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俺は焦っていた。
非常にマズイと感じていた。
目の前には山。
この山を超えたあたりに「嘆きの谷」があるらしい。
ここまで本当に長かった。何せ、道中はずっとずっといつまでも樹海だ。
骸骨の身なので、食事はいらないし、基本的に体調不良もない。だから生身で臨むよりかは遥かに楽しているのは理解している。
だがそれでも道無き道を歩き続けるのは困難だったし、奥に行けば行くほど強くなる魔物の相手は常に死と隣り合わせだった。
ここまで来るのは、本当に本当に大変だった。
実際、何回かはガチで死にかけた。
イグニスとの邂逅で覚えた触手再生がなければとっくにお陀仏だったろう。
だが、それも終わりだ。
正直、あと一山超える事なんて何でもない。
俺もかなりの場数を踏んだ。これまでの経験に比べれば山を走破することなど散歩に等しい。
今までと違い終わりが見えているのも良い。精神的に楽だ。
では、何を焦っているのか?
では、何が非常にマズイのか?
「ふふ、まさかな」
そう、まさか。
まさかの事態。
「ここに来るまでに三年も掛かるなんて…………」
そう。
予定されていた、王子達各々が治める領地を発表する日。
それが、昨日でした。
もう、軽く泣きそうである。
いや、命を大事にした結果だからしょうがないんだ。
本当にしょうがない、しょうがないんだ、しょうがない奴だよ俺はっ!!
「ああ、やっぱりA案なんてやめときゃよかったんだよ!!何故あそこで思い切った決断しちゃうかな俺は!!ああぁッ、一時のテンション!一時のテンションが憎い!!何だよ俺、本当にバカだなこいつ、主人公気取りかよっ!恥ずかしっ、ダサッ!何とかなると思ったのかよアホがっ!全然何とかならなかったよっぉぉっぉぅ!?」
ちなみに大声を出すと魔物が寄ってくるので、超小声で慟哭しています。
命を大事に。くそが。
「……はぁ」
あまりの自分のしょうもなさに泣ける。
だが、そうなってしまったものはしょうがない。
このまま行くしかない。
なに、まだ大丈夫だ。
嘆きの谷の怨霊を食って、晴れて超パワーアップができれば、もしかしたら空間転移を習得できるかもしれない。
そうすれば、もしかしたら、一瞬で国に戻れるかもしれない。
まぁ空間転移って、距離が増えると尋常じゃない量の魔力を持って行かれるらしいので、例えパワーアップしたところで一発帰還は無理だろうけど、ここはその事実を心の奥にしまい込んで逃避しよう。
仮に空間転移がダメだったとしても、パワーアップに成功さえすれば、帰還のタイムを大分縮められるだろう。
領地の統治については、継承戦が終わる十八歳時点までの統治内容を総合的に評価すると言っていた。
つまり挽回は可能だ。
まぁ。
ただでさえ後ろ盾もコネクションも無い俺が時間的ハンデまで負ってどないせいっちゅーんじゃ、と思はなくも無いが。
そもそも、全てが無事パワーアップできた場合っていう、捕らぬ狸の希望的観測に過ぎないのが笑える。
ああ、もう。
「…………はぁぁ」
山を登ろう。
今はとりあえず山を登ろう。
全ては、登ってから考えようじゃないか。




