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ぼったくりバー


「いや、だからおかしいって」


僕は滅多に出さない大声を出した。


「そうは言われましてもね」


目の前の男は、きっかりと整えられた髭が鋭角を持ち、机に刺したらグサっと刺さりそうである。

味付け海苔みたいに太くて濃い眉毛に、キッチリと着こなした赤と白のチェック柄のベストが特徴的だ。


目の前の男はバーの店員で、僕がいま正に訴えかけている対象だ。

髭店員は髭をさすさすとしながら、困ったような表情を浮かべる。


「うちの店ではこの値段設定でやらせてもらってるもんですから...」


「いやいや、納得いかないですよ!」

「これだけ、飲んで食べて迷惑かけて、1000円こっきりなんて!」


僕は今日彼女に振られたのだ。

そのうさを晴らそうと怪しげな呼び子から紹介された、これまた怪しげなバーでワインをボトルで3本空け、カクテルを数十杯呑んで末、おつまみ程度しか用意出来ないと言ったスタッフに散々文句を垂れて、近くの店で中華料理や鉄板焼を山ほど買って来させ、店中の客とどんちゃん騒ぎをかました挙句、店の床にゲロを吐いて、半日床にねんごろしていた末、起き抜けに二日酔いでまた、親切で敷いて貰ってた羽毛の高そうな布団にゲロを吐いて駄目にした挙句、酔い覚ましの暖かいタマゴカクテルを飲ませてもらいながら、準備中で忙しそうなスタッフさんを捕まえて、別れた彼女の愚痴をグダグダと4時間近く泣きながら話すのを優しく相槌を打ってくれていたりしてもらったのに、


1000円。

全然、気が済まない。


「もう、すいません。せめてこの5万円は受け取ってくれないと、気が済まなくて、帰れないです」


「いや、ほんとうにいいんですってば。私ら別に何もこれといったサービスもできてないんですから」


「いや、この店がサービス良くないなら、世の中のすべての店がサービス良くないことになってしまいます」


私が土下座して意地でも5万円を渡そうと粘ること、30分。

ようやく髭店員が折れてくれた。


「わかりました。もうお客さんには負けました、受け取ります。その代わりまた是非ウチのお店寄っててくださいね」


「はい!是非寄らせて貰います!」


こうして、僕は髭店員に5万円を渡して店を出た。



***


「1000円って安いんですかね?ボス?」

「いや、そんな筈はないだろう。我々の国では家が一軒建つぞ!奴がよほどの金持ちなんだろう」

「そ、そうですよね!しかし、やりましたね。5万円まで手に入って!」


ボスと呼ばれた髭店員は貰った5万円にライターで火をつけた。


「ボス!なにしとるんですか!」

「ばかやろー!いくら金持ちの男とはいえ、こんな大金さらっと払える訳ないだろ!こりゃ偽札だ!」

「そ、そうなんですかい!あぶねぇ、騙されるとこだった!」

「ああ、お前も1つ勉強になったろう」


ボスと呼ばれた男は、苛立った様子で部下に指示を出す。


「さあ、今日も客からうんとぼったくるぞ。その為にも、しっかり掃除をして、いい酒を揃えて、客を気持ちよくさせるてやるんだ!」

「はい、ボス!」



部下の男はせっせとグラスを拭き始め、ボスは床に敷かれた自身が普段使っている高級羽毛布団を持ち上げると、悲しそうな顔でゴミ捨て場へと向かった。



***


「あれ、たしかこの辺りだったのに」


男は以前訪れた、気前のいいバーに再訪しようと足を運んだが、そんなバーはどこにも見つからなかった。




終わり


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