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眷属化二人目。
名をツェルベロという。
彼は生まれも育ちも、ここブラキリアのスラムである。
彼に親はいない。幼い頃、物心つく前にスラムへと捨てられたからだ。
すぐに死んでもおかしくなかった。治安の悪過ぎるスラムに置き去りにされ、殺されてもおかしくなかった。
しかし、彼は無骨ながらも心優しい老人に拾われた。そして生きながらえた。
スラムで、汚く、貧しく、危険な中で、だけど彼は健やかに育った。
彼は斥候職系の才能に溢れていた。異形も「影狐」という隠密能力に優れたものだ。
彼の年が十を超える頃には、その才能を遺憾なく発揮し、マフィアの中で働いた。
働いて、金を稼いだ。そしてその金を使って、子供らに糧を与えた。かつて自分がそうしてもらったように、恵まれない子供らを助けた。
この地は本当にしょうもない所だ。だが、それでも自分が優しくしてもらい、育ててもらった地だ。
汚くても、貧しくても、危険でも、飯が食えて、元気に生きていられれば、まぁ悪くない、と、彼はそう思える人間だった。
穢れ蔓延るこの地にあって、驚くほどの健全さを持ち合わせた、稀有な存在である。
そんな、良くも悪くも欲のない彼に、たった一つだけ、どうしても抗えぬ欲求があった。
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オレには憧れがある。
焦がれているものがある。
それは、ママだ。
何をと思うかもしれない。
オレ自身も思っている。
でも、オレはママというものにどうしようもない憧れがあるのだ。
単に、親がいないから、母性を求めているというのもあるのだろう。
しかし、それだけでは説明のつかない、マグマの様な感情が、オレの中にはある。
自己分析をしてみるに、多分拗れた性癖なのだと思う。
オレは生粋のスラム育ちの割に、擦れたところがないと自負している。
単にいい子ちゃんって訳じゃないのだが、それにしても捻くれた部分がない。
今は亡き、爺さんの育て方が良かったってのも、当然ある。
だがそれにしたって、我ながら爽やかな奴だと思う。
思う。
思うに。
多分、捻くれた部分が、全部性癖の方に流れたんだろうなぁって思う。
だから、オレは専ら熟女好きで通っている。
麗しきおばさま方には紳士で通っていたりする。
そんなオレが、ある日、ママに出会った。
ファミリーのアジトで翌日の仕事の準備をしていた時だ。
突如爆音がして、音の方に駆けつければ、そこに骸骨の大鬼がいたのだ。
そして俺は、その鬼と目が合った瞬間に、悟った。
ああ、これが俺のママだと。
いや、理性がそれを全否定はした。
ありえないだろ、と。
あれのどこがママなのだ、と。
どう考えても、ヤベェ奴だろ、と。
しかし、本能が訴えたのだ。
あれは、ママの中のママ、ママ神だと。
何を言っているのか少しもわからないと思う。
俺自身、一つもわからない。
脳内で警鐘と福音の鐘が鳴り響く中、俺はただただママを見つめることしか出来なかった。
そこからは記憶が曖昧だ。
ただ、ママを求め、ママを必死で追いかけた事だけは、覚えている。
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こいつは非常にヤベェ奴だ。
だが、悪人ではない。むしろ良い奴と言える。
ヤベェ奴だという事に目を瞑れば、能力は非常に優秀で、人格も(表面的には)問題がない。
それにヤベェからと言って、実害はない。
こいつはママに危害を加える奴ではない。
だから、良いのである。
…………まさかイザナミの母神としての神格に反応するとはなぁ。
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「ツェル」
「はい、ママ!」
ツェルベロことツェルは、ショタい印象の18才である。
ショタといっても、身長は160ほどあるし、筋肉は引き締まっていて細身ではあるがしっかり付いている。
顔は相当に童顔だが、視線は鋭いので、総合的ショタレベルは言うほど高くない。
そんなツェルが俺の目の前でひざまずいている。
「ツェルはこの地で取れる野菜や、使えそうな野草、過去行っていた畜産について調べておいてくれ。ついでになんか今後の統治に有用そうな情報拾ってきて」
「わかったよママ、オレに任せてくれ」
そう言った直後。
にっこり笑ったツェルが、一瞬揺らめいたかと思えば、次の瞬間には消えた。
なんか技量が今までより上がってない?
まぁ、いいんだけど、なんかなぁ。
「……まぁいいか、次いこ、次」




