初の依頼
俺は困惑していた。
なぜかって?
答えは簡単だ。
俺の後ろには、パンツ丸出しのキャミソール女がいるからだ!!
最悪だ。
リースさんは純真無垢だと聞いたが、ここまでとは・・・。
確かに寝る時まで鎧を着ているわけはないと思ったが、ここまで無防備だとは・・・。
せめて普通のパジャマを着ると思っていたのに・・・。
幸運だったのは俺が先に寝たことだな。
もし昨日、先に寝なかったら気になって寝つけなかっただろう・・・。
というかもしかして、ここで着替えたのか!?
いや、確かにこの部屋以外では着替えられないだろうが・・・。
・・・正直、少し残念に思った。
最低なのは分かってる。 でも、俺も一人の男だ。
全く興味が無いというと嘘になる。
・・・もう、考えるのはやめよう。
とりあえず、今日が俺の初任務の日だ。
精一杯頑張ろう。
リースさんはまだ寝ている。
起きるまで、しばらく町を窓から眺めることにした。
町には既に人で溢れ、右へ左へ歩いている。
冒険者みたいな人がいれば、そうじゃない人たちもいる。
服装はファンタジー作品で見るような服ばっかりだった。
「(本当に異世界に来ちまったんだな・・・。)」
今更だが、改めて理解した。
ここは、元々俺が住んでた世界とは違うということを・・・。
ということは、この世界の常識で知らないこともあるのだろう。
例としてモンスターとかもそうであろう。
「う・・・、ん? あっ、おはようございます・・・!」
リースさんが目を覚ました。
昨日はずっと甲冑を身に着けていたが、今は普通の女性らしい恰好をしている。
また、寝起きのため髪がボサボサだった。
「おはようございます。」
俺は後ろを向き、リースさんに朝の挨拶をした。
男女が一緒の部屋で寝ることは、この世界では特に問題ないのだろうか?
どっちにしろ、他人には言わない方が良いな・・・。
「今日はよろしくお願いします。」
「そうでした。 タカヤさんの初めての仕事ですね。」
リースさんはまだ完全には起きていないが、変わらない笑顔で話してきた。
「少し準備をしますので、待っててください。」
そういうとリースさんは、洗面所の扉に入って行った。
やっぱり、リースさんも女性なんだな。
中から水音などが聞こえた。
数十分後・・・。
「お待たせしました!」
リースさんの準備が終わったようだ。
相変わらず全身を甲冑で包んでいる。
「じゃあ、行きましょうか!」
部屋を出て、階段を下り、宿屋を後にする。
空は青く、風はとても気持ちよく感じた。
運よく人がそんなに多くなかったので、ギルドまで簡単に着くことができた。
ギルドには既に人が結構いた。
昨日マーガレットさんに教えてもらった人もいれば、そうじゃない人もいて、今日初めて見た人もいた。
「あっちです。」
リースさんは人だかりを指差した。
おそらくあそこの壁に、依頼が張り出されているのだろう。
昔やったゲームで見たことがある。
俺らは近くまで移動した。
さすがに人が集まっていて、全く見えん。
すると、リースさんは人と人の隙間に入り込んでいった。
周りの冒険者より小柄だったのと、甲冑による守りのおかげだろう。
しばらくすると、人と人の隙間からリースさんが出てきた。
手には一枚の紙を持っていた。
「この依頼にしましょう!」
そう言って、俺に紙を渡してきた。
紙には≪ハームワーム退治≫と書かれていた。
「ワーム? ミミズのことですか?」
「はい! 大型のミミズです。」
大型のミミズ・・・。
あんまり想像はしたくないな・・・。
「あ、心配はいりませんよ。 ハームワームは植物を枯らすだけのモンスターですから。 人を襲ったりはせず、こちらが攻撃しても逃げるだけです。」
「そうなんですか。」
失敗したら死ぬような依頼を選ばずに、俺のために安全な依頼を持ってきてくれたのか。
とてもありがたい。
「ただ、依頼料は少なめです・・・。」
「いえ、今回は金が目的ではありませんから。」
今回は依頼というものを知るためのものだからな。
金額は重要じゃない。
「リースさんこそ、大丈夫ですか?」
「はい。 今はそこまでお金には困ってません。」
リースさんはガッツポーズをしながら言った。
「依頼に行ってきます。」
「はい、気を付けてください。」
受付嬢さんに依頼の紙を渡し、あれやこれややって、ギルドを後にした。
町を出て、目的地に向かっている最中に、リースさんが話しかけてきた。
「そういえば、武器や防具とか揃えなくて良かったんですか?」
「ま、まぁ、お金がありませんし・・・。」
じつはすっかり忘れていた。
だが今俺が言った通り、俺は金を持っていない。
リースさんのことだから、また代わりに金を出してくれるだろう。
だが、さすがにこれ以上迷惑にはなりたくねえ。
人は襲わないモンスターらしいから、まあ大丈夫だろう。
数時間後、目的地に着いた。
いわゆる小さな森だな。
樹の中には、美味しそうな木の実が付いている樹もある。
「この辺りにハームワームが出るらしいです。 それを駆除すれば依頼達成です。」
「わかりました。」
ついにこの時が来た。
俺は念のため、そこら辺に落ちていた木の棒を持って、ゆっくり歩いた。
リースさんも、腰に差していた剣を引き抜き、俺より少し後ろから付いて来た。
「ハームワームは人間と同じぐらいのサイズですから、気を付けてください。」
「は、はい・・・。」
でっけえミミズだな。
元の世界で出たら大騒ぎだぜ。
数分後、やや遠くにそれっぽい影を発見した。
どうやらハームワームは樹皮を食べているようだ。
あれが奴らの食糧なのだろうな。
「見つけました。 あそこにいる奴ですね。」
「は、はい・・・。」
心なしか、リースさんが元気じゃないような気がしたが、俺はそれより目の前のハームワームを見逃さないように一歩一歩慎重に進む。
ハームワームは樹皮を食べるのに夢中で、こちらに気付いていないようだ。
「タカヤさんが木の棒でハームワームを殴り、怯んでいるところを私が斬ります。」
「わかりました。」
小声で作戦を立て、ハームワームに近づく。
未だにこちらに気付いていないようだ。
「もう走って一気に仕留めましょう。」
「そうですね。」
もう十分距離を縮めたので、俺は一気にハームワームのもとまで走り、樹に打ち付けるように木の棒でフルスイングした。
ベチョ! という音と共にハームワームは地面に倒れ込んだ。
リースさんは透かさずハームワームの胴体に剣を振りおろし、ハームワームは真っ二つになった。
切り離された胴体の中から、緑色の液体が流れてきた。
とてもキモチワルイ・・・。
「や、やりましたね・・・。」
俺はリースさんに向かって言ったが、リースさんは無言だった。
なんか震えてないか・・・?
「あ、あのー、リースさん?」
「・・・え!? は、はいっ!!」
リースさんが慌てて返事をした。
あっ・・・、もしかして。
「リースさん、もしかして・・・ハームワームが苦手なんですか?」
「え、えーと・・・。」
うん。
この反応は明らかに嫌ってるな。
「嫌だったら、俺一人でやってもいいですが・・・。」
「い、いえ! い、依頼を受けたからには、わ、私も一緒にやります!!」
明らかに声が震えている。
リースさんも女なんだな。
「あっ、あそこにもいます!」
リースさんが指を指した方向に、居眠りをしているハームワームがいた。
「あれは、そのまま剣で斬ったほうがいいですね。」
「は、はい・・・。」
相変わらず元気がないリースさん。
おそらく、一番簡単な依頼が、苦手な虫の駆除だったんだろうな。
最悪だ。俺のせいでこんなことに・・・。
「剣を貸してください。」
「え?」
「あれぐらいは一人でやれます。」
さすがにリースさんにやらせるわけにはいかないな。
少なくとも、一人でできる場合は俺が積極的に駆除しよう。
俺はリースさんに剣を貸してもらった。
意外と重いな。
とりあえず、木の棒を一度地面に置き剣を両手で持ち、そのまま一歩一歩静かに近づく。
すると、リースさんが俺の背中にしがみついてきた。
「リ、リースさん・・・?」
「ご、ごめんなさい・・・。 独りは怖くて・・・。」
か、かわいい・・・。
だが、甲冑が背中にしがみついている状況なので、そこまで意識はしなかった。
というか、モンスターを目の前にしてそんなこと思っている場合ではない。
寝ているハームワームを俺は両断した。
さっきと同じく、胴体が真っ二つになり、緑色の液体がでてきた。
これで二体目か・・・。
俺は背中から離れたリースさんに剣を返し、地面に置いていた木の棒を拾う。
そして、次のハームワームを探すために、リースさんと共に森を歩いて行った。