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第6話 街を見る

 ギルドの演習場に行くと、白髪混じりのおっさんが若者と木剣で打ち合いをしていた。おそらく引退した冒険者がこうして試験官を務めているのだろう。


「おらぁっ! そんなもんか! 剣士は前衛の要だ! お前らがやられたらパーティーは全滅すると思え! そんなんじゃ合格はくれてやれねえぞ!」


 おっさんはそう言いながら、冒険者志望の男たちの攻撃を全て捌き、カウンターを一発ずつ入れている。


「なるほど。あのおっさんを倒せばいいんだな」


「マスター、殺しちゃダメですよ」


「分かってるよ」


 俺がおっさんに向けて歩き出すと、他の冒険者志望の奴らから野次が飛んできた。


「ちっ……ガキはすっこんでろ! 遊びじゃねえんだよ!」

「ガキはうちに帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」


(ママのおっぱいか……吸いたいものだ)


『マスター、真面目にやってください』


 俺の思考にノートが脳内で突っ込んでくる。頭の中で考えるぐらい好きにやらせて欲しいものだ、と俺は思った。


 試験官のおっさんの前に立つと、おっさんはギロリと俺に一瞥をくれて言う。


「なんだぁ? こんなちっこいガキが冒険者になろうってのかよ。悪いけど、ガキだからと言って俺は手加減し——」


「ロケットパンチ」


「ねぇぶげらっ!」


 発射された俺の右腕がおっさんの顎を捉え、おっさんはコマのように回りながら吹き飛ばされた。さっきまであれだけ騒いでいた他の冒険者志望の奴らが唖然として黙り、演習場内に沈黙が下りる。


 俺の右腕は芋虫のように這って気絶したおっさんを乗り越え、俺の足元へ戻ってくる。


 俺は右腕を拾って肩にくっつけながら言う。


「さて、これで合格かな」


「……マスター、これは剣士の試験ですよ」


 ノートは呆れた顔をしている。周りにいた冒険者志望の男たちは、腕をくっつける俺を見て「ひっ」と悲鳴を上げていたが、俺はそれを無視して冒険者ギルドに戻った。


 そんなこんなで俺はFランク冒険者になり、冒険者プレートをもらった。


 冒険者プレートは鉄製の小さな板で、首から下げられるように鎖がついていた。冒険者プレートには名前と職業、冒険者ランクが刻まれている。あとこれは冒険者ギルドのマークかもしれないが、4本の腕が生えて、それぞれ剣、盾、メイス、杖を持った男のレリーフが刻まれていた。冒険者が信じる神か何かかもしれない。



 次の日の朝、ティーシアが俺のいる宿屋にやってきた。今日は騎士の甲冑ではなく、動きやすそうな皮の軽鎧を着ていた。剣は変わらず腰から下げている。


 俺がその服装をぼんやりと眺めていると、たとえ非番であろうと騎士たるものはいつでも街を守れるように準備しておかなければならない、と胸を張ってティーシアは言っていた。


「それにしても、命を助けてくれたお礼が本当に街を案内するだけでいいのか?」


 歩きながらティーシアが言う。


(十分だと前も言ったはずだが、こいつは何回同じことを聞いてくるんだ? 面倒臭いな)


 俺がそう考えていると、ノートが横から口を出してくる。


「ティーシアのおかげで街にも入れたし、お金もくれた。冒険者ギルドにも話を通してくれたし、もう十分助かっているよ、ありがとう、とマスターは言っています」


「ふふ、そうか。それなら良かった」


 ティーシアはそう言って笑った。


(……おい、ノート。勝手に代弁するな)


『口下手なマスターのために円滑に話を進めてあげているんですよ。ありがたく思ってください』


「さて、どこを見たい? どこでも案内するよ」


「ティーシア、この街か城の中に人形かゴーレムがいないか?」


 俺はティーシアにそう聞く。昨日から昆虫型ゴーレムを放って街や城を捜索しているが、特に引っ掛からないのだ。


「ゴーレム? あの魔物のゴーレムか? そんなのが街の中にいたら大問題だ。とっくに駆除してるよ」


「魔物じゃなくて、人が作ったゴーレムは?」


「そんなことができるのか? 私にはわからないが、確かに、固有魔法でそういうのがあってもおかしくはなさそうだが……いずれにせよ、聞いたことないな」


(人がゴーレムを作るのは珍しいんだろうか?)

(それにしても、これだけ探してゴーレムが見つからないということは、ここには死んだ人形の肋骨だけがどこかに隠されているのだろうか)

(そうだとするとそれを回収して俺の旅も終了だな)


 そうして俺たちはティーシアの案内で、なんとか教の教会や武器屋や防具屋、魔法教本屋など色々回った。


 その中でも、魔法教本屋で売られていた魔法に関する本はなかなか興味深かった。売り物だからと言ってじっくりと読ませてもらうことはできなかったが、魔法の仕組みに関する話がそっくり抜け落ちていたところに驚きを覚えた。魔法の分類や神への祈り方、神ごとに授かる魔法の種類に終始した内容の教本ばかりだった。どの本も神の存在を前提として書かれていた。

 とりあえず俺は何冊かパラパラとめくりながらノートに見せて記憶させておいた。


 工房街では彫刻の店を軽く見たが、どれもこれもレベルの低い彫刻ばかりでがっかりした。

 ゴブリンの石像かと思ったらフリーヤとかいう何かの女神の石像だったし、馬糞の石像かと思ったらこの国の建国王であるアレクセン・ヴィルノードの石像だったりした。

 これなら俺が目隠しして足の小指の先だけで作った人形の方がいい出来になることだろう。

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