故か骸骨と重なって、美少女が見えた気がした。
もしかしてそれがこの骸骨の正体なんじゃ無いかと思うと、なんだか心臓が痛い。
「ぐぅ……」
僕は胸を抑える。
そして、その直後にまた眠らされたようだった。
ーーーー
こいつは拾い物だ。
ここまでの天才は然う然ういない。
魔術の発動スピードもさることながら、その威力は申し分なく、さらには複数同時展開も可能。
この時点で相当な魔術の腕前である。
加えて思考速度は神がかって早く、体術もかなり洗練されていた。
加えて常人十人分の仕事量を、一人で常時行っていたことを考えると、最早こいつを手放すことなど考えられない。
このスペックで、何故こんなにも地味で影が薄くいられるのか、最早意味がわからないレベルだ。
手放しで賞賛できるほど、実に素晴らしい人材である。
ので、ありがたく頂くこととしよう。
ーーーー
「ジョー」
「なんすか、ボス」
俺はジョーに言う。
「お前は、自分で考えていい感じに動いてくれ」
「いい感じって……」
こいつは俺が指示するより、その方が良さそうだ。
「頑張ったら、後で褒めてやるよ」
「…………」
苦虫を噛み潰した様な顔で一つコクリと頷くと。
頭をぽりぽりと一掻きし、彼は無言で立ち去るのだった。
「照れてやがる」
俺はそれを一瞥し、また作業に戻るのだった。




