大切な人
その後も次々とハームワームを駆除していく、俺とリースさんだった。
「リースさん、大丈夫ですか?」
明らかに元気がなくなったリースさんに話しかけた。
「だ、大丈夫です・・・。」
うん。
大丈夫じゃない。
まあ、ただでさえミミズが嫌いなのに、胴体がさけ液体が流れ出てくる光景を見続けたら俺でも萎えるわ。
当分虫は見たくないし、ワサビも食べたくない。
「あとどれくらいでしょうかね。」
「まあ・・・、だいぶ居なくはなりましたね・・・。」
いつもなら、語尾に「!」が付くくらい元気なリースさんが、こんなに気分が悪そうだとは・・・。
「少し休憩しましょうか・・・?」
さすがにこのまま続けたら、リースさん気絶しちまうよ・・・。
だが、リースさんは・・・。
「いえ、大丈夫です・・・。 このまま続けましょう。」
だから大丈夫じゃないって・・・!
さすがに誰が見てもわかるくらい、元気がないって・・・。
「どうしてそこまでして・・・。」
そう俺が言った直後に、リースさんが答えた。
「言ったじゃないですか・・・。 今度は私があなたを助ける番だって・・・。」
冒険者登録をしたときに言った、あの言葉か・・・。
リースさんは続けて話した。
「タカヤさんは、私の大切な仕事仲間です・・・。 こんなダメな私の仲間になってくれた、とても素敵な人です・・・。 だから、私はあなたを助けたいのです・・・!」
「え?」
気分が悪いのに、リースさんは無理に大きな声を出した。
そうだったのか・・・。俺は今の言葉だけで理解した。
この人にとって、俺はそんなに大きな存在だったのか。
だからこんなになるまで・・・。
「・・・わかりました。 では、ここで待っててください!」
「えっ・・・?」
俺は森の中を走り出した。
すると、ハームワームを2体ほど発見した。
俺は1体に向かって全速力で近づき、持ってた木の棒をフルスイングした。
そして地面に倒れ込んだハームワームを、肩にぶら下げた。
その後もう一体のハームワームも同じように攻撃し、肩にぶら下げた。
そして、リースさんのもとへ全速力で戻り、彼女の前に2体のハームワームを置いた。
「こうやって、俺がハームワームを持ってきます。 リースさんはそこで斬るだけで良いです!」
「えっ!!?」
リースさんは驚愕した。
そりゃそうだろうな。
「ハームワームを背負ったりして、大丈夫なんですか!?」
「俺は大丈夫です!」
正直すげえ気持ち悪かった。
だが、これ以上リースさんに無理はさせられない・・・!
「では、もう一度行ってきます!」
俺は再び森の中を走り回った。
数十分後、だいたい20体以上はハームワームを駆除できただろう。
俺はもう、ハームワームの感触に慣れてしまった。
慣れとは恐ろしいものだ・・・。
「大分駆除できましたね。」
心なしか、リースさんも少しは元気が出てきたみたいだ。
本当に良かった・・・。
「じゃあ、行ってきます。」
「あっ、待ってください!」
リースさんが呼び止めてきた。
「私はもう大丈夫です。 一緒に行きましょう。」
「え?」
リースさんはそういうと、俺の横に来て「フフッ」と笑った。
俺は何も言わず、ただ頷いた。
その後は数を数えるのも面倒になり、結局何体駆除したかわからなかったが、とにかく倒して倒して倒しまくった。
リースさんは、さっきのが嘘みたいに元気になり、積極的に手伝ってくれた。
しばらくすると、おそらく近隣の住民らしき人が来て、依頼達成の証明書をくれた。
さすがにハームワームを全滅をさせることは不可能に近いことなのだろう。
俺とリースさんは穴を掘り、その中にハームワームの死骸を捨てて、埋めた。
ハームワームの死骸は肥料になるらしい。
俺とリースさんは、ギルドへと戻って行った。
時間帯はおそらく夕方ぐらいだろう。
というか夕日がみえるから、夕方だろう。
俺とリースさんはギルドに入り、受付嬢さんに依頼達成の報告をして、報酬をもらった。
「報酬は全部タカヤさんにあげます。」
「え?」
「私からのお礼も含めてです。」
リースさんは笑顔で報酬を全部渡してくれた。
俺は半分だけ貰った。
「なら俺だって、リースさんへのお礼も含めます。」
「え?」
俺にはさっきから言いたいことがあった。
「俺だって、リースさんは大切な仕事仲間だと思ってます。 こうして冒険者になれたのも、リースさんのおかげです。」
こっちの世界に来て、リースさんには色々とお世話になった。
冒険者、生活、依頼、こっちの生き方を教えてもらった。
だから、俺はリースさんと仕事仲間になれて、心から良かったと思っている。
「俺だって、リースさんを助けたい。 だからこれからは、報酬は半分に分けますし、宿泊料も半分出します。」
2日間一緒にいてわかった。
この人は本物の"良い人"だ。
彼女には、誰かが付いていなければいけない・・・。
その誰かとは、俺のことだ。
俺は真っ直ぐリースさんを見つめた。
すると、リースさんは近くの席に座り、泣き出した。
「う、嬉しいです・・・! そ、そんなこと言われたのは初めてです・・・!!」
なんだ、嬉し泣きだったのか・・・。びっくりした。
しかし、よく泣く人だなぁ・・・。
受付嬢さんに心配されたが、大丈夫だと説得した。
俺はリースさんから半分金を貰い、宿の予約をした。
ついに、この世界で初めて金を払った。
時間が時間なので、俺はギルドに戻った。
道具屋や武器屋に行っても、物を買えるような金はまだ持ってないので、行っても無駄だろう。
だから、今日の夜まではギルド時間を潰そう。
そう思っていた。
ギルドに戻ると、リースさんは他の冒険者の人と話をしていた。
おそらく、今日のことでも話しているんだろうな・・・。
なんだか照れ臭いな・・・。
俺は、そんなことを考えながら、遠くから眺めていた。
その時、横からいきなり話しかけられた。
「よう、だんだん充実してきたようじゃな。」
ん?
この声どっかで聞いたことがあるような・・・?
だが、あまり思い出したくもない感じもする・・・。
・・・まさか。
俺は思い切り、声がした方を向いた。
すぐ隣の席に少女がいた。
"パルフェ" 。あの時の女神だ・・・。