タカヤ暴走
「先に宿に向かっているから、ゆっくり来い。」
ジェラルドはそう言って、リースの装備品を道具屋で買った袋の中に入れて持ち、宿屋へ向かって行った。
なにがあったかを説明しなければならない。
まず、リースは足を怪我してしまったようだ。
歩けないレベルではないが、医者から安静にするように言われたのだ。
そして俺がリースをおぶって宿屋まで運ぶことになった。
その代わりジェラルドは道具屋で大きな袋を買い、その中にリースの装備品を入れて運んでくれた。
つまり、おぶっているリースは全身甲冑ではない。
ヴァニラは当然呪いの関係で近くにおり、一緒に宿へ向かう。
「んじゃ、行くか。」
「はい。」
俺らは宿に向かってゆっくりと歩き出した。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、全然平気だ。」
リースが心配してきたが、問題なく返答する。
というか昔、全身甲冑姿のリースをおぶっていたんだが・・・。
・・・だが、大丈夫じゃないこともあった。
俺の背中に柔らかい球体状のモノが二つ当たっているのだ。
自分で言うのも変だが、これはこの歳の男には色々とヤバいことだ・・・。
ましてや、下着姿や添い寝があっても理性を保とうとする俺にとっては大変なことだ。
・・・ってなに一人で盛り上がってやがる!!
今までにもこんなことに近いことは沢山あっただろうが!
今になってなにを言ってるんだ!!
「すみません・・・。」
「気にするな。 それよりしっかり休め。」
宿屋に着き、リースを布団で横にさせた。
足に包帯が巻かれ、なんとも痛そうだった。
ちなみにジェラルドは置手紙を置いて、出かけて行った。
どうやらバルザックに飲み会へ誘われたらしい。
「マスター、着替えさせた方が良いんじゃないのですか?」
「あっ!!」
ヴァニラが余計な一言で気付いてしまった。
まあ、寝間着に着替えさせないといけないだろうな・・・。
・・・だが、どうすればいいんだ?
「大丈夫です。 自分で着替えられます。」
リースがそう言った。
正直ホッとした。
動けないリースの代わりに、リースの持ち物の中から寝間着を取り出す。
あのキャミソールワンピースだ。
ふと目に入ったが、どうやら何着か同じのがあるらしい。
衛生面に問題はなかったようだ。
寝間着を渡し、着替え始めるリース。
今回は仕方ないので、俺は着替えが終わるまで窓の外を見ていた。
「終わりました。」
「よし、じゃあここ数日は大人しくするんだぞ?」
「はい。」
リースは素直に返事をした。
流石にここまでくると、リースも従うしかないようだ。
「ヴァニラ、お前はそっちのベッドで寝ていいぞ。」
「え、でも・・・。」
「ジェラルドには上手く言っておくから。 お前もさっきから眠たそうだしな。」
「す、すみません・・・。」
ヴァニラは服を脱ぐと、素直にもう一つのベッドで横になった。
すると、すぐに眠り出した。
まあ幼いし、疲れただろうしな。
それと、どうやら悪魔は頑丈なようだ。
あのウシに何度もぶっ飛ばされても、軽傷で済んだようだ。
あれから数十分経った。
明かりを消し、リースもすっかり眠っている。
俺はジェラルドの帰りを待つため、窓際で椅子に座ってボーっと窓の外を眺めていた。
まあ飲み会は短くても一時間はかかるだろうな。
飲み会に行くのも手だが、ヴァニラが起きてしまうのでダメだ。
気長に待つとしよう・・・。
「お母様・・・。」
ふとリースがそう寝言を呟いた。
念のためリースの様子を確認するために近付いたが、特に問題はなかった。
・・・お母様か。
そういえば、リースが冒険者になったきっかけはお母さんだったな。
リースにとっては本当に大きい存在だったんだろうな・・・。
そういや、俺の母さんは今頃どうしてんだろうな。
俺は急に死んじまったからな・・・。
・・・あまり母さんのことを考えると、泣けてくるからやめよう。
それにしても、相変わらず無防備だな・・・。
キャミソールの肩紐が肩から落ちているのが、セクシーだった。
俺じゃなきゃ襲われるぞ。
・・・その時、俺の脳裏に前に言われたとある言葉が浮かんだ。
<「お嬢の身体を好きにしていいぞ?」>
キーちゃんから言われた言葉だった。
「リースを守れるほど強い男になる」という依頼の報酬内容だ。
・・・おそらく冗談ではあるのだろうが、どうもインパクトが強すぎて忘れられない言葉だった。
・・・。
・・・・・・。
身体を好きに・・・・。
・・・!!?!?!?!?
今、俺、なにを考えた・・・!!?
俺のバカ野郎!!
チラっとリースを見た。
俺がこんなに暴走しているのに、呑気に寝ている。
無防備な格好で・・・。
・・・あかん。
何故今更になってこんなにテンパっているんだ。
「どうやら、困っているようじゃな。」
「!!?」
いきなり後ろから声をかけられた。
そこにはパルフェが久しぶりに姿を現した。
「・・・お前、なにをしに来た!?」
俺は小声でパルフェに向かって言った。
するとパルフェは俺の顔を指して、笑いながら言った。
「もちろん、からかいにじゃ!」
・・・コイツ!!
「所詮はお前も「男」じゃな。」
「なっ、違うからな!」
「はいはい。」
パルフェはニヤニヤしながら部屋の中を飛び回った。
・・・ウゼェ。
俺はパルフェの頬を引っ張ろうとした。
だが、あと少しのところで避けられた。
「おっと怖い。 では、失礼するかな。」
「あ、待て!」
パルフェを捕まえようとするが、パルフェはさっさと煙と共に消えた。
・・・あの女神め!!
しかしこの状況、一体どうするか・・・。
・・・こうなったら!!
俺は腕立て伏せをすることにした。
そうすることで、この気持ちを抑えることができるはずだろう。
それっ!
1、2、3・・・。
「おい、タカヤ。 なんで床で寝ているんだ?」
・・・どうやら疲労でぶっ倒れたようだ。
やり過ぎた・・・。
「さて、どうやら俺は床で寝ることになりそうだな。」
ヴァニラが片方のベッドで寝ているのを見て、ジェラルドがそう言った。
「ああ、すまん。 さすがにヴァニラも女の子だから、床で寝させるわけにはいかなくてな・・・。」
「ハッ、分かってるって。 そういうことなら喜んで床で寝るさ。」
ジェラルドが俺の頭をワシャワシャと撫でながら、そう言ってくれた。
ジェラルドは本当に良い奴だ。
「お前はヴァニラと一緒にベッドで寝てやれ。」
そう言って、ジェラルドは壁に寄りかかって座りながら目を閉じた。
酒が入っているせいか、すぐにでも眠りそうだった。
サンキュー、ジェラルド・・・。
俺は洗面所で体を拭き終わると、ヴァニラを起こさないようにゆっくりとベッドに入った。
ヴァニラの体温のおかげでとても暖かかった。
そして、朝になった。
「マスター、おはようございます。」
「おう、おはよう。」
ヴァニラが目を擦りながら、目覚めた。
「なにしてるんですか?」
「いや、なんか心配でな・・・。」
俺はリースの寝ているベッドの隣で、イスに座ってリースを見守っていた。
朝起きてからずっとだ。
「しばらくは安静にしてないといけないんですよね?」
「ああ。 だが、どうも独りにしておくのは心配でな・・・。」
なぜか知らんが、無性にそう感じた。
心配性なのは分かってるが、やはり心配だ。
「マスターがそうしたいのなら、私は止めませんが・・・。」
ヴァニラがそう言ってくれた。
ヴァニラに気を遣わしてしまうとは、今日の俺はどうかしちまっているな・・・。
「いや、俺は・・・。」
「気にすんなって。」
いつの間にかジェラルドが起きていた。
支度もできていた。
「お前は頑張りすぎなんだよ。 少しは自分のやりたいことをしろよ。」
俺の頭を掴みながら、ジェラルドがそう言った。
おっさんの歯茎が見える精一杯の笑顔を見せてくれている。
「今日は独りで依頼をやるから、お前はリースの側にいろよ。」
「だが・・・。」
「いいって!!」
そう言うとジェラルドは、部屋のドアを開いた。
「今日の分の宿代も代わりに払っておくから安心しろ。」
そのまま部屋を出て行った。
・・・ジェラルドにまで気を遣わしてしまった。
彼女の寝顔は綺麗だった。
真紅の長い髪が、彼女の美しさを引き立てる。
まさに「眠れる森の美女」だ。
・・・俺は何を考えているんだ。
最近おかしいぞ。
一体いつからだ・・・?
なんか知らんが、最近リースを意識しすぎているような気がする・・・。
・・・顔を洗おう。
俺は洗面所に行って、顔を洗った。
そして気合を入れて、両頬を叩いた。
「大丈夫ですか、マスター?」
もう一つのベッドで横になっていたヴァニラに心配された。
俺のおかしな行動を見ての感想だろうな。
「すまねえな、ヴァニラ。 お前まで外出できなくて・・・。」
「いえ、マスターと一緒ならどこでも大丈夫です。」
「サンキューな。」
思えば、ヴァニラは初めて会ったときから良い子だな。
文句を全く言わずに、俺の後にずっと付いてきて・・・。
「なあ、ヴァニラ。 お前、なにか欲しい物とかあるか?」
「え!?」
「いや、お前に迷惑ばかりかけてるし、お詫びの印にと・・・。」
「いえ、迷惑なんてかけられてませんよ!!」
ヴァニラがベッドの上で立ち上がった。
小さい羽根をパタパタと動かしている。
「実は、前のマスターからはかなり邪険な扱いを受けていました。 ですが、あなたは私を家族のように大切にしてくれました。」
すると、ヴァニラは羽を使って宙を飛び、俺の前に着地した。
そして笑顔を見せながら見上げてきた。
「あなたには、感謝しています!!」
無邪気な笑顔に、俺はやや後退った。
なんとも俺には眩し過ぎた。




