ギルドの冒険者たち
夜になり、ギルドへ向かう俺とリースさん。
リースさんの話によると、「飲み会」が開かれているらしいが。
まあ、漫画やゲームなどでギルドに酒場があるのは知っているから、不思議ではないが・・・。
「入りますよ?」
ギルドの扉に手を添えるリースさん。
相変わらず全身を甲冑で包んでいる。
まさか、その状態で飲み食いするんじゃないでしょうね・・・。
ギイィ・・・。
扉を開くと、笑い、喋り、笑い、しゃっくり、笑い、鼾、笑い、と主に笑い声が聞こえてきた。
とてもうるさい。
だが、雰囲気は正直嫌いじゃない。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ・・・。」
わざわざリースさんが心配してくれた。
正直、この雰囲気に吹き飛ばされそうになりそうだ。
「おーい、リース!!」
少し遠くの席にいる大男が、リースさんを呼んだ。
「知り合いですか?」
「ええ、まぁ・・・。」
リースさんは俺を連れて、大男のもとへ行き、向かいの席に着いた。
「お前、ついに仕事仲間ができたって?」
「は、はい・・・。」
大男の迫力のせいか、ややタジタジのリースさん。
すると大男は今度は俺の方を向いた。
「お前がリースの仕事仲間か!!」
「は、はい・・・!」
すごい迫力だ。
気分はプロレスラーと話している気分だ。
「名前は?」
「タカヤと申します・・・。」
「そうかタカヤか!」
大男は笑いながら言った。
すると、今度は俺に向けて手を伸ばしてきた。
「俺の名前は "グリフォス" だ! よろしくな!!」
「は、はぁ・・・。」
俺は伸ばしてきた手に握手をした。
よく見ると、グリフォスさんの腕には赤いバンダナが巻きつけられている。
そういえば、リースさんも黄色いバンダナを腕に巻いていたな。
彼女らはどのくらいの実力者なのだろう・・・。
「じゃあ今日はリースに仕事仲間ができた祝いだな!」
「あ、ありがとうございます・・・。」
なんだか恥ずかしそうなリースさんだった。
正直、俺も巻き込まれているようなものだから、恥ずかしいな。
「リース! 仕事仲間ができたって本当?」
今度は後ろから鎧を着た女性がやってきた。
よく見ると、彼女の肩には鳥が止まっている。
「は、はい!」
「そうかー。 ついにやったかー。」
鎧の女性はニヤニヤしながら言った。
するとリースさんの兜の天辺をポンポンと2回ほど軽く叩いた。
そして俺の方を見て、腕を伸ばしてきた。
「私の名前は "マーガレット" 。」
「あっ、タカヤです!」
俺も腕を伸ばし、握手をした。
リースさんと違って、掌は柔らかい素材でできている籠手を着用していた。
すると、マーガレットさんの肩に乗っていた鳥が、俺の腕に止まり「ピピッ」と鳴いた。
「この子は "イブ" 。 私の相棒よ。」
「相棒・・・?」
「ええ。」
鳥が相棒とは正直疑問に思ったが、あまりそういうことは言わない方が良いな。
おそらく手品師とハトの関係みたいなものだろう。
イブは、俺の腕から彼女の肩に戻って行った。
「いやー、しかしあんた、リースの仕事仲間になるとはね。」
「え?」
それはどういう意味だ?
そう言おうとした前に、彼女が耳元で答えてくれた。
「(いやね、昔からリースは仕事仲間を欲しがってたんだけど・・・。 リースってちょっと・・・アレじゃない。)」
「(まぁ、そうですね・・・。)」
「(ほぼみんな、仕事に支障が出るかもって思って、誰一人彼女の仕事仲間にならなかったのよ・・・。)」
ははっ、まぁ正直その判断は正しいのかもしれない。
いや待て! 俺はまだリースさんの仕事ぶりを知らない。
勝手に決めつけるのはよくねえ。
今回だって、依頼はちゃんと達成していたし・・・。
「(ああっ! 言っとくけど、仕事仲間にならなかっただけで、よく仕事とかは一緒にやってたりしたわ。)」
「(・・・え? 仕事仲間にならなくても、仕事を一緒にやれるのですか?)」
「(え? なに当たり前のことを言ってるの?)」
マーガレットさんは少し困惑していたが、顎に手をやって少し考えだして、リースさんに質問をした。
「ねえリース。 もしかして、彼って新参?」
「はい。 今日の昼に登録しました。」
マーガレットさんは「えっ!!?」と驚き、向かいに座ってたグリフォスさんも「そうだったのか。」と言葉を口にした。
「なるほど、君には話さなければならないことが沢山ありそうね。」
マーガレットさんは鼻息をフンッとやった。
「まぁ、まずはさっきの質問の答えを言おうかな?」
「仕事仲間のことですか?」
「ええ。」
すると、マーガレットさんは近くの席に座って話し始めた。
「まぁ、仕事仲間っと言っても、その人たちと絶対に一緒に仕事をしなきゃいけない訳じゃないから安心してね。 あくまで、主に一緒に行動すると約束した人に対して使う言葉程度に思ってちょうだい。」
「?」
「やっぱり分かり辛いかな? まぁ、仕事仲間は「親友」、それ以外の人は「友達」みたいに思ってくれていいよ。」
正直、完璧には理解してないが、マーガレットさんが言おうとしている言葉はわかった気がする。
つまり今後、俺とリースさんは主に一緒に仕事をするようになるわけだな。
だが、別にグリフォスさんやマーガレットさんと仕事をしてもいいという訳だな。
「ごめんね。 説明苦手なのよ・・・。」
「いえ、よく分かりました。」
「そう? 良かった・・・。」
まぁ、そこまで重要ではない言葉だということは分かった。
「そうねぇ・・・。 他に説明することは・・・。」
「まあまあ。 そう一気に話しても覚えられるわけがないだろう。 少しずつで良いんだよ。」
他の説明をしようとしたマーガレットさんに、グリフォスさんが言った。
「まぁ、冒険者をやっていれば、自然と知識が身に付くはずだよ。」
「そ、そうですか・・・。」
まぁ、俺はまだ冒険者になりたてだし、依頼もやっていない。
今色々言われても困るだけだろう・・・。
「じゃあ、せめてギルドの仲間たちを紹介するわ。」
そう言ってマーガレットさんは周りを見渡した。
「あそこにいる『魔術師』が "ルーク" さん。 かなりのベテラン冒険者なの。」
遠くの席で、うたた寝をしている老人を指して言った。
白髪で白くて長い髭が、いかにも凄腕の魔法使いっぽい外見だ。
「あっちにいるのが "マッケンジー" 。 大型のハンマーを武器に使う『盗賊』よ。」
ルークさんとは反対側にいる、眼帯をしている怖そうな顔の男を指して言った。
盗賊は軽めの武器を扱う印象だったが、なぜハンマーなのだろう・・・。
まぁ、あれはフィクションだし、重量級の武器を扱う盗賊がいてもいいだろう。
「その横にいるのが "キーラ" 。 鎌を扱う『呪術師』よ。」
あのツインテールの少女だな。
下を向いているが、なんか上目使いでこっちを見ているような・・・。
あまり見ない方が良いな・・・。
「あっ! "ライラ" さんもいる。 上流階級のグランフォード家のお嬢さんなの。」
あの豪華な鎧を着た女性か。
確かにオーラが他とは違う感じがする。
あくまでそう感じるだけかもだけど・・・。
「で、あそこにいる弱そうなのが "スレイダー" 。」
「誰が弱そうだって!!?」
軽装備の男性が、マーガレットさんに向かって怒鳴った。
なぜ彼だけそんな言い方で紹介したのだろう・・・?
スレイダーさんは近づいてきた。
「聞こえていたぞ。」
「聞こえるように言ったもん。」
マーガレットさんは挑発するように言った。
そうか、この二人は仲が悪いのか・・・。
「一応言うがよ。 俺は依頼を失敗したことがねえぞ。」
「それは、あなたが簡単な依頼ばっかやってるからじゃない?」
「なんだと!!」
ああ、喧嘩が始まっちまった。
二人共すごい勢いで言い争っている。
「やれやれ、また始まったか。」
後ろにいたグリフォスさんが言った。
毎回こうなんだろうな。
すると、さっきスレイダーさんがいた位置から、犬が近づいてきた。
犬はリースさんの前に来て座り、尻尾を振り出した。
「 "クリス" 、元気だった?」
リースさんはクリスと呼ばれる犬の頭を撫でた。
クリスは「キュ~ン」という声を出して、リースさんに甘えてきた。
「この仔はクリス。 スレイダーさんの相棒です。」
リースさんが説明してくれた。
また相棒か・・・。
マーガレットさんと似た感じか。
だから仲が悪いのか?
するとクリスの頭の上に、イブが止まってきた。
喧嘩をするんじゃないかと思ったが、こちらは飼い主と違い、とても仲が良さそうだった。
ペットは飼い主に似るというがもしかしたら・・・。
「クリス、帰るぞ!」
喧嘩をやめたスレイダーさんが、クリスを呼んだ。
クリスはそれに従い、スレイダーさんと共にギルドを出た。
「はぁ~あ、また余計な体力を使っちゃったな~・・・。」
マーガレットさんは大きくため息をついて、腕を軽く回した。
「ごめん、先に帰るね。」
マーガレットさんはイブを肩に乗せ、ギルドを出て行った。
「悪いね。 見苦しいのを見せちゃって。」
「い、いえ・・・。」
グリフォスさんが苦笑いをしながら、謝ってきた。
「あんなだけど、アイツらは良い奴だし実力も十分あるから嫌いにならないでね。」
「は、はぁ・・・。」
そういうと、グリフォスさんは席を立ちあがった。
「じゃあ、俺も帰るよ。 二人共、明日は頑張ってな。」
「「は、はい!!」」
俺とリースさんは声をそろえて言った。
そして、去り行くグリフォスさんの背中を見送った。
「何か飲みます?」
リースさんが話してきた。
そういえば飲み会だったな。
だが、正直俺は今の一連の出来事が濃すぎて疲れてしまった。
「すみません。 ちょっと疲れちゃったので、先に帰ります。」
「そ、そうですか・・・。」
さすがにリースさんも、明らかにクラクラしている俺を見て分かってくれたようだ。
「私はもう少し、ここにいます。 先に寝ててもいいですよ。」
「ありがとうございます・・・。」
お言葉に甘え、俺はギルドを出て行った。
外に出ると、ギルドの中とは違いかなり静かで、虫の音が聞こえる。
今にも眠りそうになるくらい静かだった。
なんとか宿屋まで頑張って歩きだした。
たぶん、漫画だったら白目をむきながら歩いていただろう・・・。
宿屋に着き、急いで泊まる部屋まで歩いた。
風呂に入ろうか迷ったが、さすがに体力が限界だった。
もうこのまま寝てしまおう。
俺はベットの上に倒れ、そのまま寝てしまった。