3-8
俺はその声に従う。
何も考えずに、本能に従う。
異形に身を任す。
すると。
首から触手のようなものが生えてくる。
禍々しい。ぶっちゃけきもい、闇そのものの様な触手が。
それが、散らばった僕のパーツを絡めとり、引き寄せる。
一箇所に集まり、そして接合する。
焼き切られた部分が、グチュグチャと、蠢く闇でくっついてゆく。
そして。
「……はぁ、生き残れた」
俺はへたり込んだ。
なんでこんな事ができたのかは解らない。今はまだわかる気配もない。
だが死ななかった。それが、本当に良かった。
しかし……
「まさかあいつが妹に懸想する変態だとはな」
妹と結婚する宣言をしていた熾天使ことイグニス君。
実はこの世界でそれは、異端の思考、では無い。
そう、禁忌ではないのだ。
法でも定められている。
『二親等であっても異形の種別と属性のその両方が違えば結婚が可能である』と。
流石に親と子を作るのは認められていないが、兄妹間の場合は条件さえ揃えば可能なのである。
さっきの俺の様子からも分かると思うが、異形が人間形態に与える影響は大きい。
異形が馴染んだ肉体は、最早生まれた時とは別物であると言って良い。
つまり兄妹であっても異形が大きく異なれば、血が濃くならないのだ。
法では種別と属性が違ければ兄妹間でも結婚できるとあった。
つまりイグニスの場合は、天使族、又は火属性の子でなければ結婚できるということ。
ミリアの場合は、精霊族、又は水属性の子でなければ結婚できるということ。
俺の場合は、アンデット族、又は闇属性の子でなければ結婚できるという事なのだ。
つまりこの世界の人間は、そもそもが前世の人間とは違うのだ。
話が逸れたが。
要するに、イグニスはミリアに手を出すなと言ってきたのだ。
くくく。
「あいつは、絶対に、ぶっ殺す」
決意。
決起した。
あいつは殺す。絶対に。
絶対に、俺と同じ目に合わす。
死の絶望を、その味を、存分に振舞ってやる。
要するに。
「ミリアと結婚するのは俺だ(倒錯)」
さぁ、そうと決まればこうしちゃおれん。
このまま立つ。今すぐ旅に出る。
本当は親父と少し話をしてから旅立ちたかったが、そうも言ってられない。
イグニスには、俺は死んだと思わせていた方が良い。
もし俺が生きていると知れたら、今度こそ本気で滅しに来るだろう。
だから、十歳の継承戦開始までは身を潜める。
そしてそれまでに強くなる。あいつなど歯牙にもかけぬほどに。
逆に、そうならなくては俺に未来が無い。
少なくともミリアと結婚はできない。
糞食らえだ。
実に糞食らえだよ、イグニス。
俺は俺のやりたい様にやる。せっかく賜った二度目の人生、今度こそ最後まで生きて、最高に活きてみせよう。
プランはA案で行く。
とりあえず考えてみたもののあんまり現実的じゃないなー、と思っていたA案で行く。
希望的観測が多すぎてぶっちゃけ未知数と思っている、A案で行く。
博打だ。
博打を打たねば、たった五年で最強になどなれるものか。
大丈夫、勝算は、結構あると思っている。
無い訳では無いと思っている。
いや、なんとかなる、してみせる。
「よし、行くぞ」
城に行った際に、金目の物はいくつかくすねてある。路銀はしばらくある。
なれば行かん。
大陸を離れ、海を渡り世界の果てへ。
怨霊の聖地「嘆きの谷」へと。
これで3話終了です〜
少しづつ話が狂ってきましたね。俺の話の宿命ですかね?
5000pv超えました、ありがとうございますぅ〜