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百合×姉妹×禁忌『中毒』

閲覧ありがとうございます。

「お姉ちゃん……」


 妹の寝言が、静かな森にこだまする。


 もう、どれくらい歩いてきただろうか。毎晩のように浮かぶ、その感覚。歩いた距離なんて、たいした問題じゃないって、分かってるのに。


「ふぅ……」


 私は一つ息を吐き、濡れた両手を眺める。妹に手を出したという事実は、どんなに澄んだ清流をもってしても洗い流せることはない。


 蛍が、私のまわりに集まってくる。この蛍達は自分達の集会を邪魔している私にどけてほしいのだろうか。「さっさと向こうへ行け」と。それとも、私を急かしているのだろうか。「さっさと『向こう』へ行け」と。

 どちらにせよ、私は醜く終わるのがお似合いだ。


 このまま水の中に顔を突っ込めば、私の一生は終わる。簡単なことだ。ただし、この川を下水道に変えてしまうことになるが。


 分かってる。私はそんなことできない。妹の姿を見られなくなる。妹に触れなくなる。そんな不純な気持ちが、自らの罪の清算にブレーキをかけている。


「お姉ちゃん、どうしたの……?」


 水音か、私の溜め息か。とにかく、妹を起こしてしまったらしい。私は肌に張り付いた髪を気にしながら妹の方へ振り向いて、言った。


「……水浴び、したくなって」


 まじまじと妹を見つめる度に、自分が何をしでかしたのか、いやでも思い出してしまう。

 自分の独占欲のために、実の妹を彼氏から奪って、連れ去って。親とも縁を切った。重罪を犯したというのに、彼氏が妹の初めての相手だと知ってその男に殺意を覚えるなんて、どこまで私はワガママなのだろうか。


「っくしゅん」

「……お姉ちゃん。風邪、ひいちゃうよ」

「……そうね、そろそろ出るわ」


 真夏とはいえ、冷たい川に長時間浸かっていれば流石に体調を崩してしまう。私は体育座りの状態から立ち上がり、川から上がった。


「……いっつも思うんだけどさ」

「…………なに?」

「……お姉ちゃんって、綺麗な体してるよね」


 妹に他意はないのだろうが、私には嫌味に聞こえてならない。


「同じ姿でしょ?」

「見た目はそうだけど、でも、全然違うじゃん」


 同じだけど、違う。それは私が痛いほど分かっている。そうでなければ、薬という禁忌に足を踏み入れてまで妹を私色に塗り潰した意味がない。「スピード」だか何だか……正式名称は知らないが、そういったものの入り口は日常のどこにでも潜んでいる。学生だった私でさえ、バイト代を全額つぎ込めばある程度は買える。それは私達の地元も例外じゃなかった。


「お姉ちゃんはお姉ちゃんだし、わたしはわたし」

「……そうね」


 私はそう呟いてからタオルで体を吹いて服を着直し、草むらの上に敷いたゴザに座っている妹の左腕にそっと触れた。柔らかい、私の妹の肌だ。

 きめ細かい……まるで高級な絹織物のように滑らかな肌触りの腕をつーっと遡って行く。その先。二の腕には、私の罪の痕がくっきりと残っていた。


「……いい?」

「うん」


 ポーチから取り出した注射器をを構えて聞く。よくしつけられた妹は、もう拒まない。


 ゆっくり、ゆっくりと、けれど確実に、注ぎ、れていく。妹の中へと。禁忌の薬を。


「……好きよ」

「えへへ。わたしも……。お姉ちゃんのこと、だい好き……」


 その言葉を確認して、私は自身の唇と妹のそれとを重ね合わせた。


 私の愛は、昔よりもさらに増し、今にも溢れそうだ。

 けれどそれとは反対に、私がこれまでに買い集めてきた薬は底を尽き始めていた。


 妹にかけた魔法が解けるのは、時間の問題だ。

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