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ラリュウール  作者:
2/2

あの日の悪夢

ふと気がつくといつの間にか私は教室にいた。ガンッという衝撃と共に座っていた椅子が倒れ、突然のことに何も出来ずに私も床に倒れた。まだ状況が掴めずそのまま固まっていると、後ろからくすくすと笑う声が聞こえる。

「何あれ、ぼけーってしちゃって起き上がってこないじゃん。」

「床に倒れたままとか汚い。」

「馬鹿だから状況理解出来てないんだよ。」

笑いながら小声でゆっているつもりなのだろうが、こっちには丸聞こえだ。ようやく理解できた。私は今あの頃の夢を見ているんだと。思い出したくもないまだ始まったばかりの悪夢の日々を…。



この頃の私は声を出して話せていたが、学校では基本一人で過ごしていた。登下校はもちろん、休み時間も、放課後も。学校なんて楽しくなかった。ずっと家に居たかった。でもお兄ちゃんや悠さんには迷惑も心配もかけれないから、バレないために登校する。登校して下駄箱をチラッと横目で見てみるが中履きは無い。まあいつもの事だけど。私はバックから新しい中履きを出して履いた。教室のドアを開けると、数人のクラスメイトがこっちを見たが、すぐに目を逸らす。私は気にせず中に入り、1番窓側の真ん中あたりの自分の席に鞄を置いた。そして教卓そばにあるゴミ箱を覗くと、やはり私の中履きが捨てられている。いつもの事だから別に心が痛むことは無い。ゴミ箱の中から中履きを取り出し、鞄にしまう。いつもの事なのにクラスメイトの一部がコソコソ笑っている。何がそんなに楽しいのかは分からないけど、とりあえず自分の席についた。登校の時にも使っているヘッドホンをスマホに繋いで音楽を流す。周りの声なんて聞こえなくていい。どうせ悪口しか言ってないだろうし。画用紙とシャーペンを取り出して音楽を聴きながらイラストを描く。これも日課。

「あいつほんとにうざいよね。」

「自分が可愛いとか思ってんのかな?まじ、うざい。」

「そうだ!あいつさ、×××してやろうよ…笑」

そんな話をしてたなんて知りもしないで…。



私は大体授業を受けて教科書を見ていれば、テストは平均点以上は取れる。とゆうか学年でもトップクラスの点数だ。だから授業中にイラストを描いていても、学校にヘッドホンを持ち込んでいても何も言われない。

ガンッと鈍い痛みが右肩にはしった。何があったのかと周りを見ると、いつも私を嘲笑っているクラスメイトの1人が私の席の後ろの方でニヤついた。

「いったーい!ちょっとー、痛いんだけど!」

「え?」

「え?じゃなくてさ、ぶつかってきたんだから謝ってよ。」

「いや、私はここに座ってただけで。ぶつかってきたのはそっち…。」

「あたしがぶつかりに行ったってゆうの?あんたみたいなキモイやつに触れたとか最悪だし!」

そう言って彼女は手を振りあげた。叩かれるっ…!そう思って頭を守ろうと腕で覆った瞬間、さっきの右肩の衝撃とは比べ物にならない痛みがはしる。ヘッドホンと腕を同時に殴られたらしく耳の辺りと腕がじんじんと痛み、腕からは血が滲んでいるのが見えた。

「痛い…。」

「あんたが言いがかりつけてくるのが悪いのよ。」

そう言いながら勢いよく私のヘッドホンを踏みつける。

「やめて!大事なものなの!!!」

そう叫んでもやめようとはしない。それどころか彼女の仲間が一緒になって踏みつけている。精一杯取り返そうとぶつかりながら手を伸ばしたけれど、平均よりかなり小さい身長の私はすぐに跳ね飛ばされてしまった。

何度も何度も手を伸ばしても取り返すことは出来ず、彼女達の気が済んでその場を離れた瞬間にヘッドホンを見てみたけれどもちろん壊れてしまっていた。大切な人からもらった大切なものなのに…。いつもは泣かないようにしていたけれど今日は無理。ボロボロになったヘッドホンを私は抱きしめた。

「あんなの抱きしめて気持ち悪い。」

「あいつ、親いないから貧乏でやっと買えたやつだったんじゃないの?笑」

そう言って笑ってる声が聞こえたけれど、そんなの気にしてる余裕はない。バックからポーチを取り出し、ヘッドホンの破片を残さないように丁寧に入れる。

「あいつ壊れたゴミなんか拾ってるよ笑」

「気持ち悪ーい笑」

そんな声が聞こえた気がしたけれど、今日は授業を受ける気力もなくなってしまったのでそのままバッグを持って学校を出た。


「おかえりー。」

家の中から悠さんの声が聞こえる。

「今日って授業午前中だけだったっけ?」

だんだんと近づいてくる声に、いじめの事実を隠していた私は少し動揺してしまった。

「碧?どうした?」

今度は聞き慣れた男の人の声。でも、もう隠すことは出来ない。私は立ち尽くして泣くことしか出来なかった。

「碧!?」

泣いてる私に気づいたお兄ちゃんが玄関まで走って来てくれた。

「どうした!?どこか痛いとこあるのか!?それとも具合悪いのか!?」

泣きすぎて何も答えることが出来ない私を見て、駆け寄ってきてくれた時以上にあたふたし出すお兄ちゃん。

「碧も来ないし、澪までどうしたのよ。」

悠さんはリビングから顔を出し私を見てお兄ちゃん同様驚いていたけど、お兄ちゃんにはリビングに戻るように言って私と部屋に一緒に来てくれた。悠さんは何も聞かずに抱きしめて頭を撫でてくれる。

だんだんと落ち着いてきて、悠さんにゆっくりとだが今までの学校での事を話していく。いつも笑顔の悠さん。だけど今は顔は笑っているけど目だけは真剣だった。

「碧、ちょっと待っててくれるかな?」

頷く私を見て部屋を出る悠さん。さっきまでの温もりが忘れられなくて、そばにあった大きいハリネズミのぬいぐるみを抱きしめた。少ししてからまた悠さんが部屋に来たかと思うと、お盆を持ちその上には大きめな私のマグカップがのっている。

「ココア作ってきたから、机に置いておくよ?」

そう言ってこっちを見る悠さんの顔は、いつもの笑顔に戻っていた。悠さんに抱きしめてもらったのと温かいココアを飲んだからか、私はいつの間にか夢の中にいた。


璃依りい、お願いしたいことがあるんだけど...。」

眠ってしまった私をベットに横にしてくれた悠さんが、誰かに電話をしていたなんて知りもせずに...。


数日間学校を休み、基本自分の部屋で一日を過ごす日々。時々お兄ちゃんとか悠さんが部屋に来てお話したり、一緒におやつ食べたりしていた。2人共あの日の事には触れず、あのアニメ面白いよねとか今って何流行ってるの?とか普段と変わらず接してくれている。その気遣いが嬉しいけれど、申し訳ない気持ちの方が大きい。ご飯を食べる時と少し気持ちが落ち着いている時はリビングに行くようにはしていたのだが、その時に2人に言った。

「お兄ちゃん、悠さん。」

「「どうした(の)?」」

「あの...、色々ごめんね...。」

「急にどうしたの?」

「2人に迷惑かけてばっかりだから...。」

下を向いて話していたら、急に頭とほっぺが暖かくなった。何が起きたのかわからず顔を上げると、お兄ちゃんが頭を撫でて悠さんがほっぺに両手を添えてくれている。

「私達が迷惑だなんて思うと思ってるの?」

「そうだぞ。てか、俺はお前の兄貴だぞ?家族だぞ?迷惑なわけないだろ。」

わかってる。そんなこと思うわけないのは。でも時々迷惑なんじゃないかとか、自分がいるせいで2人の邪魔になっているんじゃないかって考えが頭をよぎるんだ。それで怖くなってしまう。

「「碧。」」

2人同時に私の名前を呼び、そして抱きしめてくれた。数日前に悠さんが抱きしめてくれた時少なくとも1年分以上の涙を流していた気になっていたけれど、そんなことが無かったかのようになんでかまた涙が頬をつたっている。

「あれ...?なんで...?」

袖で拭っても拭っても止まならない。

「沢山話して、相談もいっぱいして、迷惑だって沢山かけてよ。」

「そうだよ、家族なんだから。俺も悠も、碧の事が大好きだよ。今までもこれからだって。」

2人の言葉に元々止まりそうになかった涙が勢いを増して流れ出る。その後も大好きだよと言いながら抱きしめたり頭を撫でてくれたり。その日は1日があっという間に感じた。少し気持ちも落ち着いた時に今までのいじめの事をお兄ちゃんに伝えると、少し驚いた顔をしつつも相談をしなかった私を怒ることなかった。

「碧、明日学校行ってきな。大丈夫。碧が心配しているような事はもう起こらないから。」

2人共いつもとは違い、真剣な眼差しをしている。まだ学校に行くのは怖い。その気持ちはもちろんあるけれど、2人のその言葉にはなんでか安心できた。

数日ぶりにクローゼットから制服を取り出す。思い出さないようにしまっていたけれど明日は学校に行く、そう2人と約束したから。


次の日の朝は悠さんが準備してくれたご飯を軽く食べ、荷物を持って家を出た。正直怖くないといえば嘘になる。怖いものは怖い。またイジメられるんじゃないか、大切なものを壊されるんじゃないかって考えが少なからず頭をよぎる。怖くて膝が震えて、学校に着くのがいつもの倍の時間がかかってしまった。私が通っている学校は登校時間が過ぎると校門はしめられてしまう。その後に登校してきた学生は事務室に遅刻した旨を伝えて、家族からの事前連絡の有無を確認してからやっと校舎内に入れるようになる。登校時間を大幅に超えて学校に到着した私は例のごとく、事務室の職員さんに声を掛けた。

「あの...、遅刻してしまったんですが...。」

声が震える。

「学年と名前を教えて貰ってもいいですか?」

「2年の月ヶ瀬 碧です。」

「確認するので少し待っててくださいね。」

そう声をかけられ待つこと3分。

「お兄さんから連絡は頂いていますので、このまま教室に行っていただいて大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます...。」

緊張で声があまりでなかったので、とりあえず会釈してから教室へと足を動かした。

教室の前で足を止める。恐怖と緊張で手の平に汗が滲んで吐き気までしてくる始末。そのまま動けずに教室の入口で俯いていると、急に扉が開いた。

「「あっ...。」」

扉を開けたのは私をいじめていた主犯格のクラスメイトの女子。目が合った瞬間これまでされた出来事が頭をよぎり、気持ち悪さが最高潮になってしまった。いっその事吐いて落ち着こうとトイレへと重い足を動かす。3歩ほど進むと急に腕を引っ張られた。

「ちょっと待って!!!」

腕を引っ張られたことと大きな声を出されたことで肩がビクつく。声の主がわからずそーっと後ろを振り向くと、さっき目が合ったいじめ主犯格のクラスメイト。いつもだったら汚いとか臭いとか大きな声で罵声を浴びせてくるのに今日はそんなことは言わず、逆に私よりも顔が青ざめていた。よく分からず困惑してしまう。

「えっと...、あの...?」

「ごめんなさい!ごめんなさい!!!」

今度はものすごい勢いで謝られた。何度も何度も勢いよく頭を下げて。驚きすぎてか気持ち悪さはどこかへいってしまったものの、急に謝られたことについての疑問はおさまることは無い。

「えっと...、急になんで...?」

「まさかあんたが璃依さんの妹だなんて知らなかったのよ!知ってたらこんな事っ...!」

「璃依...?」

「あんたっ...じゃなくて、碧さんのお姉さんなんでしょ!?」

「そんな人知らない...。」

「でも昨日...。」

なにか言おうとしていたけれど、彼女といつもいるメンバーの1人に言おうとしたことを止められている。

「とりあえず、謝ったからね!!!」

そう言いながらいつものいじめをしてきたメンバーは、教室から出ていってしまった。

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