4-1:至、強者へ
ザザっと音がして視界にノイズが入る。
ぼけっとしていると偶にこうなる事がある。
ノイズと共に、変な怨霊の画が浮かぶのだが…………
果たしてアレは何なのだろうか。
あの日、イグニスとか言うヤベェ天使にバラバラにされ、死に瀕してからだ。
悪い感じはしない。あの時感じた、俺が忘れている記憶のことなのだと思う。
果たしてこれは、一体何なのか。
「……だけど、遠くない内に思い出しそうな気はするんだよなぁ」
穴の空いた眼孔を通り過ぎて行く潮風を感じながら、俺はそう呟いた。
そう、俺は今、船に乗っている。
あれからもう、二年も経った。
ーーーー
俺は世界の果てにあると言う「嘆きの谷」を目指し、その日のうちにはもう旅立った。
そして、今までと同じように冒険者ギルドで小銭を稼ぎつつ、旅を続けた。
違うのは執拗に古戦場巡りをしなくなった事だ。
もちろん行きがけに見かけた怨霊は全て美味しく頂いたが、変に寄り道はせず、目的地に向かってひたすらに進み続けた。
中級戦士相当の実力というのは、旅をするには過不足ない。困難な事態にあっても、生き残るだけならどうとでもなる。それだけの強さは持っていた。
国を出て、海を越え、新天地につき、山を越え、砂漠を越え、平原を越え、雪原を越え、また海を渡り、半島を経由し、さらに海を渡り……
今、渡っている最中だ。
もう遠くに、目的の大陸が見えている。
二年もかかった。
まぁ、そのくらいはかかると思っていたが、本当にかかった。
思えば遠くに来たものだ。
これで「嘆きの谷」がガセ情報だったら、本当に無駄足だ。そしたらもう完全に積む。
だからA案はやめようと思っていたのだ。
しかし、「嘆きの谷」についての情報は旅の間も集め続けた。
その結果、「嘆きの谷」は俺が求める場所で相違ないとの結論を得ることが出来た。
俺は一つ目の博打に勝ったのだ。
そう「嘆きの谷」は……
「…………怨霊が集まり続ける場所、か」
それを全部食ったら、俺はどうなっちゃうんだろうな。