(泥の中で)
俺は怨霊だった。
失われていた記憶を。
今、思い出す。
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前世。
トラックに跳ね飛ばされて生を終えた俺。
俺の前世の記憶は、悲しいことに、そこで終わらない。
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俺の死体は、トラックに積まれて走り去る。
いくつもいくつも山を越え。
どんどん寂しい場所へと。
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捨てられた。
深い深い森の中。
昼でもあまり光が射さないような、そんな場所だ。
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ずっと見下ろしていた。
ずっと俯いていた。
視線の先には、俺の死体があった。
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獣が喰い散らかす。
虫が少しづつ食んでいく。
蛆が湧いて、ドロドロになっていく。
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骨だ。
骨が落ちてる。
なんだ、俺の異形は、ただこの形を真似していただけなんだ。
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ずっと、ひとりだった。
暗い森で一人佇んだ。
寂しい、寂しい。
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寂しい。
誰か。
ああ。
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寂しいも遠くに行ってしまった。
心が空になる。
空になったから、なにかを入れるしかない、寂しいから。
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ただ、呪った。
空の心を何かで満たすために。
自分を、他人を、世界を、呪った。
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呪った。
呪った。
呪った。
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呪って。
呪って。
呪った。
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のろえ。
のろい。
のろう。
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。
。
。
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気がついたら。
周りの木々が朽ちていた。
腐り切っていた。
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骨はとうに土に還った。
俺を置いて消えた。
俺まで、俺を置いていくのか。
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ふと。
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見上げれば。
朝日が。
あった。
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周りの景色が拓けていた。
木々が腐り落ちたからだ。
ああ、そうか、そういえば、ここは山だったんだな。
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何度か。
何度も。
飽きるほど。
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きれいだ。
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見て、思った。
俺も、また、始めようか。
終わりに、しようか。
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あの朝日のように。
輝けるだろうか。
俺も、なりたい、太陽に。
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だって、もう。
俺は。
俯いてないから。
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